京都ゆるり休日さんぽ

色と香りとアンティークが物語を奏でる料理店「Maker」

  • 文・大橋知沙
  • 2018年10月12日

扉を開けたその先に、待ち受けるのは大きな1台のテーブルと、まるで映画の中に迷いこんだかのような空間。洛西の街・西院に昨年オープンした「Maker(メーカー)」は、店に入った瞬間から食事を終えてお皿に残ったソースの跡を見つめるその時まで、鮮やかに記憶に焼きつくドラマチックなダイニングです。

大きなテーブルや武骨な天井、むき出しの配線が印象的

店に入ったら、訪れた人はまず、天井から足元までぐるりと空間を見渡さずにはいられないでしょう。武骨なコンクリートの構造があらわになった天井に、張り巡らされた赤い照明のコード。中世ヨーロッパの絵画を思わせるような大勢で着席するテーブルの向こうには、ステンレス製のキッチンではなく、壁も作業台も真鍮(しんちゅう)で仕上げた厨房(ちゅうぼう)が味わい深い光を放っています。ゲストの視線を遮るものは何もないオープンな厨房で、鮮やかな手さばきで料理を仕上げていくのは店主の吉岡慶さん。この空間のデザインも、施工も、そして独学で身につけた料理も、すべて吉岡さんが思い描く世界をかたちにしたものです。

オープンな厨房で、臨場感たっぷりに料理が作られる

「訪れた人が全員で大きなテーブルを囲んで食事する風景や、厨房とダイニングがボーダーレスで空間を共有できること、好きで集めていたアンティークの食器やミリタリーの品々。明確な世界観があったというよりは、自分が好きな食事の風景や内装の要素を一つひとつ積み重ねていった先に、この店ができあがりました」

奥の食器棚にはアンティークのうつわやグラスがぎっしり

そう語る吉岡さんの隣で、「でも、構想だけで数年、施工を始めてからオープンまでは3年もかかったんですよ」と笑うのは、一緒に店を営む妻の麻美さん。もともと大学で彫刻を学んでいた吉岡さんは、あらゆる素材を使ってものづくりすることに慣れていたそう。加えて、人一倍凝り性で、実現したいイメージに向けて妥協しない性格。デザインだけでなく自ら手を動かし、時に立ち止まり、後退と前進を繰り返しながら、コツコツと自身の「作品」とも言える店を作り上げてきました。「作る人」を意味するシンプルな店名も、そんな背景から名付けられたのだそうです。

ひと皿ずつ違うテーブルセッティングにも心が躍る

居合わせた人々と大きな一つのテーブルを囲み、アンティークの皿にカトラリーとグラスがセットされた席に着くと、物語の幕が開くような高揚感で胸がいっぱいになります。厨房に立つ吉岡さんの姿を眺めながら、肉の焼ける音やスパイスの芳しい香りに五感を働かせる。画家が仕上げの絵筆を入れるかのように、できあがった料理にハーブやスパイスを散らす様子は、おいしくなる魔法がかけられていくような光景です。

前菜メニューのひとつ「焼きなすとぶどうのバルサミコマリネ」(1300円・税込み)

「見たことのない食材ほどワクワクするんです」と言う吉岡さんの料理は、旬や珍しい品種の野菜を生かすことから発想し、色、香り、食感といった五感に訴える要素を立体的に組み立てていきます。「焼きなすとぶどうのバルサミコマリネ」は、とろりと焼き上げたなすと芳醇(ほうじゅん)なぶどうをバルサミコ酢であえ、アニスブッシュバジル、すだちピールで香り付けした前菜。とろける食感にぶどうの豊かな果汁があふれ、鼻に抜けるエキゾチックなアニスの香りが記憶に残るひと品です。

「京赤鶏の薫製」(2500円・税込み)。2〜3人でシェアできるボリューム

豊富な自然派ワインに合う肉・魚料理から、この日は「京赤鶏の薫製」を。ウッドチップでいぶしたスモーキーなチキンを、その時々で変わる付け合わせと一緒にいただきます。写真は、自家製ジンジャーシロップのキャロットラペと、レンコンのグリルにヨーグルトカルダモンソースを添えて。スパイスやハーブ、フルーツを積極的に使い、調和とサプライズを巧みに取り入れた料理は、ソースのひとしずくまで味わいたくなるような余韻に満ちています。

店内のあちこちにドライフワラーが飾られている

「食べ終わった後のお皿の風景が好きなんです。一人ひとり違って、空になったお皿に満たされた空気が漂っていて……。そんな物語を感じてもらいながらも、気負わず、食堂のように気軽に立ち寄れる場所でありたい。家族の食堂のような店になれたらと願っています」と麻美さんは話します。

元質屋だった空間を3年かけてリノベーション

美しい物語の一幕を味わうかのように、料理の最後のひと口、空間のすみずみまで心満たされるレストラン。夢見心地でごちそうを食べ終えたその後に、じんわりとあとを引く香りや味わい、テーブルを囲んだにぎやかな時間の記憶が反芻(はんすう)され、きっとまたすぐにこの店を訪れたくなるでしょう。足を運ぶたびに、Makerで味わう物語が家族の食事の風景の一つになる。物語への扉は、日常のすぐそばに開かれています。(撮影:津久井珠美)

【Maker】
https://www.makerkyoto.com

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PROFILE

大橋 知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブック、カフェ、雑貨などのムック本・書籍を中心に取材・執筆を手がけるほか、手仕事や印刷の分野でも書籍の編集に携わる。主な編集・執筆に『恋するKYOTO雑貨』(成美堂出版)、『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

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