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豪州競馬「メルボルンカップ」で起きた“奇跡” ~メルボルン滞在記01~

  • &TRAVEL編集部
  • 2018年12月21日

オーストラリアの伝説の名馬「マカイビーディーヴァ」の銅像。フレミントン競馬場にて

年の瀬ムードが日ごと盛り上がり、年末恒例のG1「有馬記念」も23日に控えています。これに先立つ11月、&マガジン編集部の男性部員がオーストラリアのメルボルンで競馬を体験してきました。1861年に創設された競馬の祭典「メルボルンカップ・カーニバル」。国中が熱狂する一大イベントの様子を2回にわたってレポートします。もちろん、見るだけじゃなくて、馬券の勝負もしてきましたよ~。

平日の昼間にサラブレッドが街中を歩く

1頭、2頭、3頭……ざっと10頭はいるだろうか。すがすがしい青空の下、迫力あるサラブレッドが都会のど真ん中を闊歩(かっぽ)する。紳士淑女を乗せた高級車やブラスバンドの演奏も華を添える。

11月5日。競馬のビッグレース「メルボルンカップ」を翌日に控えたメルボルンの街は、出走馬の騎手、調教師らレース関係者や過去の優勝馬、音楽隊などが行進する前日パレードでにぎわっていた。

沿道には人、人、人。平日の昼間であることがうそのように人だかりができている。仕事そっちのけで来ている人もいそうだが、誰一人後ろめたさを感じている様子がない。&マガジン編集部随一の競馬好きとしてメルボルンカップの取材に派遣された私は、この眺めに胸を熱くした。

なんて良い国なんだ--。

街中を歩くメルボルンカップの歴代の優勝馬。パレードはメルボルン中心街のメイン通り、スワンストン・ストリートから街のアイコンであるフリンダース・ストリート駅に向かって進んでいく

華やかな服装のレース関係者たち

パレードには様々な演出が。巨体のジョッキー姿に扮した2人は2階建てバスくらいの高さ

オーストラリアでは毎年11月、第1土曜日から8日間にわたって開催される競馬の祭典「メルボルンカップ・カーニバル」に国民が熱狂する。

カーニバル期間中、メルボルンのフレミントン競馬場では「メルボルンカップ」「ダービー」「オークス」など4つのG1レースが行われるほか、ファッションや料理、ワインなどの文化イベントも開かれ、例年のべ約30万人以上が足を運ぶという。

とりわけ盛り上がるのがメルボルンカップだ。「レース中は国全体が止まる」と言われるほど国民的な注目を集め、メルボルンを州都とするビクトリア州では開催日が祝日になる。その前日祭だから、毎年パレードにも黒山の人だかりができるわけだ。ちなみに豪州競馬の関係者が最も勝利を願うレースであり、馬主にとっても優勝馬のオーナーになることはこの上ない名誉らしい。

矢作芳人調教師(白いジャケットの男性)を発見! 車には川田将雅騎手のご家族も

ごった返すパレードをしばらく眺めていると、見覚えのある顔が目に飛び込んできた。今年のメルボルンカップにエントリーした唯一の日本馬チェスナットコートを管理する矢作芳人調教師だ。

矢作師は、日本有数の名門私学・開成高校を卒業後、オーストラリアで競馬修業を始めた異色の経歴の持ち主。今回、愛馬をメルボルンカップに連れてきた理由を尋ねると、馬の適性に合わせたレース選択であることに加え、オーストラリアの競馬文化の素晴らしさを日本に広めることもその一つと語ってくれた。

日本でもダービーや有馬記念などは国民的レースとして知られるが、その楽しみ方は馬券の購入やレース観戦がメインといえる。

一方メルボルンカップ・カーニバルは、競馬を主軸に各種の文化も交えた総合的なイベントで、日本には類を見ない。明日はどんな盛り上がりを見せるのだろうか。矢作師の言葉に、期待は膨らむばかりであった。

ドレスアップしてフレミントン競馬場へ

スーツに蝶ネクタイを合わせて、胸にはホワイトのチーフを入れて……と。

翌朝、私は結婚式の時にあつらえたフォーマルスーツで身支度を調えた。ホテルのロビーに降りると、一緒にレースを観戦する同業者や現地ガイドも華やかな衣装に身を包み、前日からは大変身を遂げている。

日本の競馬場なら馬主関係者やプレゼンターに間違われそうな姿だが、このスタイルが正しい。メルボルンカップ・カーニバル期間中、男性はチーフを添えたフォーマルなスタイル、女性はドレスと帽子で華やかに装うのがフレミントン競馬場におけるマナーだからだ。

一行は非日常を感じながら、宿泊先の最寄り駅フラッグスタッフへ。目的地まではおよそ20分。フレミントン競馬場はメルボルン中心部から10km圏内にあり、アクセスが非常に良いのが特徴だ。

路線を乗り換え、競馬場に近づくにつれドレスアップした乗客が増えていく。国民的イベントへの期待感に包まれる車内。この数分後、訳あって着飾った衣装がびしょぬれになる人もいるのだが……。

フレミントン競馬場に到着

競馬場の構内には豊かな緑が広がる。残念ながらこの日は雨模様

最寄り駅で降り、フレミントン競馬場に入ると、豊かな自然とモダンな建物が一体となった空間が広がっていた。朝早くにもかかわらず、来場者はそれなりにいる。気温は一桁台。スーツの男性はまだしも、ドレスの女性にはかなり肌寒い。

見上げれば、毛布のような暑い雲が空を覆っている。これは一降りあるかもしれないと思ったのもつかの間、競馬場に入って5分もたたずに大雨が降ってきた。

来場者は大あわて。傘のない人たちは競走馬よろしく猛ダッシュで避難するわ、それで人と人とがぶつかりそうになるわ、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。でもよく見ると、皆どこか楽しげだ。国民的なお祭りだけに、アクシデントすら非日常を引き立てるスパイスになるのだろう。私の目の前にいた男性3人組は、ずぶぬれのスーツ姿でゲラゲラ笑っていた。

入場料は10万円以上!? 驚きの高額観戦エリア

観戦エリア「マカイビーディーヴァ・マーキー」に向かった。マカイビーディーヴァとは、メルボルンカップを三連覇したオーストラリアの伝説的な名馬(2005年には日本の天皇賞・春にも出走した)。その名を冠する、最高クラスの観戦エリアである。

最高クラスの観戦エリア「マカイビーディーヴァ・マーキー」

広々とした空間にずらりとテーブルが並び、豪華な食事と酒を囲みながら紳士淑女が歓談している。天井のモニターからは競馬中継が流れ、壁際には料理、酒類のカウンターや靴磨きのコーナーもある。あっけにとられていると、ガイドが私にささやいた。

「ここ、入場料は10万円以上ですよ」

10万円!? それは高すぎる……。そんなお金があるなら、軍資金に回せばいいじゃないですか?

「いえ、この“ハイグレードな観戦エリアにいる”ということが、彼らにとってのステータスなので、払う価値があるのです」

なるほど……と言いつつよくわからない。相づちを打ちながらカルチャーショックを受けていると、ガイドはさらに説明を続ける。

聞けば、フレミントン競馬場では観戦エリアごとに入場料が大きく異なり、ドレスコードが自由な一般入場エリアから企業やレーシングクラブが保有し招待客でないと入場できないエリアまであるという。「どこで見るか」が重要な世界なのだ。

カウンターにはお酒がずらり

靴磨きのコーナーには立派なイスが

運試しの馬券勝負! 結果は……?

さて、肝心の馬券である。入場料10万円と聞いた後だと小銭に感じてしまうが、私の軍資金は185豪ドル(約1万5000円)。オーストラリアでの滞在費なので、勝敗が意味するものは決して小さくない。

まずは券種と出走馬情報のリサーチから。券種は日本でもおなじみのものが多い。

《主な券種》

困ったのは予想である。日本ほど競馬新聞が充実していないオーストラリアでは、競馬場で配られるレーシングプログラムに専門家の予想が載っている。だが、レース別におすすめの馬番号が記されただけの淡白なもの。それ以外の手掛かりはほとんどなく、もはや運試しに等しい。

各テーブルに置かれた黄色のブックレットがレーシングプログラム

そこで、モニターに映るパドックをにらみながら馬の状態を見極めることに集中した。そんな私に天は味方した。

この日初戦となったフレミントン競馬第5レース。パドックで最も良く見えた3番の馬の単勝10豪ドル、複勝20豪ドルで勝負した。券売機から出てきたレシートと見まごうペラペラの馬券を握りしめ、モニターを見つめた。

これがオーストラリア競馬の馬券。日本の馬券とは見た目も紙質も大きく異なる

レース序盤、中段に構えた3番は、後半にポジションをぐんぐん押し上げ先頭に。そのまま押し切り、見事先頭でレースを駆け抜けたのだ! 

気になる倍率は……単勝7.7倍、複勝2.5倍。払戻金は127豪ドルで、購入金を差し引くともうけは97豪ドル。よっしゃー!

気をよくした私は、第7レ-スのメルボルンカップの予想に集中した。出走馬は豪州馬13頭、アイルランド馬3頭、英国馬7頭、日本馬1頭の計24頭。

検討に検討を重ねた末、アイルランド馬の11番ユカタンを本命にした。近年メルボルンカップではアイルランド馬の活躍が目立つほか、ユカタンは豪州遠征初戦で楽勝したこともあり、適性を感じたからだ。

買い目はユカタンの複勝50豪ドルと、ユカタン-ベストソリューション(馬番号1番/英国馬)のワイド10豪ドルの合計60豪ドル。どちらも人気馬で当てにいった感はある。弱気じゃないかって? だって勝ちたいんだもの。

大雨が続くフレミントン競馬場に奇跡が……!

発走1時間前に馬券を購入し、食事を楽しみながらレースを待つことにした。朝から降る滝のような雨は、午後に入りますます勢いづいている。まさかの悪天候にガイドたちは表情を曇らせている。

「メルボルンカップの瞬間だけでも晴れればいいんですけどね……」

記者の1人が半ば冗談でつぶやいた。そのあきらめ混じりの祈りが天に届いたのだろうか。発走15分前、突然雨がぴたりとやんだ。

人影もまばらだった観戦スタンドはにわかに活気を帯び、あっという間に席が埋まっていく。朝の寒さがうそのような汗ばむ陽気に。

オーストラリア中が止まる瞬間は、ついに晴天となった。

レース直前。誰もがスタートゲートに釘付けになっていた

スタンドを埋め尽くした幾万の視線が、ターフでたたずむ24頭に注がれる。

ガッシャン!

ゲートが開き馬が一斉に飛び出すと、歓声と拍手が天地を揺るがす。馬群が向こう正面を通過し、最後の直線に差し掛かると、地鳴りのような大歓声がわき起こる。

「ユカタン!」。私もあらん限りの声で叫んでいる。

最後の直線で抜け出した2頭の激しい追い比べに、オーストラリア中が酔いしれた。優勝は、ゴール前で9番マルメロをわずかにかわした23番クロスカウンター。1着から3着まで英国馬が独占した。

ユカタンは11着に沈んだ。でも最高のレースを見られたから悔いはない。

程なくして強い雨が降り始めた。観客席の大ビジョンには、土砂降りの中でのインタビューを受ける優勝ジョッキーが映っている。この日は結局、最後まで降ったりやんだりが続いた。

オーストラリア中を止めるレースへの熱気は、豪雨すら止めてしまった。

スタンドから地鳴りのような歓声が響いていたフレミントン競馬場(Wayne Taylor/2018 Getty Images)

ゴール前でマルメロをわずかにかわし、メルボルンカップを制したクロスカウンター(Vince Caligiuri/2018 Getty Images)

レース中の晴天から一転、土砂降りの中で行われた表彰式(Michael Dodge/2018 Getty Images)

競馬が身近な文化として根付く素晴らしさ

大一番を見終えると、一般の観戦エリアへ移った。大勢の若者がお酒を片手に談笑したり、踊ったりしている。女性も多いのは、オシャレを楽しむイベントでもあるからなのだろう。彼ら、彼女らのファッションを見ているだけでも面白い。

パドックの前でたたずむ若いカップル。女性はやはり華やかな帽子がポイント。この時期メルボルンでは4万円を超える豪華な帽子が数多く売れるらしい

おや? 女性だけではなかった

筆者もターフへの入場ゲート前で記念撮影。胸に添えた黄色のバラは、カーニバル期間中レースごとに設定されているオフィシャル・フラワー

一般観戦エリアの端にはバードケージがあった。企業や団体が保有する観戦ブースを集めたスポットで、アウトレットモールの造りに似ている。足を踏み入れると、そこかしこからクラブさながらの爆音が聞こえてきた。レクサス、VRC(ビクトリアレーシングクラブ)をはじめ、さまざま企業・団体がブースを出展し、招待客らが、音楽、ダンス、食、競馬などを楽しんでいた。ここにも私が知っている競馬場とは別の景色が広がっていた。

バードケージ内のレクサスのブース

多くのブースで大音量の音楽が流れ、招待客らは食事やダンスを楽しんでいた

矢作調教師はオーストラリア競馬の素晴らしさを日本に広めたいと言っていた。私が感じた素晴らしさは、競馬が身近な文化として根付き、ファンだけの営みになっていないことだ。メルボルンカップ当日、フレミントン競馬場では誰もが思い思いに楽しんでいた。ここは競馬場という名の大きな公園なのだろう。

(文・写真 &マガジン編集部 下元 陽)

花のアーケードをくぐって帰路へ。各所でバラが咲き誇る美しい競馬場だった

【取材協力】
オーストラリア政府観光局
www.australia.jp

ビクトリア州政府観光局
jp.visitmelbourne.com

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