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寄付金制度で、貴重な「障子堀」の堀底体験 山中城(2)

  • 文・写真 城郭ライター 萩原さちこ
  • 2018年12月17日

山中城、西の丸と西櫓(やぐら)の周りに設けられた障子堀

<山中城(1)>から続く

山中城の代名詞といえるのが、障子堀だ。ベルギーワッフルのような形をした、なんとも好奇心をそそられるビジュアルである。

障子堀は、堀底に障壁を掘り残した空堀のことだ。堀は曲輪(くるわ)の間を分断して敵の侵攻を阻止するものだが、それをさらに複雑にすることで攻略が難しくなる。衝立(ついたて)障子に似ていることから江戸時代の軍学書では障壁のことを「堀障子」と呼び、山中城では、岱先(だいさき)出丸一の堀のような単列の堀障子のある空堀を「畝堀(うねぼり)」、西の丸と西櫓(やぐら)間の堀のように複数列または複合した堀障子が設けられた空堀を「障子堀」と呼んでいる。堀の周辺からは礫(つぶて)などが出土しており、堀底からはい上がろうとする敵めがけて、曲輪から投石していたとみられる。

西の丸と西櫓の間の堀。単列の堀障子が拡張されて複数列になったと考えられる

西の丸東側の堀。西の丸と西櫓のまわりをめぐる堀障子が、城内でももっとも見やすく圧巻

障壁の高さは、2メートル前後といったところだろうか。現在は堀障子の保護のために土と芝がかぶされているが、実際にはもっと高さがあったはずで、しかもかつては土がむき出しだった。この地の土質は、富士火山を主な供給源として発達した厚いローム層。ロームは保水性がよく透水性も大きいため、とくに水を含むと陶芸の粘土のようにズルズルと滑る。敵兵は足を取られているうちに頭上から攻撃の雨を受けることになる。隠れる場所もなく、まさにアリ地獄のように足止めをくらうわけだ。

実際に堀底に降りてみて、その威力を思い知った(通常は堀底への立ち入りは禁止)。想像以上にはい上がるのは難しいのだ。芝が植えられているとはいえかなり滑り、勾配もきついためなかなか上れない。城兵の数が多少劣っていても、むき出しのロームにてこずっている敵兵を効率よく射撃できるはずだ。堀底に落ちた敵兵は、フィールドアスレチックのようにすばやく昇降を繰り返して先へ進むしかない。

わざわざ堀底に降りなくても、障壁の上を進めばよさそうに思えるが、かつては幅も狭く、綱渡りのような状態だったはず。しかも、両側の曲輪からの角度や距離を考えると、障壁上を歩けば狙い撃ちされるのは必至だろう。

岱先出丸一の堀。西側直下を走る旧東海道に向けての防衛強化とわかる

全国の城を歩いても、山中城ほど障子堀の機能が理解しやすい城はない。もっとも、障子堀は全国各地の城に必ずあるわけではなく、北条氏の城を中心とした関東一円の城に多く分布する防御装置なのだ。

実は大坂城(大阪市)でも障子堀が発見されているのだが、どうやら北条氏と関係がありそうだ。2003(平成15)年に発掘された、秀吉時代の大坂城三の丸の堀とみられる最大幅約25メートルの障子堀は、豊臣方が大坂冬の陣に備えて整備・強化し、1614(慶長19)年12月23日から徳川家康が埋め立てをはじめたことが判明している。三の丸は外郭にあたり、秀吉が晩年に防御力強化のために構築した部分。北条氏は秀吉に攻められ実質的に滅亡するため、北条氏が大坂へやってきて障子堀をつくったとは考えにくい。秀吉は小田原攻めで北条氏の城を攻略していく過程で、障子堀の威力を目の当たりにし、後に自らの城に取り入れたのかもしれない。

山中城の障子堀。底に降りるとかなり閉鎖的な空間であることが実感できる

山中城の西櫓から障子堀を見下ろす

さて、普段は立ち入れない障子堀の底に降りられるという貴重な体験ができたのは、ガバメントクラウドファンディング(ふるさと納税を利用して行うクラウドファンディング)に関連するイベント参加権のおかげだ。

三島市によるこの寄付金制度は画期的で、城への関心が高まり安全対策も求められる昨今、維持・管理費用の問題を抱える自治体の救世主になるかもしれない。返礼品は、ドローンで城を撮影した映像のDVDとドローン撮影イベントへの参加権。イベント「ドローン撮影イベントin山中城跡」では、ドローンでの撮影のほか学芸員による山中城案内や発掘現場の見学が特典となっていた。

2018年11月17日にあった「ドローン撮影イベントin山中城跡」の様子。特典のひとつとして障子堀の堀底に降りられた

山中城への寄付金は張芝の手入れ、雑木雑草の除去、樹木の剪定(せんてい)や伐採など、維持管理費用の一部に充てられる。「日本一美しい山城」を目指す三島市の新たな取り組みといえよう。三島市によると、目標金額150万円に対し、寄付金額は市の窓口に持参されたものも含めて66万6000円。達成率は44.4%だった。寄付者数の内訳は三島市内が約41%を占めるが、約36%は県外者で、関東のみならず、北海道や京都、大阪、愛媛県などからの寄付もある。京都、大阪、愛媛からのイベント参加者もいた。

自治体が管理する城跡は、維持だけでも莫大な費用がかかる。また、近年は災害が多く、2018年にも丸亀城(香川県丸亀市)や能島城(愛媛県今治市)などたくさんの城が甚大な被害を受けた。こうした整備や復元を目的とした寄付制度は丸亀市、熊本市、上田市、福岡市などがすでに手がけている。城の未来に貢献したい、と地元民や城ファンをつなぐ新たなツールとして定着することを期待したい。

「ドローン撮影イベントin山中城跡」で撮影中のドローンに手を振る参加者

イベントは午前と午後の2回行われ、47組72名の参加があった

(この項おわり。次回は1月7日に掲載予定です)

#交通・問い合わせ・参考サイト

■山中城
JR東海道本線「三島」駅南口からバス「山中城跡」バス停下車、徒歩すぐ
http://www.city.mishima.shizuoka.jp/kanko_content021054.html

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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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