巨匠ブリューゲルが眠るフランダース芸術の宝庫ブリュッセルで楽しむベルギーフレンチ

  • アートと美食で旅するベルギー・フランダース地方(4)
  • 2018年9月14日

ベルギーの首都であり「ヨーロッパの首都」とも呼ばれるブリュッセル。世界遺産にも登録されている歴史的な街並みが残された美しい都市です (c)ベルギー・フランダース政府観光局

<「フランダースの巨匠たち」の時代を伝える街ブルージュから世界へ羽ばたく三ツ星店から続く>

「フランダースの巨匠たち」と呼ばれるルーベンス、ブリューゲル、ファン・エイクの傑作を鑑賞し、美食に舌鼓を打つベルギー・フランダース地方の旅。巨匠ブリューゲルが眠るベルギーの首都ブリュッセルにやって来ました。

文豪が「世界一美しい広場」と称賛した世界遺産「グランプラス」はブリュッセルのランドマーク的存在。旅行者が必ず訪れる場所です。(c) Visit Brussels - Eric Danhier

ブリュッセル散策のスタート地点は、文豪ビクトル・ユゴーが“世界一美しい広場”と表現した世界遺産「グランプラス」から。13世紀に市場だった広場は、道が四方に延び、観光スポットへとつながっています。

今年は7月4日と7日に開催された、中世の衣装をまとった人たちがパレードを披露する伝統的なお祭り「オメガング」や2年に一度、広場全体がベゴニアなどの花で埋め尽くされる「フラワーカーペット」(2018年は8月16~19日に開催)、毎年11月最終週末から年始まで開かれるクリスマス・音と光のショーなど、ベルギーを代表するイベントの舞台となっています。

今年の「フラワーカーペット」は、メキシコの先住民のデザインを花で再現した=ブリュッセル、朝日新聞社・津阪直樹撮影

今回巡ったフランダース地方の穏やかで美しい街を経て、首都の広場グランプラスに立つと、あぁ、都会。ブリュッセルでは公用語がオランダ語とフランス語。英語もかなり通じます。また、ブリュッセルはEU(ヨーロッパ連合)やNATO(北大西洋条約機構)の本部を擁しているため、“EUの首都”と呼ばれる国際都市。

EU(欧州連合)の主要機関のひとつである「欧州議会」。ブリュッセルはヨーロッパの政治の中心地でもあります (c) visit.brussels - Jean-Paul Remy

街の空気になじむには、まず腹ごしらえから。そういきたいところですが、超豪華なフレンチから街の食堂やストリートの屋台まで店の形態もさまざま。料理のジャンルだってベルギー料理からフランス、北欧、スペイン、中東、中華、東南アジア、和食、すしやラーメン店まで、なんでもある。ブリュッセルでとっておきの一軒を選び出すのはなかなか難しい。

そんな私に貴重なアドバイスをくれたのは、ブルージュ(ブルッヘ)郊外の三ツ星店「ヘルトフ・ヤン」オーナーシェフのヒェルト・デ・マンガレールさんです。シェフいわく、超弾丸(私の場合、滞在日数が短かったのです)でブリュッセルを味わうなら、ポイントは以下の2点。

グランプラスの周辺は食べ歩きも楽しい。ストリートで売っている観光客向けのワッフルは、インスタ映えするトッピングがモリモリです

ひとつは、フランス色の強いベルギーフレンチの、食を芸術の域に高めたファインダイニング。これまで巡ってきたアントワープ、ゲント(ヘント)、ブルージュの場合、新しいベルギー料理を創造しようとしたり、地元の生産者と連携して地産地消に取り組んだり、郷土料理に光を当てたりと、「フランダース」を前面に出すレストランが中心でした。けれどもフランス語が公用語のひとつでフランスと距離の近いブリュッセルには、フランダースの都市とは異なるタイプのレストランも多いのです。

2点目は、ベルギーらしい大衆料理。ベルギーといえば思い浮かぶムール貝やフリッツ(フライドポテト)、ワッフルなどは、ブリュッセルに限らずベルギーのどこでも味わうことができます。けれどもフランダース各地では、たとえばムール貝なら地元の人向けのカジュアルなレストランで、家族や友人と分け合うファミリースタイルで提供されるのが一般的で、旅行者としては気後れする。ところが観光客に慣れているブリュッセルでは、名物料理が一人前ずつセットになったメニューが用意されていたり、週末や夜遅くまで営業していたりと、旅行者にとって行きやすいのです。

「ラ・ヴィラ・エミリー」の美しいダイニングはドレスアップして訪れたい。メニューはフランス語のみですが、日によって英語を話すスタッフもいます

ポイント1の、ブリュッセルらしいベルギーフレンチを味わえるファインダイニングとして私が訪れたのは、ミシュラン一ツ星を持つ「ラ・ヴィラ・エミリー」。伝統的なレシピにのっとったクラシカルなベルギーフレンチと、フランスを中心にヨーロッパの充実したワインコレクションを楽しめるレストランです。

ファインダイニングらしく、2階はゴージャスなシャンデリアが輝き、真っ白なテーブルクロスをかけられた食卓にキャンドルがゆらめくロマンチックな空間。ドレスコードはスマートカジュアルですが、タキシードやカクテルドレスでドレスアップしたゲストが大半です。

一方、1階はオープンキッチンに面したカウンターで、ドレスコードはなし。カジュアルな服装のさまざまな国から来たおひとり様もいて、旅行者でも入りやすいのがありがたい。基本的にコース料理のお店ですが、こちらではアラカルトも注文できます。

「ラ ヴィラ エミリー」のメイン料理は魚と肉のチョイスで、私は魚料理を選びました。本日の魚料理は白身魚のソテー、季節のキノコ添え。キノコとワインのソース。しっかりしたソースが特徴です

コースは3皿と5皿の2種類。私が選んだ3皿は前菜・メイン・デザートというオーソドックスな構成です。シャンパーニュは「ルイナール」、水は「シャテルドン」というのもフレンチらしい。パンは自家製で、ディナータイムの営業前に毎日焼き上げるバゲット。料理のソースはバターや塩をしっかりきかせた味わいで、それと合わせてパンを食べ進められるよう、パン自体はシンプルに仕上げていました。

「フリチュール・ルネ」で味わったベルギー名物ムール貝。通常の一人前の1.2kgを減らしてもらって700gに。それでも食べ応えは抜群です。ベルギーらしくビールの品ぞろえも充実していました

ポイント2の、大衆食堂として訪れたのは繁華街から路線バスでちょっと行った下町にある「フリチュール・ルネ」。ギンガムチェックのテーブルクロスがかけられた昔ながらのスタイルの食堂で、ムール貝もさることながら、揚げたての自家製フリッツが大人気とか。お目当てのムール貝は、定番のビール蒸しや白ワイン蒸しのほか、シンプルな塩蒸しやクリームソース、トマトソースといったバリエーションも。これを「ムール貝に合わせて開発した」というオリジナルのビールと楽しめます。

熱々のフリッツはおかわり自由。揚がるたびにスタッフが各テーブルを回ってどんどん足してくれるので、もうお腹いっぱい! ファインダイニングとはまた違うベルギー美食を満喫しました。

宿泊したおしゃれなブティックホテル「ザ・ドミニカン」の朝食ではブリュッセル・ワッフルの焼きたてが登場。ベルギー名物ワッフルは滞在中に必ず食べたいメニュー

それにしても。シェフやホテルのコンシェルジュはさておき、ショップ店員やタクシー運転手、ボートツアーガイドまで、食べることを語らせたら止まりません。美食は彼らの遺伝子に組み込まれているという話まで聞きました。そんな食べることが大好きなベルギー人のライフスタイルは、巨匠ブリューゲルの傑作のひとつ「農民の婚宴」にも描かれています。フランダース地方の郷土料理や、ベルギーの国民的飲みもののビールに顔をほころばせる農民たち。中世の時代から、ベルギーの人々は食べることに情熱的だったのですね。

ブリュッセル王立美術館では、「フランダースの巨匠たち」の作品を鑑賞できます。(c)ベルギー・フランダース政府観光局 ブリュッセル王立美術館

美食の都であるブリュッセルは、芸術の中心地でもあり、80以上の美術館や博物館があります。「フランダースの巨匠たち」とも縁が深く、なかでも来年に没後450年を迎え、様々な記念イベントが企画されているブリューゲルは、「王立美術館」に「ブリューゲルの間」があったり、妻とともに埋葬されたノートルダム・ド・ラ・シャペル教会に記念プレートや像があったりと、ゆかりの場所がたくさん。郊外まで足を伸ばせば、絵画に描かれたスポットをつなげた「ブリューゲル街道」や「ガースベーク城」で、ブリューゲルが見て描いたフランダースの原風景が体験できるそうです。

ブリューゲル没後450年にあたる2019年は、一年を通じてブリューゲルにフォーカスした企画が展開されます。「フランダースの巨匠たち」のアートと美食を楽しみに、フランダース地方に出かけてみませんか。

ベルギー国内の移動は鉄道で。時間を有効活用すべく、ホテルが用意してくれた朝ごはんパックを車内で。座席間が広くてテーブルがあり食事も取りやすい

■取材協力
ベルギー・フランダース政府観光局
フィンエアー
レイルヨーロッパ

     ◇

ブリュッセルをスタート/ゴール地点に設定した今回のフランダース地方をめぐる旅で、移動手段として頼りになったのが鉄道。ベルギー国鉄の路線網は、現在総延長3000km超とベルギー全土をカバーしていて、主要な都市には列車で簡単にアクセスできる。日本から空路でベルギーに行く場合、ブリュッセル国際空港に到着するが、空港ターミナルの地下1階には駅があり、高速鉄道やローカル線が乗り入れている。空港からブリュッセル中央駅までは、乗り換え不要で所要時間は約20分だ。

今回訪問したアントワープ、ゲント、ブルージュの各都市へも列車で移動した。これらの主要な都市へは列車の本数も多く、遅延もあまりない。時刻表や運行状況はベルギー国鉄のアプリが使いやすい。車内は清潔かつ安全で、グループツアーではなく個人旅行でも無理なく4都市を周遊できた。

フランダース地方の各都市は公共交通機関が充実していて、各都市の中央駅には英語で対応可能なツーリスト向けインフォメーションセンターが設置されている。到着したら、インフォメーションセンターに立ち寄り、駅前から発着するトラムか路線バスを利用する。乗車券は駅やアプリで1回ごとに購入することも可能だが、ベルギー国鉄の乗車券やパスは、「レイルヨーロッパ」の日本語ウェブサイトから日本国内であらかじめ購入しておくと便利だ。

アートと美食の旅inベルギー・フランダース地方 旅の行程
ブリュッセル空港駅
(鉄道:乗り換え0回・約30分)- アントワープ中央駅〈ルーベンス:聖母大聖堂、ルーベンスの家〉〈美食:The Jane〉

(鉄道:乗り換えなし・約1時間)− ゲント・シント・ピータース駅〈ファン・エイク:聖バーフ大聖堂、ゲント美術館〉〈美食: Chambre Séparée〉

(鉄道:乗り換えなし・約30分)− ブルージュ駅〈ファン・エイク:グルーニング美術館〉〈美食: Blackbird、Bistro Bruut、Chocolate Brothers、Hertog Jan(※2018年末閉店予定)〉

(鉄道:乗り換え0回・約1時間)− ブリュッセル中央駅〈ブリューゲル:ブリュッセル王立美術館〉〈美食: La Villa Emily、Friture René〉

江藤詩文(えとう・しふみ)

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト。これまで日本発着のクルーズのほか海外発着のフライ&クルーズ、リバークルーズなどを取材。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道〜乗っ旅、食べ旅〜」全3巻(小学館)など。

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