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毛利元就が築いた陣城群と尼子十旗 月山富田城(2)

  • 文・写真 城郭ライター 萩原さちこ
  • 2018年10月22日

勝山城から見た月山富田城。かなりの至近距離だ

<難攻不落 山陰の覇者・尼子氏の巨大山城 月山富田城(1)>から続く

月山富田城(がっさんとだじょう、島根県安来市)の山頂は、眺望が見事だ。中海や大根島、島根半島、弓ケ浜半島といった交通・経済・軍事面で重要な地域が一望でき、その眺めに感嘆する。一方で対面には、1543(天文12)年に大内義隆が尼子晴久を攻めた際、また1564(永禄7)年から毛利元就が尼子義久を攻めた際に陣を置いた京羅木山がそびえ、富田城をめぐる攻防が思い浮かんで緊張する。陣城のひとつである勝山城は京羅木山の尾根先に築かれ、富田城に向かって突き出すように迫っている。

標高473メートルの京羅木山山頂からは、富田城が丸見えだ。富田城とその周辺が見下ろせ、尼子軍の配置も動きも手に取るようにわかったに違いない。京羅木山側のほうが圧倒的に優勢に思えるが、裏を返せば、それでも落とされなかった富田城は堅牢といえるのだろう。

京羅木山は、富田城の北西、飯梨川の対岸から約3キロの位置にある。山頂からは宍道湖まで見渡せ、宍道湖方面から侵攻した大内氏や毛利氏にとって陣城を築くには最適な立地だ。陣城群と勝山城で構成された城塞(じょうさい)群となっているが、現在残る城の姿は、技巧性から推察すると大内氏時代ではなく、元就が富田城攻めを行った際のものだろう。

月山富田城から京羅木山と勝山城方面を望む

京羅木山には勝山城を含めて五つの城塞群が築かれている。本陣は山頂ではなく、やや西側の一帯だろう。山頂から北東約500メートルの尾根上に2群が、その南側に3群が、東側の尾根先端を中心に4群が構築されている。2群には斜面に掘り込んだ畝(うね)状竪堀があり見どころのひとつになっているが、これは主郭の東側と北側を警戒してのものだろう。守りを固めつつ、徐々に富田城側に拠点を接近させていったようだ。

京羅木山城塞群2群北側の畝状竪堀

勝山城は、大内氏が陣を置き、元就が本格的に改修し本陣とした城だ。恐ろしいほどに富田城と至近距離にあり、当時の緊迫した戦況を感じずにはいられない。戦国時代の最高峰の城といえる技術力が虎口をはじめ端々にみられる。北端は三重の堀切で遮断され、東から南東にかけては40本以上の畝状竪堀がびっしりと掘り込まれている。

勝山城の畝状竪堀。かなり明瞭に残る

勝山城、南東側の虎口。畝状竪堀から通じ、何度も折れ曲がりながら曲輪(くるわ)に通じる複雑な構造

一方、元就が富田城攻めをした際、尼子氏が構築していた支城による防衛線が「尼子十旗」だ。本城である富田城の防衛線として、領国内に置かれた家臣団の10の支城を指す。白鹿城(松江市)、三沢城(島根県奥出雲町)、三刀屋城(島根県雲南市)、赤穴城(島根県飯南町)、牛尾城(雲南市)、高瀬城、神西城(ともに島根県出雲市)、熊野城(松江市)、馬木城(奥出雲町)、大西城(雲南市)の10城を、尼子氏の有力武将が守っていた。尼子十旗と月山富田城をつなぐ拠点として築かれた10の城砦(じょうさい)は「尼子十砦」と呼ばれる。

富田城を目指した元就は出雲に入ると、宍道湖北岸に荒隈城(あらわいじょう、松江市)を築いて本陣とした。尼子十旗のうち赤穴城や三沢城などは毛利方にくだっていたが、いくつかの支城は抵抗を続け、白鹿城もそのひとつだった。

宍道湖北岸に位置する白鹿城は、中海の水運を押さえる商業・経済の要衝だった。尼子氏にとっては、富田城への重要な補給ルートの日本海側の玄関口となる。元就は激闘の末に白鹿城を制圧すると、海上封鎖に成功。島根半島や弓ケ浜を制圧して富田城への補給ルートを断ち、富田城の総攻撃へと駒を進めている。

白鹿城一の床。白鹿城は白鹿山山頂を本城とし、南西に続く小白鹿山にも郭群を配した城塞群だ

尼子氏が滅亡すると、富田城は近世城郭化された。同じように、尼子十旗も様変わりした。たとえば三刀屋城は、関ケ原合戦後に堀尾吉晴が出雲に入ると近世城郭として改修されている。富田城は出雲東部にあり、周防・長門2国(いずれも現在の山口県)に封じられた毛利氏との緊張関係を考えるとやや不安だ。そこで出雲の中心に位置する三刀屋城を重要視し、出雲西部への拠点としたようだ。

三刀屋城は三刀屋川と古城川の合流点にあり、眼下には三沢を経由して富田へといたる街道が走る。公園化にともない遺構の多くが破壊されているが、最高所には天守台が築かれ、その一部が残存している。かつて山頂一帯は総石垣だったようで、破城(城の破却)されたらしい。ふもとの街道から見上げる姿は圧巻だったに違いない。

三刀屋城の天守台。堀尾吉晴による築造とみられる

(この項おわり。次回は10月29日に掲載予定です)

#交通・問い合わせ・参考サイト
■月山富田城
JR山陰本線「安来」駅から車で約20分
http://www.yasugi-kankou.com/index.php?view=5228
(安来市観光協会)

       ◇

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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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