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復元模写に注目したい、名古屋城の本丸御殿 城の御殿(1)

  • 文・写真 城郭ライター 萩原さちこ
  • 2018年9月3日

名古屋城本丸御殿、対面所の上段之間(提供 名古屋城総合事務所)

2018(平成30)年6月8日、9年間にわたる復元工事を終えて、名古屋城の本丸御殿が全面公開された。本丸御殿は、1945(昭和20)年の太平洋戦争の空襲で惜しくも焼失。もし現存していれば、おそらく国宝に指定されているであろう、日本を代表する近世書院造りの建造物だ。

一般的に、本丸御殿は城主の住まいと政庁を兼ねた場であることが多い。しかし名古屋城の本丸御殿は、徳川将軍が上洛する際に宿泊する特別な建造物だった。1616(元和2)年、名古屋城主となった徳川義直は本丸御殿に入ったものの、1620(元和6)年には二の丸御殿に移っている。1626(寛永3)年には、2代将軍徳川秀忠が上洛の折に滞在している。1634(寛永11)年に3代将軍徳川家光のため「上洛殿」が増築されると、本丸御殿は完全に将軍専用の宿泊所となった。将軍が寝泊まりする建造物ともなれば、贅(ぜい)が尽くされた最高格式の御殿であったのは間違いない。

復元工事は3期に分かれ、これまで第1期工事で「玄関」「表書院」が、第2期工事で「対面所」「下御膳所」が完成し、随時公開されていた。そして第3期工事で「上洛殿」などがついに完成し、公開された。

名古屋城本丸御殿の車寄(提供 名古屋城総合事務所)

復元された本丸御殿の大きな見どころのひとつが、復元模写された障壁画だ。御殿の襖(ふすま)や天板には、将軍家の御用絵師として名をはせた、狩野貞信や狩野探幽など狩野派の絵師によって、異なる題材の絵が部屋ごとに描かれていた。実は、これらの襖絵や天井板絵は空襲の直前に一部が取り外されて戦火を逃れ、そのうち1047面が重要文化財に指定されている。復元模写とは、これらの障壁画や写真資料をもとに、化学的分析を駆使して当時の絵師が使っていた素材や技法を研究・分析し、当時の色彩を忠実に再現したものだ。

題材だけでなく、色彩も異なる障壁画は、眺めているだけで楽しい。たとえば、玄関の「竹林豹虎(ひょうこ)図」は、虎や豹がじゃれ合ったり、竹林をかき分けたりする姿が力強いタッチで描かれている。背景の大部分に金箔(きんぱく)があしらわれ、謁見(えっけん)を待つ者を圧倒するようなインパクトがある。

玄関一之間北東面。玄関は一之間、二之間があり、一之間には床や違い棚もつく(提供 名古屋城総合事務所)

表書院一之間北面。表書院は広間とも呼ばれ、藩主と来客や家臣との公的な謁見の際に使われた。上段之間は、床も一段高く、付書院を備えている(提供 名古屋城総合事務所)

対面所に描かれているのは、やさしい色合いで庶民の暮らしや各地の風景を表現した「風俗図」だ。上段之間には、上賀茂神社の競馬や吉田神社の神事のようす、田植えの風景など京都の人々が描かれ、これに対して、次之間には和歌浦天満宮や津島神社、城下のにぎわいなど、義直の正室で紀州藩主浅野幸長の娘である春姫の故郷、和歌山の風景が描かれている。

名古屋城本丸御殿、廊下南東角から見た対面所。右が次之間、左が上段之間(提供 名古屋城総合事務所)

名古屋城本丸御殿、対面所次之間北東面。和歌浦天満宮や城下のにぎわいが描かれている(提供 名古屋城総合事務所)

名古屋城本丸御殿、対面所上段之間西北面。玄関と大廊下は竿縁(さおぶち)天井だが、表書院と対面所は格(ごう)天井、上段之間は二重折上小組格天井になっている(提供 名古屋城総合事務所)

上洛殿はとりわけ贅が尽くされ、荘厳な空間が広がっている。天井には板絵が飾られ、部屋の境には極彩色の彫刻欄間がはめ込まれている。細やかに仕上げられた、飾り金具も華やかな彩りを添えていてすばらしい。とくに家光の御座所となった上段之間は、息をのむほどの美しい空間が再現されている。障壁画は狩野探幽による「雪中梅竹鳥図」「帝鑑図」が見事だ。

将軍専用の浴室である湯殿書院に描かれた涼やかな「扇面流図」「岩波禽鳥図」も印象的で、思わず見入ってしまう。隣接する落ち着いた風情の黒木書院は、清洲城から移築した家康の殿舎とも伝わる。本丸御殿は総檜(ひのき)造だが、この部屋だけは松材が用いられており、その材木が真っ黒だったことから黒木書院の名がついたのだとか。襖絵もこの部屋だけは狩野派ではなく、色味を落とした水墨画が描かれている。

(つづく。次回は9月10日に掲載予定です)

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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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