京都ゆるり休日さんぽ

白くミニマルな空間で味わうコーヒーと時間の豊かさ 「walden woods kyoto」

  • 文・大橋知沙
  • 2018年9月7日

大正時代の洋館をリノベーションしたカフェ

工芸や仏具の店が軒を連ね、職人気質のたたずまいを残す五条近辺。渋い街並みのこのエリアにひときわ異彩を放つ、真っ白な空間が現れました。シンプルでソリッドな外壁とは対照的に大きく開いたエントランスは、街の空気を取り込むかのようにオープンな雰囲気。そんな雰囲気に誘われて、このカフェ「walden woods kyoto(ウォールデン・ウッズ・キョウト)」には、次々と人が訪れます。

白で統一された空間は、コーヒーをいれる風景もすがすがしい

オープンは午前9時。五条駅からは徒歩6分、京都駅からでも15分という散歩に最適な距離のため、京都に着いて最初の目的地として立ち寄る人も少なくありません。着物姿の女性客、バックパックを背負った外国人、通勤途中の地元の人……。「ウォールデン」に集まる人々の多様さは、この店の開放的な雰囲気を象徴するかのよう。コーヒーを頼み、ランタンのあかりに導かれるように階段を上ると、自由で心地よい空気の源ともいえる空間が広がります。

固定席のない真っ白な空間には、開放的な空気が流れる

この店には、テーブルも椅子もないのです。足元から天井まで真っ白に塗られた空間に、階段状のベンチが設けられているだけ。客は、好きな場所に座り、飲み物をかたわらに置いて思い思いに時を過ごします。目の前の公園の緑を額縁のように切り取る窓だけが、この真っ白な空間と外の世界とをつなぐ場所。何もない空間で、武骨な梁があらわになった天井や、ランタンのあかりを眺めながらコーヒーを飲んでいると、遠い山奥の小屋に迷い込んだような気分になってきます。

ウォールデンブレンド(400円)とグラノーラバー(250円)。いずれも税込み

ビンテージのドイツ製焙煎(ばいせん)機でローストされるコーヒーは、深煎り文化の京都では珍しい、浅煎り。キリリと酸味が立ち、フレッシュな風味とすっきりとした後味は、コーヒー豆が果実であることを思い出させてくれます。また、スパイスをひくところから始める自慢のチャイは、目の覚めるような香りと内側から体を温めるパワーに満ちた一杯。凝縮された自然の恵みを口にしているような感覚も、山小屋で飲むというイメージに重なります。

5種のスパイスで作るチャイ(600円・税込み)

「森の中で心のままに暮らし、朝もやの中、月を見上げてコーヒーを飲む……。広大な自然の中に一人でいると、誰に見られることも、何かを強制されることもない自由を感じます。そんな静かで濃密な感覚を、この空間で感じてもらいたい」。そう話すのは、「ウォールデン」を手がけたクリエーティブディレクターの嶋村正一郎さん。アパレルのデザイナーを務めながら約20年間をフランスで過ごし、現在は滋賀の山奥で、自然に囲まれた暮らしを営んでいます。

音楽も嶋村さんが時間帯や季節に合わせてセレクト

この白い空間のイメージソースは、嶋村さんの敬愛する作家、ヘンリー・D・ソローの代表作『ウォールデン 森の生活』から得たもの。ウォールデン湖のほとりで自然とともに生きるソローの暮らしに感性を重ねるうちに、その自由さを京都という街の中で体現する手段として、土や木の色ではなく「白」を選んだそうです。入り混じる街の色彩から、心をプレーンでフラットな状態へと導く狙いがあるといいます。

ランタンの置かれた階段を上って客席へ

色も、文字も、機能も情報もない白い空間は、意識を必然的に“そこにある”ものに集中させてくれます。ランタンのあかりのゆらぎ、窓枠のクラシカルな線と木漏れ日の美しさ、目の前の相手との会話、口に含むコーヒーの味。何もないという不自由さは、取り囲まれていた情報の多さから心を解放する、自由な感覚へのステップです。

60年代の焙煎機「プロバット」が存在感たっぷり

都会的なカフェの印象からは想像もつかない、山小屋で過ごすような自由で濃密な時間。ソローの物語を知らなくても、「森」や「自由」といったコンセプトを意識していなくても、ここで時を過ごした後は、ふと心が軽くなる自分に気が付くはずです。白い森の中で、一杯のコーヒー以外何もないという豊かさを、ぜひ味わってみてください。(撮影:津久井珠美)

【walden woods kyoto(ウォールデン ウッズ キョウト)】
https://www.walden-woods.com

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PROFILE

大橋 知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブック、カフェ、雑貨などのムック本・書籍を中心に取材・執筆を手がけるほか、手仕事や印刷の分野でも書籍の編集に携わる。主な編集・執筆に『恋するKYOTO雑貨』(成美堂出版)、『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

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