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中田英寿 福島を旅する<#06> 来ました、福島。―「復興と芸術」[PR]

  • 2018年10月26日

故郷の里山を9万9千本の桜でいっぱいにして、子どもたちに残そう——。いわき市で今、とてつもなく壮大な計画が進められている。その名も「いわき万本桜(まんぼんざくら)プロジェクト」。世界で活躍するアーティストも名を連ねるプロジェクトの舞台を訪ねた。

福島出身のアーティストとのコラボを考えたら面白いのではないか。神社で鳥居を奉納するように、この回廊も寄贈できる仕組みがあれば——。次々飛び出す中田さんのアイデアに、志賀さんも感心しきり

見渡す限りの桜の里へ 250年のプロジェクト

いわきの人々の切なる思いが集まり、「いわき万本桜プロジェクト」がスタートしたのは、東日本大震災から2カ月後のことだった。活動の中心を担うのは、志賀忠重(しが・ただしげ)さん。今年、開高健ノンフィクション賞を受賞した川内有緒(かわうち・ありお)さんの「空をゆく巨人」のなかに、「いわきのすごいおっちゃん」として登場する人物だ。

現在は会社経営の第一線を退き、プロジェクトに専念している志賀さん。「今はここに、生涯働ける老人ホームをつくろうと考えているんです」

目指す場所は、田んぼを見下ろす高台にあった。そこから先にはまるで龍のように、全長約160メートルの木の回廊が上へ上へと伸びている。入口の看板には「いわき回廊美術館」の文字。壁の展示物に見入っていた中田英寿さんが、1枚の写真の前で足を止めた。

「これも蔡(さい)さんの作品ですか?」

志賀さんが、ええ、とうなづく。

「『いわきからの贈り物』という、世界各地で展示された作品です。展覧会の度に、私らいわきチームも現地に行って組み立てを手伝うんです。蔡さんは、一緒に遊びたいだけかもしれないけれどね」

いたずらっぽく笑うと、志賀さんは盟友・蔡國強(さい・こっきょう)さんと、ここに美術館をつくった経緯を話してくれた。

回廊美術館の入場は無料。活動を応援したいという方は、入口の募金箱にぜひ心づけを

中国・福建(ふっけん)省出身の現代美術家、蔡國強。いわきを第二のふるさとと語り、現在はニューヨークを拠点に世界中で創作活動を続けている。

今から30年前。筑波大学の留学生で、駆け出しのアーティストだった蔡さんは、いわきの画廊で個展を開くチャンスを得た。その時、志賀さんが絵を購入したのをきっかけに、ふたりは友人になる。そして、その友情は、蔡さんが世界に羽ばたいた後も続いた。

7年前の震災の時、蔡さんはすぐさま、いわきに駆けつけた。「万本桜プロジェクト」の話を聞き、美術館をつくろうと提案してくれた。

10月から翌年5月までは月に1度、植樹会を実施している。植樹はひとり1本限定。現地に行けない場合には、委託することもできるという

「桜を植樹するには、元々ある木を伐採する必要があるんです。震災前は、間伐材が一反歩あたり5〜6万円で売れたんですが、震災後は、値崩れしてしまって。赤字だよと言ったら、それならその木材で建てましょうと。手入れも楽だからということで、回廊形式になりました」

蔡さんのスケッチをもとに、総勢400人の有志が、半年かけて建設。現在、敷地内には、4つの蔡作品が展示され、周囲には、志賀さんらボランティアが自作した屋外ステージやツリーハウス、ブランコなどが点在。現在も、カフェスペースや、図書室などを建て増し中だという。

回廊を登った丘にある自然の樹を生かしたブランコ。SNSで広まり、県外からも多くの人がブランコ目当てで訪れるという

志賀さんの強いすすめで中田さんもブランコに挑戦。崖から飛び出すような浮遊感に「想像以上に面白いですね」と笑顔

桜は年間400〜500本を植樹しており、現在までに4000本を数える。とはいえ、まだ目標の25分の1。このペースでは、約200〜250年はかかるでしょうねと志賀さんは笑う。

「将来的にはね。目の前の田んぼを取り囲むように、桜でいっぱいにしたいと思っているんです」

志賀さんの指差す先を見て、「最高の景色ですね」と中田さんが言う。

「ずっと進化し続ける美術館というのも面白いですし、多くの人の思いが詰まった場所だけに、もっとたくさんの人に知ってもらえる仕組みを考えてみるのはどうでしょう?」

「田んぼが美しい場所だから、秋の収穫祭を開催したらどうでしょうか」

囲炉裏(いろり)を囲んで、ふたりの作戦会議は日が暮れるまで続いた。

回廊を登りきった高台には24年前、志賀さんをはじめ、いわきの人々が創作に参加した、初期の蔡作品「廻光(かいこう)—龍骨(りゅうこつ)」が置かれている

●いわき回廊美術館
福島県いわき市平中神谷地曾作7
●いわき万本桜プロジェクト
http://www.siga.co.jp/iwakicherry/cherryindex.html
●いわき万本桜info(twitter)
https://twitter.com/99000_sakura

福島県の東南端。茨城県のお隣に位置するいわき市。太平洋側には約60kmの海岸線が続き、内陸部には中山間部、中央に都市部と3つのエリアからなる町は、夏涼しく冬温暖な過ごしやすい気候。豊かな自然と都市の利便性がほどよく溶け合い、豊かな文化、多彩な魅力にあふれている

    ◇

中田英寿(なかた・ひでとし)

1977年山梨県生まれ。ドイツW杯を最後にプロサッカー選手を引退した後、世界各地を歴訪。日本全国47都道府県を巡る旅を経て、伝統文化・工芸を支援するプロジェクト「REVALUE NIPPON PROJECT」を立ち上げる。15年には、株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANYを設立。日本酒の魅力、楽しみ方を国内外に発信する活動に取り組む。

◆福島県公式Facebook

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