にっぽんの逸品を訪ねて

焼きまんじゅう、チーズ、日本酒 “繭のまち”前橋で発酵食品食べ歩き

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2018年11月13日

繭(まゆ)から生糸を紡ぐ

ユネスコの世界遺産に登録された富岡製糸場に代表されるように、群馬県は養蚕や製糸が盛んだった。前橋市でも富岡製糸場が操業する2年前の1870(明治3)年に日本で最初の器械製糸所が落成。その後も製糸場が増え、生糸の集散地としても栄えた。前橋から横浜港を経て海外にも輸出され、ヨーロッパでは良質な生糸は「マエバシ」とよばれたという。

その前橋市には、風土が育んだ数々の発酵食品がある。みそや日本酒、納豆、チーズ……。赤城山の南麓(なんろく)に広がるこの町は、水はけのよい土壌、豊富な日照時間、利根川水系の豊富な水などに恵まれ、冬には赤城おろしともよばれる上州名物のからっ風が吹く。四季のメリハリが効いた暖かくも厳しい自然環境だ。その風土が生んだ発酵食品を食べ歩くと、町の表情や歩んだ歴史が見えてくる。

県民のソウルフード「焼きまんじゅう」

群馬の代表的な発酵食品といえば「焼きまんじゅう」だ。販売する店は県内に100軒を数えるという。かつては製糸場に勤めていた女性たちのおやつとしても愛されていた。

前橋市街にある原嶋屋総本家は1857(安政4)年に創業。江戸時代の古民家を復元した風格ある店舗に入ると、みそが焼ける香ばしい香りが漂ってきた。

目の前でふっくらと焼き上げられる

焼きまんじゅうは、小麦粉と米麹(こうじ)を混ぜて発酵させた生地でまんじゅうを作り、甘いみそだれをつけて焼いたもの。群馬県は水はけのよい土壌に適した小麦の栽培が盛んで、うどんなど小麦粉製品がよく食べられているが、焼きまんじゅうもその一つだ。

焼きたてを味わうと、中はふっくら、外はパリッ。甘くしょっぱいみそが食欲をそそる。

みそだれに目が行きがちだが、「味の決め手はまんじゅうの生地です」と話してくださったのは、5代目当主の原嶋雄蔵さん。生地の発酵具合は温度や湿度で変わるため、こねる水を夏は冷水、冬は熱湯にするなど、日々の気候で細かく調整する。この店では、生地の仕込みは当主だけが行い、製法は一子相伝で受け継がれている。

生地作りの工程を説明してくださった当主の原嶋雄蔵さん

上州で愛されてきた甘口の日本酒

風土が育んだ日本酒もある。1877(明治10)年創業の「栁澤酒造」の「桂川」だ。全国的にもめずらしいもち米四段仕込みという製法で作られる甘口の本醸造酒。

現代は淡麗辛口が主流だが、「桂川」や「絶滅危惧酒」など甘口の酒も造り続けている

甘口の「桂川」が愛されてきた理由を、5代目の栁澤清嗣さんはこう話す。

「赤城南麓は、夏は農作業、冬は養蚕と、一年中、体を使う仕事が多いところでした。酒のつまみが豊富にある土地でもないので、酒自体に味わいがあり、疲れた体に活力を与えてくれる甘口の酒が好まれたのだと思います。甘みはうまみにつながりますから、甘口の酒は酒自体がごちそうになります」

上州名物はかかあ天下とからっ風といわれる。養蚕や製糸は主に女性の仕事だったから、上州の女性はしっかり者でよく働く。忙しい奥さんに負担をかけまいと、男性は簡単なつまみで晩酌をしたと伝わる。

老舗の風格漂うのれんの前に立つ栁澤清嗣さん

日本酒は基本的に、発酵中のもろみに麹と蒸し米を3回に分けて加えていく三段仕込みで作られる。「桂川」ではさらに4回目にもち米を使って醸し、穀物のうまみと甘みをしっかりと溶け込ませる。

「桂川」は高温に強い。からっ風が吹く冬、熱かんは冷えた体にしみいるようだったろう。

市街を見晴らす高台に立つチーズ工房

新しく生まれる発酵食品もある。2013年には、赤城南麓にチーズ工房「Three Brown(スリーブラウン)」がオープンした。

「牛を飼って、自分で搾った牛乳でチーズを造りたい」という夢を持ち続けたご夫妻が、2011年に牧場を造って酪農を開始。ブラウンスイス種3頭の牛の飼育から始めて、現在は5頭の世話をしながらチーズ作りを行っている。

牧場を持って生産から加工まで一貫して行っている

「心からおすすめできるチーズを作りたいと思い、牛の飼料からこだわって無添加で製造しています」と、妻の松島薫さん。爽やかな酸味のあるジルチーズ、焼いてもおいしいカチョカバロやスカモルツァ、「ドリーといよかん」などのドライフルーツと合わせたチーズ、さらにミルクジャムなども販売している。丁寧に手作りされるチーズは、どれも新鮮なミルクの味わいがそのまま感じ取れるほど、ピュアでやさしい味がする。店舗は日・水曜、月末の土曜日のみの営業だという。

ほのぼのと温かみのある雰囲気の店内に手作りチーズが並ぶ

現役最古級の車両が走る上毛電気鉄道

食べ歩きの途中に、1928(昭和3)年開業の上毛(じょうもう)電気鉄道に乗車した。赤城南麓を東西に走り、製糸が盛んだった前橋市と、織物の町である桐生市を1時間弱で結んでいる。

地元で上電(じょうでん)の名で親しまれるこの路線は、鉄道愛好家の間では有名。運行する電車としては日本最古といわれる車両「デハ101」が走っているからだ。現在はイベント時や貸し切り列車として運行している。

低い駆動音を響かせてのんびりと走る

「デハ101」は開業当時に製造されて以来、戦前、戦中、戦後を通して走り続けてきた。木製の窓枠や布張りの座席、昔ながらのつり革や扇風機を見ていると、各時代の乗客や沿線のようすはどうだったのだろうと想像がふくらむ。

この日は車内で昼食。お弁当は、地元で約130年続くみそ漬けの老舗「たむらや」の「和豚もちぶたみそ漬」が使われている。やわらかな豚肉のみそ漬けがご飯によく合う。

豚肉のみそ漬けがのったお弁当

テレビロケにも使用された壮麗な日本建築

前橋市に来たらぜひ訪れたいのが臨江閣だ。利根川のほとりに、渡り廊下で結ばれた本館と別館、離れの茶室が立っている。

本館は1884(明治17)年、当時の群馬県令である楫取素彦(かとりもとひこ)の提言で、市内の有志らの寄付で迎賓館として建築。茶室も同年に京都の宮大工今井源兵衛によって完成した。この年は、当時の日本鉄道の路線が前橋市内まで延長された年だ。

1910(明治43)年に建てられた別館は、壮麗な外観が目を引く。大広間は詩人である萩原朔太郎の結婚式に使われたという。3棟とも国の重要文化財に指定されている。

別館1階には「かふぇ あんきな」があり、明治時代のコーヒーをイメージした「維新コーヒー」が人気メニュー。散策の足休めに立ち寄りたい。

臨江閣の別館。木造2階建ての書院風造り

【問い合わせ】

原嶋屋総本家
前橋市平和町2-5-20
TEL027-231-2439
10:30~17:00(店内での飲食は平日の15:00まで、売り切れ次第終了)/火曜休(祝日の場合は翌日)

栁澤酒造
前橋市粕川町深津104-2
電話027-285-2005
9:00~17:00/不定休

チーズ工房 Three Brown
https://threebrown.jimdo.com/

上毛電気鉄道
http://jomorailway.com/

たむらや
http://www.tamuraya.com/

臨江閣
http://www.city.maebashi.gunma.jp/kurashi/230/266/270/p003282.html

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

今、あなたにオススメ

Pickup!