にっぽんの逸品を訪ねて

海を挟んで向かい合う二つの神社と海辺のカフェめぐり 横須賀市浦賀

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2019年1月8日

港を望む「サロン・アカンサス」は知らないとたどりつけない隠れカフェ

ペリー来航の地として有名な神奈川県横須賀市の浦賀は、東京湾を守るように突き出た三浦半島の先端付近にある。古くから港町として栄え、干鰯(ほしか)問屋や廻船(かいせん)問屋が並び、江戸時代には浦賀奉行所も置かれた。

今は、のどかな風景の中に歴史を伝える名所や地元で愛されるカフェが点在し、散策におすすめの町。明るい日差しが輝く海辺の町には、ゆったりとした時間が流れている。

お守りも人気、源氏再興ゆかりの神社

浦賀には、繁栄の歴史を伝える立派な造りの神社仏閣が残っている。中でも、縁起や名前から「お参りしたら願いが“叶(かな)う”」と参拝者が増えているのが、浦賀港を挟んで向かい合う西叶(にしかのう)神社と東叶(ひがしかのう)神社だ。2社をめぐって完成する「縁結びお守り」は、恋愛成就だけでなく、さまざまな良き縁をかなえるとして人気だという。

その名も「叶神社」

西叶神社は、京浜急行の浦賀駅から徒歩約15分(バスで5分)。石段の上に立つ社殿は、みごとな彫刻が目を引く。

叶神社は、1181(養和元)年、平家の横暴ぶりに憤った京都神護寺の文覚(もんがく)上人が、源氏の再興を祈願して京都の石清水八幡宮から祭神を迎えてまつった。やがて源氏再興の願いがかなったことで「叶明神」とよばれるようになった。

1692(元禄5)年に浦賀村が東西に分かれたことをきっかけに、叶神社も東西で分霊してまつるようになったと伝わる。

華麗な彫刻は必見

西叶神社の現在の社殿は火災の後1842(天保13)年に再建されたもので、本殿、幣殿は総ヒノキ造り。内外に安房(現在の千葉県南部)の彫刻師「後藤利兵衛義光」の最高傑作と称される約230の彫刻を施した華麗な社殿だ。天保年間は飢饉(ききん)などもあって疲弊した時代だったが、再建費用として住民から約三千両の寄進があったというから、いかに篤(あつ)く信仰され、いかに浦賀の町が繁栄していたかが分かる。奉行所が置かれてからは、武士の参拝も多かったという。

拝殿と幣殿の彫刻をはじめ、中国の故事を描いた社務所の鏝絵(こてえ)、狛犬(こまいぬ)など、見どころは多い。

海の上の“市道”を通って東叶神社へ

西叶神社近くの桟橋から、ポンポン船の愛称で親しまれる小舟で対岸へ渡る。この渡船は浦賀に奉行所が置かれて間もない1725(享保10)年ごろから記録が残り、現代まで地元の人の大切な生活路として使われてきた。渡船の航路は「浦賀海道」と名付けられ、全国でもめずらしい水上の市道(2073号線)に指定されている。船が対岸にいるときは、呼び出しボタンを押すとすぐに来てくれるそうだ。対岸までわずか3分の船旅だが、海上からの景色に心が和む。

対岸へは3分間のクルージング

船着き場から間もなく、明神山を背にした東叶神社が現れる。明神山は、かつて小田原北条氏が水軍のための浦賀城を置いていた。拝殿前の階段から見下ろすと海が間近に迫り、境内の砂が波模様を描いていることもあって、まるで海に浮かんでいるような気持ちになる。

きらめく海が見える東叶神社の境内

江戸時代、勝海舟が咸臨(かんりん)丸で太平洋を横断する前に、この神社の井戸で水垢離(みずごり)をし、明神山山頂で断食をしたと伝えられている。社務所の裏にはその井戸が残る。

東叶神社には古くから恵仁志(えにし)坂と産霊(むすび)坂の二つの石段があり、縁結びにご利益があるとされてきた。西叶神社で購入した勾玉(まがたま)を東叶神社境内の水で清め、境内で販売するお守り袋に入れれば自分だけの「縁結びお守り」ができる。

勾玉とお守り袋は各3色あって組み合わせは自由

海を望む「一番の友達」という名のパン屋さん

東叶神社のすぐ近くに、地元で人気のパン屋「ワンこぱん」がある。ワンは英語の「1」、コパンは友達を意味するフランス語からとり、「一番の友達」という思いを込めたという。

海に面したマリーナ2階の店舗に入ると、窓の外に一面の海が広がる。

「ワンこぱん」の店内。のんびり過ごす人が多いという

リンゴや酒かすなどから起こした約4種の自家製天然酵母を使い、女性店長が1人で製造から販売まで行っている。天然酵母のうまみと小麦の風味が生きるように、生地には油脂と砂糖を一切使用していない。

棚には、甘さ控えめのチョコレートクリームが入った「チョコわんちゃんパン」や、ローストしたふすまを入れた香ばしい「ヘーゼルナッツ」など、デザインもネーミングもユニークなパンが並ぶ。30~35種もあるそうだ。

見た目も味も、ほっと心安らぐ

18時間かけてじっくり生地を発酵させるというパンは、小麦の風味がふんわりと口に広がるやさしい味わい。雑味のない後味の良さも、シンプルな材料で丁寧に作ったことを伝えてくれる。チーズやナッツ、チョコレートなど、さまざまな材料と合わせたパンを、海を見ながらゆっくり味わいたい。

知らないと見つからない“かくれカフェ”

東叶神社の近くには、“浦賀のかくれカフェ”といわれる「サロン・アカンサス」もある。東叶神社の石段を上がって左手に進むと、アカンサスの葉陰から総ガラス張りの白い建物が現れる。20年前、オーナーの國松登美さんが雑誌で見て一目ぼれしたという英国製のサンルーム「コンサバトリー」を取り寄せ、カフェとしてオープンした。

店内もイギリス一色で、テーブルやイスは英国製のアンティーク家具、食器はウェッジウッド。窓からは明るい日差しが降り注ぎ、眼下には浦賀港が広がる。

家具や小物も英国製で洗練された店内

アップルシャーロット(1200円)やスコーン(ドリンクとセットで1200円)などスイーツメニューはすべて手作り。「納得できる安全なものをお出ししたいので、スイーツはすべて焼き菓子にしています」と國松さん。使用するドライフルーツは3種類のリキュールを合わせて半年以上漬け込んだもの、スコーンにもショートニングや添加物を使用しないなど、メニューへのこだわりも本格的だ。

手作りのスイーツをウェッジウッドで

日本茶にあうホットドッグを味わおう

浦賀駅前でぜひ立ち寄りたいのが、日本茶カフェ「茶井(ちゃい)」だ。日本茶専門店ならではのこだわり抜いた茶葉を使い、プロがいれた日本茶が味わえる。

ひとくちにお茶といっても100種類を超え、環境や栽培方法、そしていれ方によっても味が変わる。日本茶インストラクターの資格を持つ店主の佐藤国久さんは、生産者を訪ねて茶葉を仕入れる。メニュー表には「おいしい抹茶」(京都)、「黒船茶―龍馬のお茶」(長崎)など、佐藤さんが選び抜いたお茶がずらりと並んでいる。

カウンターに立つ佐藤国久さん

最も印象的だったのは「一滴茶(玉露)」(800円)。“30℃の衝撃”との解説の通り、30℃で抽出した1煎目は、これまでに体験したことがないほどの芳しい香りと甘み。ダシのようなうま味がある。高温でいれた2煎目、そして残った茶葉をポン酢で味わうと、3段階で楽しめる。

いれ方を変えると味も変わる

日本茶に合う「地産地消メニュー」も考案。「昆布ドック」は、地元産の昆布を甘く煮て、ロースハムやチーズと合わせたホットドッグ。「海苔ドック」はウィンナーにみたらしタレをかけ、ノリを巻いている。パンと和の食材、日本茶がよく合うのでびっくり。和洋の取り合わせは、ペリーが訪れた浦賀らしい名物だ。

日本茶に合う「地産地消メニュー」

【問い合わせ】
西叶神社
http://kanoujinja.p1.bindsite.jp/

東叶神社
http://www.geocities.jp/fnhachiman2000/kanouhome.html

ワンこぱん
https://www.facebook.com/OneCopain

サロン・アカンサス
http://www.salonacanthus.com/index.html

日本茶カフェ「茶井」
http://www.e-chai.jp/cafe/index.html

横須賀市観光情報サイト「ここはヨコスカ」
http://www.cocoyoko.net/

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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