リタイア女性4人組 イタリア「長靴のかかと」行き当たりばったり

  • 文・写真 藤原かすみ
  • 2018年9月4日

ロカ・ベッキアの岩浜

私たちヨーロッパに住むリタイア女性4人の旅は、いつも行き当たりばったりだ。一人はバロックなどの教会が好き、一人はギリシャ、ローマの考古遺跡や廃墟(はいきょ)が好き、一人は黒い服を着た老婆がいるひなびた村が好き、最後の一人はなんでもいける。今回は、ひなびた村が好きな一人が、なぜかプーリア州のレッチェに行きたい、と言い出した。映画に出てきて、「行きたい病」が進行したらしい。イタリアなら、どこへ行っても発見や感激があるので、皆、レッチェがどんなところか知りもせず、行こう行こう、となった。

<写真をもっと見る>

レッチェ旧市街のど真ん中にあるローマ時代の円形闘技場

長靴型をしたイタリアのかかとの部分、サレント半島にあるレッチェは、バロックの街として知られ、「南のフィレンツェ」とも呼ばれている。行ってみると、さすがイタリア、街のど真ん中に2世紀の円形闘技場があった。古くに都市化した街では、建設工事の時に初めて見つかる遺跡も多く、レッチェの闘技場も20世紀初めに4分の1が発見された。残りは教会やオフィスビルの下で眠りについている。

司教館、神学校(今は博物館)が並ぶドゥオモ広場とドゥオモ

レッチェのバロック建築は写真をご覧いただきたい。サンタ・クローチェ聖堂は修復中で、レースのようなファサード(正面)は見られなかったが、ほかの教会もまた見事である。精緻(せいち)な装飾が彫り込まれているのは、この地で採れる柔らかい石灰岩を使っているためだ。しかし、17、18世紀の繁栄を誇示する建築ばかりではない。裏通りにあるパラッツォ(豪邸)のいくつかは、修復されずに壁が朽ち果て、19世紀以降の都市の衰退を物語る。日中歩いているのは旅行者ばかりだが、旧市街を一歩外れると、アフリカからいつたどり着いたのか、黒人の若者の一群が日陰に座っていた。旧市街には盛衰の微妙な陰影があり、その外にはイタリアの今がある。

カルメル修道会のカルミーネ教会

レッチェはアドリア海から11キロ内陸にある。ここまで来たらアドリア海にひたってみたい。公共交通はないのでレンタカーを借りて海辺を走り、良さげなところで海に浸ることにした。人の多い砂浜を通り越し、レッチェから1時間ほどでロカ・ベッキアの岩浜に到着。少し泳いだ後、さらに南下して、城塞(じょうさい)都市オトラントを越え、もう一つの天然プール、マリーナ・セッラへと車を走らせた。対岸はアルバニア。もちろん見えないが、アドリア海は海の色が深い。

ヨットハーバーから見た城塞都市オトラント

今はヨットハーバーに囲まれた、ビザンチン時代の重要な港町オトラントは、旅行者がひしめく観光都市だった。小さな街なのに、ローマにあったとしても「見どころ」とされるような教会が2つある。「生命の樹(き)」の周りに聖俗の生活や最後の審判を描いた12世紀の床モザイクが圧巻の大聖堂、9、10世紀に建てられ、今もアラビア語や最後の晩餐の壁画が残るサン・ピエトロ教会だ。何も知らずに行っただけに、感激もひとしおなのである。

オトラントのサン・ピエトロ教会壁画

オトラントの大聖堂。初期キリスト教、ロマネスク様式が混在。正面入り口のみバロック様式

レッチェの観光案内所で写真を見て行きたくなった街がある。オストゥーニとロコロトンドだ。有名すぎて行く予定のなかったアルベロベッロは、ロコロトンドからバスで簡単に行けるとわかり、ついでに行ってみた。

オリーブ畑とアドリア海が見えるオストゥーニのカフェ

白い建物が丘を覆うオストゥーニ。てっぺんの教会は15世紀の大聖堂

オストゥーニはアドリア海が見える丘全体がこんもり白い家で覆われた町、ロコロトンドは平らな丘の上に白い家が、下からではわからないが、円状に並ぶ町。石灰を砕いて水で練ったものを塗っているので、家々の壁は真っ白だ。電車でロコロトンドに向かったが、到着の1時間ほど前から、おとぎ話に出てくる小人の家のようなとんがり屋根がオリーブ畑に散見されるようになった。アルベロベッロは、トゥルッリ(一つだとトゥルッロ)と呼ばれるこうした家が集中しているので知られるが、この辺り一帯の貧しい農家や納屋は皆このスタイルだった。耕せば出てくる石を積み上げただけの家は、領主が税金逃れをするため、王の査察があるたびに壊され、また積み上げられたという。とんがり屋根一つが1部屋なので、人が住む家はたいてい複数のトゥルッロが集まってできており、壁はやはり石灰で白く塗られている。

「美しい樹木」を意味する名のアルベロベッロ。1500のトゥルッリが集中している

日没後、レッチェに戻ると、人がたくさん出ていた。ライトアップされ、あめ色に浮き出たバロック建築の間を、夜風に吹かれて散策する。私たちのゆるーい一週間の旅は、こうしてゆったりと締めくくられた。

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!