海・火山・森 済州島の自然を楽しみ尽くすオルレトレッキング

  • 文・写真 &編集部・田中遼平
  • 2019年1月9日

「オルレ」。韓国・済州島で生まれた、自然や人々を間近に感じながらマイペースで歩けるトレッキングコースのこと。済州島の方言で「通りから家へと帰る路地」という意味で、済州島と周囲の離島に張り巡らされた10キロ~20キロの26コースは計425キロに達する。

済州島は、朝鮮半島の南西沖にある火山島で、独特の生態系と景観をもつ。「韓国のハワイ」とも呼ばれ、かつては人気の新婚旅行先だったが、しばらく頭打ちだった観光客数を増加に転じさせた起爆剤となったのがオルレ人気だった。火山、砂浜、森林、岩場、農村風景……。福袋よろしく様々な景観がてんこ盛りであることも、済州島のオルレトレッキングが人気を呼んだ大きな理由のようだ。

  

その済州オルレをトレッキングしないか、とお誘いをいただいた。なんでも「オルレを歩いているといやなことも仕事も忘れて、スッキリする」とのこと。これ幸いと参加を即決。オルレを巡るという“仕事”で済州国際空港へ降り立った。

2018年10月から11月にかけて2泊3日のツアーに参加し、2日間かけてオルレを巡った。初日は済州島にだけ存在するという熱帯北方限界植物と寒帯南方限界植物が共存する森「コッチャワル」を横断した。

どんな景色が見られるのだろうか。わくわくしながらスタート地点に着くと、青く可愛らしいオブジェが迎えてくれた。

  

これは「カンセ」という済州オルレのシンボルで、26コースの全てのスタート地点にある。古くから島とつながりの深い馬がモチーフで、「カンセ」という名は、「なまけもの」という意味の方言「カンセダリ」からとったそうだ。ゆっくり楽しみながらオルレを巡ってほしい、との願いが込められている。

木やつる、背の高い草が入り交じった森を抜けていく。ふと足元を見ると、火山特有のごつごつとした岩が続く。異質なものが絡み合う景色は、不思議な感じがする。

コッチャワルを通る「11コース」

突然、すぐ横で「ガサガサッ!」と大きな音が。姿は見えないが、ガイドの方が、野生のノロジカではないかという。ヨーロッパから朝鮮半島にかけて生息する小型のシカで、小説「バンビ」のモデルでもある。運がよければバンビに会えるのか。

ノロジカ(Getty Images)

ところどころに石垣を見かけた。深い森にもかつて村があり、人が生活していたことがあるのだ。場所によっては炭窯も残っているそうで、生活の跡を感じられた。長年放棄されたままの施設が木々や蔦(つた)に飲み込まれているさまに、アニメ映画「天空の城ラピュタ」をふと思い出した。

コッチャワルの放棄された石垣

「森の中を歩くなんて、迷いそうだ」と不安に思うかもしれないが、心配は無用。順路を示す矢印看板が一定距離ごとに立てられていたり、木々にリボンが結びつけられていたりと参加者が迷わないよう工夫されている。

順路を示すリボン

2日目は「2018済州オルレウォーキングフェスティバル」の初日だった。2010年から毎年秋に開かれており、この年は11月1日から3日間だった。期間中は道端に露店が出たり、休憩スポットではバンドが生演奏していたりして、お祭りムードを盛り上げる。日本など韓国以外からも多くの参加者が集まっていた。

この日は海岸線沿いの「5コース」を歩いた。10分ほどで山道に変わり、少し歩くと岩場の海岸に出て、さらに歩くと一面のミカン畑と、次々に変わる景色を楽しめた。

  

  

また「5コース」には、木々に包まれた散策路の出口が朝鮮半島の形に見える「韓半島」や、口を開いたトラのような「虎頭岩」など写真映えするスポットも。

韓半島(写真提供=Jeju Olle Foundation)

虎頭岩

開けた場所に出ると、韓国の最高峰「漢拏(ハルラ)山」(1950メートル)が正面に現れた。どっしりとした、まさに島のシンボルといったたたずまい。

ハルラ山が姿を現した

オルレは、徐明淑(ソ・ミョンスク)さんという、ひとりの女性の発想ではじまった。済州島で生まれた徐さんは、幼い頃は地元が好きではなかったという。「何もない田舎だと思っていました。早くソウルに出たかった」

徐明淑さん

ソウルで記者として働いた徐さんは50歳を機に仕事を辞め、リフレッシュのために、スペイン・サンティアゴへ巡礼の旅に出た。美しい景観の中を歩く喜びや、旅先で人と出会う素晴らしさに気づいた彼女は、地元・済州島の魅力に初めて思いをはせた。「サンティアゴより、もっと美しい道を済州につくろう」と。

はじめは徐さんの家族や仲間が手作業で切り開いていったという済州オルレ。今では、オルレ目的で済州島に訪れる人も多く、疲弊していた村や市場の復興にも寄与している。済州島発のオルレは外国にも広がり、日本でも九州や東北でコースが作られている。

「通りから家へと帰る路地」という名前のとおり、オルレ内には特別な名所があるわけではない。海、山、街並みと、変わりゆく景色を眺めながら、自分だけが感じる美しさや懐かしさにひたれる。それが、オルレの魅力なのだと思う。

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