「生きるレシピ」を探す旅 ―志津野雷―

旧大名家からの相談、柳川トリップでの小さな一歩

  • 文・写真 志津野雷
  • 2018年9月3日

暑い日々が続く。

それでおかしくなっているわけではないが、もしも、ぼくがカッパだったら、今すぐにでも地元・逗子の海に飛び込んで涼むだろうな……。

とはいえ、人間界で生活する身としてはそうもいかず、この暑さから逃げ出すのに、山梨の白州にきて文章を書いている。ぼくの旅のテーマの中の一つに「水の循環」がある。ここも素晴らしく水のきれいな場所だ。

今回は、今年の1月終わりにいただいた一通のメールのことから書き始めたい。

それは、水の郷(さと)、福岡の柳川からだった。

  

  

メールの送り主は、柳川藩主を祖先に持つ立花千月香さんだ。柳川の文化財に指定されている立花家の邸宅「御花」で料亭旅館を営んでいる。

400年の歴史と伝統を受け継ぎ自身が育った場所、柳川をよりよくしていきたいという相談を僕たち「CINEMA CARAVAN」にしてくれたのだ。

  

よくある話で地方には若い世代が少なくなり、行政も財政難。その危機感が生まれているというのはよく耳にするが、柳川もまさにそう。

彼女は家業の枠にとらわれず、柳川の住人たちがさらに地元の魅力に気づいていけば、もっといい場所になるのではないかと、地域の知恵や皆のアイデアを取り入れる“共感型”でコミュニティーのために活動している。

彼女の、この柳川に対する熱い気持ちの根源はなんなのか。それを知るために自分なりに少しだけ立花家の歴史を調べてみた。

  

  

まず登場するのは、義にあつかったとされる戦国武将・立花道雪。“道雪”の法号は「道に落ちた雪は消えるまで場所を変えない。武士も一度主君を得たならば、死ぬまで筋を曲げず尽くし抜くのが、武士の本懐である」との意味が込められているそうだ。

立花家は、江戸時代は藩主として柳川を治め、明治維新後は華族に。伯爵となるものの第2次世界大戦後の民主化政策による農地改革や財産税の影響で、多くの財産を失う。長い歴史を持つ立花家にとって、これはピンチだったはず。

千月香さんの祖母、文子は、立花家の邸宅を料亭に変えることで旧大名家が新しい時代に生き残るための道を切り開いた。苦難の時代、彼女の根底にあったのは、先代たちから受け継いだ「どんな時も動揺しない」という教えだったという。

今回相談を受けた千月香さんの情熱は、過去と向き合いながら未来を切り開いてきた立花家の伝統そのものだと感じることができた。

  

  

  

  

今もなお、時代は動いている中で、それぞれの地域が自立していく覚悟を持つことが求められているのかもしれない。

ぼくたちも柳川を訪れて歴史と伝統を持つ「御花」の素晴らしさを見せていただき、今の話を聞かせてもらった。お互いにこれからの価値観の話ができたと思う。

大きなことはできないかもしれないが、少しずつ歩み寄り、思いを形に変えていく。失敗を恐れずに行動にうつすことで次の課題が生まれ、自分の中にある無意識が表面に現れてくる。

それを少しずつ自分自身が理解すれば成長につながっていくのではないか。個々の成長が地域の成長にもなると信じている。

人の中にため込んでいる何かを勇気を出して伝えてくれただけでも、すでに物語は始まっているのかもしれない。

  

今回の写真には、たくさんのカッパが登場している。

全国に散らばるカッパ伝説。

そのうちの一つは柳川にもある。

ま、まさか!!……。

  

実は、ここ数年カッパとして生きていく覚悟を決めた、友人でアーティストの遠藤一郎も引き寄せられるように柳川視察に合流することに。

現実の世界にあらわれたカッパに、柳川の子どもからお年寄りまで「カッパが出た~」と想像以上の盛り上がり。歴史ある町の風景を絶妙な異世界へと変えてくれた。

ところで、彼がなぜカッパに変装しているかというと……。

例えばの話だが、世の中を平和にしたいとか、資本主義がどうとか、原発がいいとか悪いとか。そうしたことは、あくまで私たち人間の勝手な都合によるもの。動物や花などの自然界には関係のないことだと彼は考えた。

人として生きていくのではなく、それ以外の生き物(例えば妖怪)として社会が作った常識の枠から外れて今の世の中で生活したら、何か違うものが見えてくるのではないかと。そうした生活を実践する中で、枠から外れても自立して生きていくことはできると彼は気づいたのだという。

自分だってできたのだから他の人もできるはず。もしそれに共感できる人がいるならばと、「やればできる」というメッセージを胸にカッパとして現在も過ごしている。

今回の旅では、歴史を背負ってきた旧大名家と、移動式映画館を切り口に旅先で意識を共有する場を作り上げる我々「CINEMA CARAVAN」と、カッパとして生活し人が作り上げた常識をゼロに戻して意識の解除を実行しているアーティストが、柳川に集まった。

偶然だったのか必然だったのかはどちらでもいいが、歴史ある場所の未来を皆と確認することができた。小さな一歩は踏み出せたのかもしれない。

星降る町の映画祭 with CINEMA CARAVAN 2018

cinemafestival

 

三浦半島の先に位置する神奈川県立城ケ島公園で、「CINEMA CARAVAN」が総合演出を手掛ける野外映画祭が2日間開催される。志津野雷さんの監督作品を含む3作品が上映される予定。三浦市の食材をいかした料理を出す店や物販店、映画監督によるトークショー、椅子を作るワークショップなど様々なコンテンツが用意されている。
入場料は無料。週末旅の候補にいかがでしょうか?
日時:9月29日(土)、30日(日)11時~22時(予定)
HP:https://star-cinema-festival.com/

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PROFILE

志津野 雷(しづの・らい)

写真家、シネマ・キャラバン主宰、「逗子海岸映画祭」発起人。自然の中に身を置くことをこよなく愛し、写真を通して本質を探り、人とコミュニケーションをはかる旅を続ける。ANA機内誌『翼の王国』や、ロンハーマンなどの広告撮影を中心に活動。2016年初の写真集「ON THE WATER」を発売。

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