あの街の素顔

8000年の歴史を持つワインの産地 ジョージアを旅して(後編)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2018年11月16日

オーガニックのぶどう畑。果樹や野菜、ハーブなどを寄せ植えすることで、ぶどうを害虫から守っています

これまでまったく馴染みのなかったコーカサス地方の小さな国、ジョージアに行ってみたい!と思った最大の理由が、ワインです。いま世界中のワイン好きが注目しているこの国は、ワイン発祥の地といわれ、およそ8000年も前からワインを醸造していたとされています。

この土地に自生していた、ぶどうの原種とされる果物を使ってワイン造りが始まり、できあがったワインは、世界四大文明のひとつメソポタミア文明を生み出したチグリス・ユーフラテス川を越え、エジプトに伝来したと言われています。エジプトでクレオパトラに愛されたジョージアワインは、 “クレオパトラの涙”と呼ばれることもあるとか。

ちなみにジョージアの伝統的なワイン製法は、日本の和食と同じタイミングでユネスコの無形文化遺産に登録されています。

世界が注目するオレンジワイン

伝統的なジョージアワイン造りに使われる素焼きのつぼ。通常は地中に埋められています

ジョージアワインのなかでも有名なのが、深みのある琥珀(こはく)色のオレンジワイン(アンバーワイン)です。この美しいカラーは、ぶどうの皮や種(場合によっては茎も)をまとめて特徴的な形をした大きな素焼きのつぼに入れ、それを地下に埋めて自然発酵させる伝統的な製法から生み出されます。ぶどうが発酵するままに任せた、添加物を加えないオーガニックな製法が、ジョージアワインの特徴です。

フリーマーケットで売られていたホームメイドワイン。白はルカツィテリ、赤はサペラヴィというぶどうが代表的な品種です

ジョージアの国土は、コーカサス山脈の一部を境に東ジョージアと西ジョージアに分けられ、最大のワイン産地は、東のカヘティ地方です。西に比べると東は湿度が低く、水はけがよいためぶどうの栽培に適しているそう。新石器時代にはぶどうの品種改良が始まり、その土地に合ったぶどうが自生したり栽培されたりしてきました。8000年経った現在では、固有種を中心に約530種ものぶどうがあり、そのうち440種ほどが、現在もワイン造りに使われています。

また、現在でも各家庭や村などの小さなコミュニティーで、当たり前のようにワイン造りが行われています。さすがに今は法律で規制されていますが、ガイドさんによると、かつては「13歳くらいから遠足にワインを持って行くのが普通だった」とか。

あるワイナリーのランチプラン。観光客に開かれたワイナリーも現れ始めました

ジョージアワインの品質は、最近急激に向上しました。ジョージア政府のワイン専門家によると、これまでは安定した品質のワインを、決まった量だけ造ればよいとされてきましたが、2014年にEU寄りの国づくりを始めて政策が変わったことで、ワインメーカーたちの意識に変革が起きたとか。

固有品種の味わいを引き出した個性的なワインや、世界の一流レストランに流通させられるプレミアムワインを造ろうという意識の高い作り手たちが、ジョージアワインをリードしています。

ジョージア料理はワインが進む

左手が「ヒンカリ」。中身は肉のほかきのこやチーズ、ベジタリアン用もありますが、私のおすすめは肉

そんな“ワイン天国”ジョージアの料理は、いずれもワインに合うものばかり。実はロシアや東欧では“料理といえばジョージア”と言われるほど、そのおいしさには定評があります。

私がハマったのは、ジョージア人の国民食といわれる「ヒンカリ」です。生地の上部をひねって肉汁を閉じ込める形から、「ジョージア版小籠包(ショウロンポウ)」と言われることもありますが、食べてみるとまったく別物。

大きいものなら子どものこぶしほどもあり、食感を残して荒く挽いた肉(羊、豚、牛)にスパイスを加えたあんが、厚めの生地に包まれています。上部のねじった部分を指でつまみ、もっちりとした皮をかじると、中から熱々の肉汁が一気にほとばしります。

アジャリア地方のハチャプリ。バターが溶け出したところで半熟たまごとチーズを一気に混ぜ合わせ、生地を浸して食べます

もうひとつ、同じく国民食としてよく食べられるのが、「ジョージア版ピザ」と言われる「ハチャプリ」です。これはハンドトスのナポリ風ピザのようなもので、小麦の香り高い焼き立ての生地と、酸味のあるフレッシュチーズの組み合わせが基本。これに地方やお店によって、さまざまな具をトッピングします。

特に人気が高く、全国的に定着しているのが、アジャリア地方のハチャプリ。これはボート型の生地にチーズを詰め、さらにたまごを加えてオーブンで焼き上げたもの。食べる直前にバターをたっぷりのせるのがポイントです。

キャンドルみたいな「チュルチュヘラ」。最近はぶどうのほか、りんごや洋ナシ、キウイを使ったフレーバーも登場しています

スイーツ好きにおすすめしたいのは、ジョージアの伝統的スイーツ「チュルチュヘラ」。カラフルなキャンドルみたいな見た目から、最初私は食べものとは思わなかったのですが、実はこれは砂糖を一切使用しないヘルシースイーツです。

カラフルな外側は、ぶどう果汁に小麦粉を加えてもったりするまで煮詰めたもの。くるみやアーモンド、ヘーゼルナッツといったナッツ類をひもでつなぎ、それを芯としてぶどう液に何度も漬けたり上げたりして、最後にしっかり乾燥させます。

巨大な串に豚や牛、チキンといった肉や野菜を刺して、ジョージアにはたくさんあるぶどうの枝で焼き上げた串焼き

そのほか、巨大な肉の串焼き、ハムやサラミ、ソーセージといったシャルキュトリ(肉の加工品)、牛スネ肉の煮こごり風など肉好きのための一品や、ジョージア産ミルクを使ったワインに合う新鮮なチーズもバリエーション豊富。ローストチキンを、山ほどのニンニクを加えたフレッシュなクリームで煮込んだ「シュクメルリ」、豚肉とじゃがいも、タマネギなどの常備野菜をシンプルに炒めた「オジャクリ」など、家庭料理でさえもワインに合う味付けなのがたまらない。

生ハムとメロンなど、肉製品とフルーツの組み合わせは定番ですが、ジョージアではチュルチュヘラや果汁をシート状にしたものと肉製品を合わせることが多いそう。この宴会メニューのほとんどの食材がジョージア国産です

ジョージアの主食はパンなどの小麦。シンプルに塩だけで焼き上げた焼き立てのパンを毎日食べる分だけ購入します

ジョージアの首都トビリシは、ソラロキの丘の上に立つ「ジョージアの母」と呼ばれる像に見守られています。右手に剣、左手にワインの杯を持ったこの像は、敵とは剣で戦い、友はワインでもてなすというジョージア人の国民性を表しているとか。

一方、トビリシの街中には、ワイングラスを握りしめ、ほろ酔いでぼうっと宙を眺めている座像「ワインを飲む人(タマダ)」があります。ジョージアでは、宴会などで乾杯の音頭を取る人は、「タマダ」をする人として大切にされるそうです。

トビリシの街角にある、紀元前7世紀の像「ワインを飲む人(タマダ)」のレプリカ

どこまでもワインと縁が深いジョージアの人々のくらし。ジョージアの人たちとタマダをしに、いつかまた訪れたいと思います。

取材協力:Georgia National Tourism Administration

PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)
トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。

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