にっぽんの逸品を訪ねて

黒酢の美味ランチと森の中の温泉宿で元気に 鹿児島県霧島市

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2018年9月11日

霧島温泉郷にある旅行人山荘の「赤松の湯」

NHK大河ドラマ『西郷(せご)どん』で注目される鹿児島県を訪れた。空港や駅には番組の大型ポスターが張られ、地元の人たちと会話しても「主人公役の俳優さんの鹿児島弁はうまか」とついドラマの話題に。南国らしい明るい土地柄に、今年はいっそう活気を感じる。

鹿児島のシンボルといえば桜島だ。錦江(きんこう)湾にある、北岳と南岳の2つが合わさった複合火山で、今も噴煙を上げている。

噴火のニュースで見る桜島は荒々しい印象だが、青空を背にした姿は穏やかだった。悠然とそびえ、ふもとを温かく見守るような姿は西郷さんのイメージに重なる。

有村溶岩展望所から見上げる桜島

桜島を望んで壺畑が広がる黒酢の里

桜島から向かったのは、錦江湾の北東側に広がる霧島市。市内の福山町と隼人町では、江戸時代から200年以上の歴史がある壺(つぼ)造り黒酢が生産されている。

屋外に並べた壺の中で、糖化、アルコール発酵、酢酸発酵の三つの工程をすべて行う製法は、世界的に見てもめずらしいという。“長年培われた品質と社会的評価を持つ地域産品”として、「鹿児島の壺造り黒酢(以下黒酢)」の名称で、農林水産省の地理的表示(GI)登録産品となっている。

蔵元の1軒である坂元醸造では、壺畑の一つに、歴史や製法を紹介する情報館とレストランを併設し、“坂元のくろず「壺畑」情報館&レストラン”として黒酢の魅力を発信している。

一面に壺が並ぶ坂元醸造の壺畑

「ここ福山町は、三方を丘に囲まれ、南は錦江湾に面し、一年を通じて温暖な気候に恵まれています。発酵に適した気候と豊富な米、良質な地下水、さらに薩摩焼の壺も多く手に入ったという要因が重なって、壺造り黒酢の発祥の地となりました」と情報館の方が解説してくれる。

長い歴史の中で、最盛期は24軒あった醸造所が、安価な合成酢の流通や戦争の影響による米不足で次々と廃業。ついに1軒になった坂元醸造では、戦争中も米の代わりにサツマイモを使用し、伝統の壺造り製法を受け継いだという。現在は黒酢造りも復活し、坂元醸造を含め8社の製品がGI登録されている。

黒酢造りの原料は、蒸し米、米麹(こうじ)、地下水のみ。これを屋外に並べた陶器の壺に入れ、自然に発酵させるのだが、職人がひと壺ひと壺を見回る。目で見て、耳で音を聞き、発酵が進んだら攪拌(かくはん)作業を行う。これを繰り返し、発酵に6カ月以上、熟成に6カ月以上、合計で1年から5年もの歳月をかけて黒酢ができあがる。熟成期間が長いほど、色が濃くなる。

熟成年数で色が変わる

黒酢を使ったヘルシーでおいしい料理

くろずレストラン「壺畑」のメニューには、黒酢がたっぷり使われている。

一番人気の「彩りランチ」は定番の酢豚を中心に、食前酢や特製くろずたれで食べる点心3種盛り合わせ、黒酢ドレッシングのサラダなどが並ぶ。

どれもほどよく酸味が効いて、食欲をそそる。黒酢は、長期熟成による濃厚でありながらまろやかな酸味が特徴だ。一般の米酢と比べて材料の米の量が約5倍と多いことから、アミノ酸などの含有量も多いという。

酢豚や点心が並ぶ「彩りランチ」

黒酢の酸味とラー油の辛みが絶妙なバランスの酸辣湯麺(サンラータンメン)や、黒酢とレモンで爽やかな味わいのデザート「くろず入り愛玉ゼリー」などもある。

すっぱくて辛くておいしい酸辣湯麺

温泉天国の霧島。坂本龍馬ゆかりの温泉も

鹿児島県は、温泉の源泉数が大分県に次ぐ全国2位、湧出量も全国3位(2015年度温泉利用状況:環境省)。特に霧島市は北部に火山群の霧島連山がそびえており温泉が豊富で、各温泉地ごとに硫黄泉や炭酸水素泉など泉質が多彩。川沿いや高原など景色も変化に富んでいる。

新川渓谷温泉郷には、坂本龍馬とお龍が合計18日間も滞在した塩浸(しおひたし)温泉がある。1866(慶応2)年、京都で起きた寺田屋事件で負傷した坂本龍馬は、西郷隆盛や小松帯刀(たてわき)のすすめで新妻お龍とともに薩摩へ脱出。霧島を旅しながら温泉療養をしている。これが日本初の新婚旅行だといわれている。

龍馬が訪れた当時は石坂川の両岸にいくつかの宿が立ち並ぶ温泉地だったそうだ。現在は塩浸温泉龍馬公園として整備され、2つの源泉を引く日帰り温泉施設や龍馬が入ったとされる湯船、龍馬の像などがある。

塩浸温泉龍馬公園に立つ龍馬とお龍の像

四つの貸し切り風呂が人気の旅行人山荘

この日の宿は、霧島温泉郷の丸尾温泉にある旅行人山荘。標高700メートルに広がる約5万坪の森に立ち、見渡す限りの大自然だ。眺望もよく、晴れていれば、客室やレストラン、大浴場の露天風呂など、館内のいたるところから錦江湾や桜島が見える。

「木立に囲まれているので、人工的な音はほとんど聞こえません」とスタッフの方。庭では野生のシカを見かけることもあるという。

窓の外に緑が広がる静かな高原の宿

宿には、露天風呂付きの大浴場のほかに四つの貸し切り露天風呂もあり、霧島の温泉の豊富さを実感できる。

自家源泉が2種類あり、無色透明の単純温泉は自然湧出(ゆうしゅつ)する湯を湯船にかけ流しで注いでいる。もう一つは乳白色の単純硫黄温泉で、高温で噴出する蒸気に敷地内の湧き水を加えて温泉にしている。大浴場は内湯が単純温泉、露天風呂が硫黄温泉だ。

森の小みちを歩いて「もみじの湯」へ

人気なのが、四つの貸し切り露天風呂(宿泊者は1回45分無料。空いていれば2回以上の利用も可)。館内にはバリアフリー構造の「鹿の湯」(硫黄温泉)があり、屋外に「赤松の湯」(硫黄温泉)と、「もみじの湯」「ひのきの湯」(単純温泉)が造られている。

木立の間から差す朝日とともに湯船につかる

屋外の貸し切り風呂は、すっぽりと森に囲まれ、自然と一体になったかのようだ。朝は森の木漏れ日を、夜は都会では考えられないような静寂を楽しみながら、温泉に身をひたすと体の先から疲れが抜けていく。

黒酢と温泉、そして雄大な自然に心身ともにいやされる霧島の旅だった。

【問い合わせ】

坂元醸造
http://www.kurozu.co.jp/

塩浸温泉龍馬公園
http://www.kagoshima-kankou.com/guide/50892/

旅行人山荘
https://ryokojin.com/

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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