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“豪州競馬の女子会” 「オークス・クラブ・ランチ」で過ごした白昼夢 ~メルボルン滞在記02~

  • &TRAVEL編集部
  • 2019年2月8日

  

昨秋、オーストラリアはメルボルンに飛び立ち、日本ではあまり知られていない豪州文化に触れてきた&マガジンの編集部員。そのレポート第一弾として、オーストラリア中がくぎ付けになる競馬の国民的レース「メルボルンカップ」の体験談をお届けしました。

今回はその続き。実はレース翌日も競馬イベントへ足を運んだのです。といっても、そこに馬の姿は1頭もなく、いたのは数百人に及ぶ女性たち。一風変わったパーティーに参加した筆者が、真っ昼間からほろ酔いになり、大勢の女性に囲まれてバブル期のディスコダンスを踊り狂ったのでした。

G1「オークス」の前日祭へ

2018年11月8日にフレミントン競馬場で行われたオークス Vince Caligiuri/2018 Getty Images

毎年11月の初旬、オーストラリアは国民的な競馬の祭典「メルボルンカップ・カーニバル」で大盛り上がり。8日間のカーニバル期間中、フレミントン競馬場で四つのG1レースが行われるほか、競馬やファッション、グルメ、音楽などのイベントが各地で開かれる。

カーニバルの最大の目玉であるG1「メルボルンカップ」を観戦した翌日、筆者はとある競馬イベントに足を運ぶことになった。その名も「オークス・クラブ・ランチ」。3歳牝馬(ひんば=メス馬)の頂点を決めるG1「オークス」の前日に開かれるランチイベントで、世界最大級の会員制競馬クラブ「ビクトリア・レーシング・クラブ」(以下VRC)が主催している。

「要は女子会です」

出発前、現地ガイドはそう説明してくれた。一般に競馬イベントというと、専門家によるレース予想や、タレントや競馬業界人によるトークショーが多いが、「オークス・クラブ・ランチ」はそういったものとは趣が違うらしい。

なんせドレスコードがある。豪華な食事もある。ちょっと派手な結婚披露パーティーのようなものか? フォーマルなスーツで身支度を調えながらそんなことを考えていたが、現実は想像を軽々と超えるものだった。

「女子会」的な競馬イベントへ行ってみると……

イベントがあったのは、メルボルンのヤラ川沿いにあるホテル「クラウン・タワーズ・メルボルン」。南半球で最も大きなカジノを擁する高級ホテルだ。1階にはカジノのプレールームをはじめ、欧州の高級ブティックや一流レストランなども並び、キラキラというよりギラギラというほうがしっくりくる。

会場のある2階に上がると、ドレスアップした女性たちがフロアを埋め尽くしていた。この日の参加者は1400人。年齢層は幅広いが、どちらかというとお年を召した方が多い。皆、華やかな帽子と衣装に身を包み、ドリンクを片手に会話を楽しんだり、フォトスポットで記念写真を撮ったりしている。確かにこれは女子会だ。男性は取材者として特別に参加を許された自分を含めて、数えるほどしかいなかった。

フォトスポットで記念撮影をする女性たち

フォトスポットには順番待ちの長い列ができていた

正午になり、会場の「クラウン・パラディウム」の扉が開いた。青く照らされたダンスフロアにテーブルを敷き詰めたかのよう。1000人以上は軽々と入れそうだ。

オークス・クラブ・ランチの会場「クラウン・パラディウム」 ©Karon Photography

「えっ、なにこれ! 見て、見て!」

指定された席に着くと、女性の同業者たちから歓声が上がる。椅子の上に革のハンドバッグが置いてあり、その中にはコスメやストッキングなどが入っている。いずれもVRCの協賛企業による参加者へのプレゼントだという。

参加者の席にはプレゼントが置かれていた。こちらはVRCのスポンサーの一つ、英国の老舗ラゲッジブランド「アントラ-(Antler)」のバッグ

VRCの攻勢はこんなものでは終わらない。アマンダ・エリオット会長のあいさつを皮切りに食事会が始まると、テーブルの上に置かれた箱を開けるよう促された。中を見ると、日付と時刻が記載されている。この日付と時刻が、あとで司会者が読み上げるものと合致すれば、スポンサーから賞品がもらえるという。ビンゴに似たイベントだが、賞品がまあ豪華なこと……。

例えば、「カルティエ」のシンボルともいえるシリーズ「パンテール・ドゥ・カルティエ」の腕時計。3万8400ドル相当(日本円で約300万円 *1豪ドル=81円で換算)のブリリアントカットダイヤがついている。英国のハイジュエラー「グラフ」のペンダントは、4万3200ドル(約350万円)相当のダイヤが用いられているという。

参加者の席に配られた箱の中には日付や時間が記載されている。司会者が読み上げる数字と合致すればスポンサーから豪華賞品が贈られる

いよいよイベントが始まる。司会者が登壇し、静まりかえる会場。当選確率は1400分の1だ。けれど、自分では一生買うことのない逸品が手に入るかもしれないと思うと、妙にドキドキする。

司会者が数字を叫んだ。一瞬の静寂の後、遠くのテーブルで悲鳴が上がる。私たちのテーブルは全員が外れたことを察し、落胆した空気が漂う。

入り口付近のテーブルから両手を口に当て戸惑う当選者がゆっくりと立ち上がり、舞台へと歩いていく。沸き上がる万雷の拍手。既視感がある光景だ。あ、米国アカデミー賞の授賞式に似ている。受賞は逃したけれど、その場にいることがどこか誇らしい。勝手に自分を俳優に重ね合わせ、当選者に拍手を送りながら、つかの間の非日常に浸った。

壇上に上がって喜びのスピーチをする当選者(右) ©Karon Photography

イベントの目的は「社交場の提供」

プレゼントイベントの後は、しばらく歓談の時間だ。会場内を見渡すと、あちこちで帽子や服を指さしながら会話している。ファッション談義に花を咲かせているのだろう。

「オークス」と競馬のレース名を冠したイベントなのに、参加者からもイベント内容からも、あまり“競馬”を感じない。そのことを改めて不思議に思っていると、同行していたVRCのスタッフが説明してくれた。

「『メルボルンカップ・カーニバル』は競馬に限らず、エンターテインメント、ファッション、スポーツ、食事やワイン、そして社交の場を祝う祭典です。『オークス・クラブ・ランチ』は競馬開催日以外に女性に社交の場を提供することが目的なので、特別競馬にフォーカスすることはありません」

そう、ここは社交場なのだ。では、なぜ女性が主役なのか。

「もともと男性用にはカーバイン(carbine)と呼ばれるクラブがあり、そのメンバーズランチに参加できるのは男性のみでした。女性は配偶者やパートナーに同行して競馬場へ行くことはあっても、カーバイン・クラブ・ランチには出席することができませんでした。このため、女性向けに『オークス・クラブ・ランチ』を開催することにしたのです」

こうしてこのイベントは昨年28回目を迎えたのだという。

素敵な帽子をかぶっていたマダム。参加者の多くは、デザイン性の高い帽子を身につけていた

会場には著名な帽子デザイナーのキム・フレッチャーさんの姿も

レジェンドシンガーらのライブで揺れる会場

会の終盤、音楽ライブが開かれた。スペシャルゲストが2人。最初に登場したのは、5度のグラミー賞受賞歴を誇る米国のソウルシンガー、ディオンヌ・ワーウィック。英音楽誌「Q」が選ぶ「歴史上最も偉大な100人のシンガー」に名を連ねる伝説的ミュージシャンだ。

黒い衣装を身につけたワーウィックがステージに姿を現すと、大歓声が上がる。ステージに近い席の参加者が次々に立ち上がり、舞台の前に人だかりができた。

この日77歳のレジェンドは、「あなたに祈りをこめて(小さな願い)(I Say a Little Prayer)」「ハートブレイカー(Heartbreaker)」「恋よさようなら(I'll Never Fall in Love Again)」「愛のハーモニー(That's What Friends Are For)」など往年の名曲を披露。会場中が歌声に酔いしれる。一緒に歌う参加者の声が会場に満ちていく。

パワフルなワーウィックのステージ ©Karon Photography

ワーウィックの歌でムードは一変した。じっと座って食事を楽しんでいる場合か――。その思いは次のライブで爆発する。

次に登場したのは、フュージョンソウルとエレクトロニックジャズを組み合わせたソングライター兼パフォーマーのMaya。ダンサブルでパワフルなステージに、舞台の前の人だかりが激しく揺れる。ドレス姿で踊っているのだ。

「前に行こう!」

一緒のテーブルにいた某旅行メディアの女性編集長が立ち上がった。みな、きっかけを待っていたのだろう。私たちも続いた。

多くの参加者が踊ったMayaのライブ ©Karon Photography

ステージ前は猛烈な熱気に包まれていた。老いも若きも踊っている。隣では、女性編集長が腰をくねらせている。私もつられてくねくね。日本からの参加者は、あうんの呼吸でバブル時代のバブリーダンスを始めた。手にはあるはずのない扇子が見える。偶然だが、前日の夕食時、皆でディスコの話をしていたのだ。独特の動きに驚いたのか、周囲の物珍しげな視線が刺さる。構うものか。みな酔っ払っているのだ。

時計は午後3時過ぎを指している。日本では同僚が忙しく仕事をしている頃だ。酔いに任せてオーストラリアの地で昼間から踊り狂うことに、罪悪感はまるでなかった。

Mayaのステージが終わると、参加者同士が互いをねぎらうようにハグをした。私も目が合った人とハグ。何ともいえない一体感と達成感が体を駆け巡った。

会場の至るところではじける笑顔の女性が。見ているこちらも幸せな気分になってくる

帰路、「要は女子会です」という現地ガイドの言葉を思い出した。競馬のイベントだけど競馬を強調しない。けれども終わってみるとイベントが好きになり、競馬のイメージもアップしている。何とも不思議な仕組みだと思う。

「この先も、多くの皆様に興味を持っていただけるレース以外のアクティビティーを続けます。海外からも『メルボルンカップ・カーニバル』を観戦に来てもらえる多様なプログラムを準備して」。VRCのスタッフはそう語っていた。

彼らの頼もしい言葉に期待が膨らむ。どんな形であれ、競馬を好きになる人が一人でも増えるのであれば、ファンとしてそれ以上の喜びはない。

(文・写真 &マガジン編集部 下元 陽)

【取材協力】
オーストラリア政府観光局
http://www.australia.jp

ビクトリア州政府観光局
https://jp.visitmelbourne.com

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