冬の愛知で心の大掃除を。年の瀬こそ行きたい歴史・アート・美食の旅

  • 文・写真 矢口あやは
  • 2018年12月20日

食欲をそそるふぐ。器も美しい

愛知というのは不思議な場所です。東京から名古屋までは新幹線で約90分、大阪からなら約50分と近い距離にありながら、情報が外に出にくい土地柄とも言われます。観光情報も例にもれず、あまり知られていないようです。

でも、一歩足を踏み入れてみれば、歴史、アート、美食、どれをとっても意外性に満ちた発見の宝庫。まだまだ多くの人にとって知られざる愛知から、心に新しい火をともしてくれる3ジャンルの名所をお届けしましょう。まずは、新年を目前とした今こそ訪ねたい、エポックメイキングなお寺から。

まさに“その時歴史が動いた”「大樹寺」

名鉄・東岡崎駅からバスで15分ほどの大樹寺

日本史上ただならぬ役割を果たした寺。それが岡崎市にある「大樹寺(だいじゅじ)」です。徳川家の正式な菩提寺で、1475(文明7)年に家康の先祖にあたる松平親忠(ちかただ)によって創建されました。

「大樹とは、中国で将軍や偉大な人物につける総称で、親忠は自分の子孫から将来、将軍になる人物が現れることを願ってつけたのだそうです」(「おかざき観光ガイドの会 」会長・小島祥弘さん)

まさに親忠の抱いた夢が現実になったお寺といえますが、1560年、ここが悲劇の舞台になりかけたことがありました。

家康の自害を止めた8文字

「宝物(文化財)拝観」(400円)を申し込み、まずは本堂を参拝します

1560年に勃発した桶狭間の戦いで、19歳の家康(当時は松平元康)は今川軍として参戦しました。しかし、大将・今川義元が討たれたことで、家康はわずかな兵を率いて大樹寺に逃げこみ、先祖の墓前で自害を試みたといいます。

大樹寺の本堂には、当時の住職・登誉(とうよ)上人が、命を絶とうとする家康を制して言ったとされる言葉が飾られています。

大樹寺の本堂には、平安末期の木造阿弥陀如来坐像が祀られていました

すなわち、「厭離穢土 欣求浄土(おんりえど ごんぐじょうど)」。地獄のような戦国の世を住みよい浄土にすることがあなたの役目です、という趣旨でさとされたといい、思いとどまった家康は、この8文字を座右の銘とし、新たな一歩を踏み出すことになりました。

さて、厳粛な雰囲気の本堂から一転、将軍や大名が着座した大広間「大方丈」には「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」とたくさん書かれた家康直筆の書があって、よく見ると最後に「南無阿弥家康」との落書きが。ぺろっと笑って舌を出すような天下人の人間らしい一面に、思わず顔がほころびます。

徳川の歴代将軍に会える「位牌堂」

「宝物(文化財)拝観」では「宝物殿(位牌堂)」もお参りできます

拝観順路の最後に位置する「宝物殿」も、歴史ファンにはたまらない場所です。

「ここには、14代までの徳川歴代将軍と松平家8代までの位牌(いはい)が納められています。位牌の高さは将軍の身長にあわせてあると言われています」(小島さん)

“暴れん坊将軍”で有名な徳川吉宗の位牌

大樹寺によれば、没した将軍の身長を計測する専用の係がいたと伝わっており、葬られた将軍の遺体を発掘調査したところ、位牌との誤差が1センチしかなかったことから、ほぼ正確な身長とみられているのだそうです。

370年間守られてきた奇跡の眺望

山門の向こうに総門が

拝観を終えて本堂を出たら、ぜひ見ておきたい眺めがあります。目の前にある大きな山門、その奥にある総門、さらに向こう側に、とある岡崎のシンボルが見えるというのです。

「中心に、家康公の生まれた岡崎城がくっきりと浮かび上がって見えるはずです。この形に伽藍(がらん)を配したのは徳川家光公でした。大樹寺と岡崎城を結ぶ3キロのこの直線を、現在はビスタラインと呼んでいます」(小島さん)

総門の向こうに、岡崎城が。見えますか?

「高いビルを建てようと思えば建てられましたが、家光公の思いを受け継ぎ、みんなで協力して約370年間にわたってこの眺めを守ってきました。この眺望こそ、私たち岡崎市民の自慢なのです」(小島さん)

どん底で苦しんだ家康が起死回生を誓った寺は、多くの人を勇気づけ、人生のともしびとなってきました。奇跡のような眺めが今も残るのがその証し。震えるような感動とともに覚悟を決める胆力が湧く、心機一転の時こそぜひお参りしたいお寺です。

瀬戸、新進気鋭の陶芸作家を訪ねて

水野智路さん

ひそかなターニングポイントの舞台となった歴史スポットの次は、アート探訪を。“せともの”という言葉が生まれた瀬戸市では、昔から良質な白い粘土が取れました。顔料や鉱物を混ぜることで鮮やかな色土を作れる器作りにぴったりの場所です。

瀬戸ではたくさんの陶芸家が優れた作品を生み出しており、今、若い世代を中心に人気を集める新進気鋭の作家・水野智路さんもそのひとりです。

水野さんのインスタグラム
https://www.instagram.com/tomoro.m/

「練り込み」と呼ばれる技法を用いた作品は、SNSを通じて海外でも大人気に。私もInstagramで何度となく作品を眺め、心癒やされてきたファンの一人です。

工房を訪ねると、水野さんは器作りの真っ最中でした。

「水野教雄陶房」で作品を作っている水野さん

「『練り込み』とは、色土を薄く切って積んだり、張り合わせたりして模様を作るもの。いわば金太郎アメのような技法です。今から1300年前、中国で唐の時代に考案され、宋の時代に発展したといわれています。最初は伝統的な花の模様から練習するんです」(水野さん)

「練り込み」の伝統的な模様である花柄

練り込みは、まず9センチ角の粘土のパーツを作るところから始まります。続いて、乾かないように保湿しながら、均等な力で粘土をたたいて伸ばしていきます。

「模様を作る時は設計図を描いて行うので時間さえあればできるのですが、伸ばすのが一番難しいところですね」(水野さん)

たたいて伸ばした結果、9センチ角のパーツは4分の1のサイズに

水平にスライスすると、花柄の入った市松模様が現れました

ここで、水野さんが「さっきできたばかり」だという円柱を見せてくれました。断面がどうなっているか想像もつかない粘土の塊です。ここにワイヤーをすっと入れる、息詰まる瞬間。見学者たちがかたずをのんで見守る先に現れたのは……。

パンダ、パンダ、パンダ。小さくて可愛いパンダがいっぱい

あまりのかわいさに、思わず目がうるうる。

ポップな色で表現されたドット絵がとってもモダン。この鮮やかさも瀬戸ならでは

上のお皿と同じドット絵が正確に縮小されて、おちょこに

「模様のアイデアは、展示会に来てくださった方との会話をヒントにしています。パンダ、ゾウ、ヒヨコ、文鳥あたりはそうして生まれました。ドット絵も昔から好きなので、今後はもっと色んなものをドットに置き換えてみようかな、と」(水野さん)

水野さんの技術は3代にわたって受け継がれたもの。こちらは水野さんの父・教雄さんの作品です

1300年前に生まれた技術が、こんな形に進化していたなんて。来年も遊び心を忘れずに過ごしたい。そんな気持ちになれる、新しい感性に満ちた工房・ギャラリーは、見学や作品の購入も可能です。

冬の味覚の王者、天然のトラフグを味わう

岡崎市内にある「ふぐ・四季料理しばた」の「ふぐ花コース」(1万円)

愛知県、実はトラフグの名産地、と聞くとびっくりしますが、本当です。天然のトラフグでは全国でも有数の漁獲量を誇るのです。

フグといえば、縄文時代の貝塚からフグの骨や歯が出土し、江戸時代には「河豚(フグ)は食いたし命は惜しし」と言われたほど、日本人はフグ好き。なかでも、突出しているのは大阪の人かもしれません。近年はその大阪の人が愛知のフグに気づき、冬になるたびに足を運ぶ例も増えているとか。

昔からカニとフグには目がない大阪の人たち、食い倒れの国の肥えた舌をも満足させる天然トラフグの味わいやいかに。岡崎市にある「ふぐ・四季料理しばた」を訪ねました。

当たると死んでしまうことからフグは鉄砲と呼ばれ、鉄の刺身だから「てっさ」に

「私たちがこだわるのは3キロ以上の大きなトラフグです。さばいたその日にはとてもかみ切れないほど弾力があって、熟成させる必要があるんですよ。養殖フグの鮮度は1日程度しかもたないといわれますが、天然物は数日寝かせることでどんどんうまみが増すのです」(おかみの柴田智子さん)

フグの皮のプリプリとした弾力に驚きます

先付に始まり、ふぐ皮、てっさ、てっちり、雑炊へと続く豪勢な「ふぐ花コース」(1万円)。なかでも人気なのが締めくくりの雑炊だといいます。

「鍋の中でダシがたっぷりと出るのは大物のフグならでは。雑炊を目当てにコースを注文される方もいるほど。皆さん、おなかいっぱいと言いながら雑炊だけは別腹のようにスルスルと召し上がっておられますね」(柴田さん)

鉄のちり鍋だから「てっちり」

10月から2月までしか漁が許されない希少な愛知のトラフグ。まさに「今年一年、よく頑張りました」と自分をいたわりながら味わいたい美食です。甘く香ばしいヒレ酒を片手に、新しい年の抱負を考えてみるのもオツなもの。願った言葉が現実となった大樹寺の例もあります。さあ、来年はどんな年にしましょうか?

大樹寺
http://home1.catvmics.ne.jp/~daijuji/

水野教雄陶房 0561・84・4150

愛知デスティネーションキャンペーン特設サイト
https://www.aichi-now.jp/dc/

Japan Highlights Travel愛知特集ページ
https://japan-highlightstravel.com/jp/aichi_special/

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