• 旅は自分探しの最強ツール 週末48時間が64時間に リーマントラベラー・東松さん

旅は自分探しの最強ツール 週末48時間が64時間に リーマントラベラー・東松さん

月1回は必ず海外旅行に出かけ、数々のメディアに登場しながら、週末は各地で講演。書籍を2冊出版し、会員約50人を擁するオンラインサロンも主宰する――。さながらタレントか文化人のような活躍ぶりだが、 東松 ( とうまつ ) 寛文さん(31)は、広告会社に勤務するサラリーマンだ。「社畜」寸前だったという東松さんを変えた「旅」とは? 「リーマントラベラー」と名乗り、サラリーマンであることにこだわる理由はどこにあるのか? 旅のプラン作りのコツは? ――東松さんに語ってもらった。

(文:&編集部・千葉正義 写真:山田秀隆)

「社畜」寸前が旅に目覚めるきっかけ

――もともとは、どんな会社員でしたか?

新卒で入った広告会社で、広告枠のセールスやイベントのプロデュースを担当し、毎日、終電で帰るのが普通。週末は、合コンに行くことが生きがい。仕事がなくても、会社に残っていることが大事と考えるような、昔の典型的なサラリーマン。いわゆる「社畜」寸前でした。

――それが変わったきっかけは?

中学・高校とバスケ部だったので、アメリカのNBAにあこがれていました。7年前、プレーオフのチケットはいくらするのかネットで見ていたら、意外に安かったので、行くつもりもないのに記念に購入しました。送られてきたチケットを毎日見ていると、本当に行ってみたくなり、4連休に合わせて1日だけ有給休暇をとり、1人でロサンゼルスに行くことにしました。

ホテルも予約せず、頼りのガイドブック『地球の歩き方』も忘れてしまいました。とりあえず降り立ったハリウッドで、周囲の人に片っ端から「アイ ウオントゥー ゴートゥー ホテル」と話しかけ、なんとかホテルにたどり着けました。英語は苦手で、当時、英語テストTOEICは990満点で440点。外国人と話したのも初めてでしたが、何とかなりました。

夢のNBA観戦も果たし、大学のアメフトの練習もたまたま見学できました。一番衝撃だったのは、現地は平日なのに、大人が人生を存分に楽しんでいたということ。昼間から同じユニフォームを着て試合観戦したり、ビーチでお酒飲んだりしていました。それまでの自分は、平日はいつも残業。週末の合コンも得るものがないと感じながら、もんもんとしていました。でも、海外に行くと、時間が短くても楽しめて、「アメリカがこうだったら、他はどうなっているか知りたい」と好奇心が抑えられなくなり、翌年から週末だけの弾丸ツアーで海外に行くようになりました。

米国NBAのプレーオフを観戦(2012年、東松さん提供)

東松さんは社会人3年目(2012年)の米国ロサンゼルスを皮切りにアジア各国や中東、キューバなどを訪問。2016年10月からは3カ月かけ、会社を辞めず、週末だけで世界を一周する旅を実現した。これまでの7年間で、67カ国145都市を訪れた。

その日に行くべき理由を決める

――旅先は、どのようにして決めているのでしょうか?

まずは、現地でお祭りやスポーツ、音楽フェスなど、面白いイベントがないか調べます。イベントがあると、その日に行かなければならない理由ができますし、得られるものも普段とは比べものにならないほど多いです。

例えば2017年、サウジアラビアで、サッカーワールドカップのアジア最終予選(日本対サウジアラビア戦)がありました。サウジアラビアは当時、観光目的の外国人は入国できなかったのですが、この時は例外的に入国できると知り、迷わず渡航を決めました。イスラム教の聖地メッカがあり、戒律を厳しく守る国として有名で、世界一入国が難しいとも言われていました。

空港からホテルに行く途中の道路は、年一度の大巡礼の最終日のため、大渋滞でした。ホテルに着いて街に出ると、男性は白色の、女性は黒色の民族衣装を着ていました。そこで突如、周囲がざわつき、お祈りが始まったのです。静まりかえって全員がひざまずきます。見てはいけないものを見ている気分になっていたところ、現地の人から「なぜ写真撮らないの」と言われ、拍子抜けしました。そのおかげで、試合のあったスタジアムのコンコースで始まったお祈りの様子も写真に収め、ツイッターにアップしました。

試合が終わり、ホテルに戻ると、ツイッターの通知が止まらなくなりました。アップしたお祈りの写真がリツイートされ続け、その数は7千を超えました。ほとんどがアラビア語のアカウントで、コメントを翻訳して読むと、「日本人、歓迎する」など好意的なものでした。

翌日、現地の新聞記者からツイッターに、いくつか質問に答えて欲しいとメッセージが届き、記事になるかもと期待し、答えました(グーグル翻訳を駆使して)。翌日の紙面を見てびっくりしました。私が「サウジアラビアの文化を日本に伝える日本人サポーター代表」として、記事だけで丸々1ページ使われ、ネットでもアラブ諸国に配信されていました。

サウジアラビアでサッカーの試合前にスタジアムでお祈りする人々(2017年、東松さん提供)

東松さんは2016年、会社員をしながら旅を続ける自らの生き方を「リーマントラベラー」と名付けることにした。「リーマントラベラー ~働きながら世界一周~」というブログを開設し、旅での体験を世間に発信することを始めた。世界一周の旅を終えたところで、旅行ガイド『地球の歩き方』から「旅のプロ8人」に選ばれた。ブログを見た出版社から書籍化の誘いがあり、『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』を出版することになった。

自分の強み弱みを知り、仕事にメリハリ

――「リーマントラベラー」になって、変わったことは?

サラリーマンになることも、旅行に行くことも、自分で主体的に選んでいると実感できるようになりました。昔は、会社に残っていないと不安でしたが、自分で旅行に行くと決めたことで、ちゃんと金曜日の定時までに終わらせなければならなくなりました。意外にその気になれば仕事は終わるんです。休み方を変えてみたら、働き方も勝手に変わってきた。それは日本にいるだけでは気づけなかった。

最近は、早く帰れるようになったのに、やることがなくて困っている人も多いと聞きます。それはもったいない。旅に行くとリフレッシュするだけでなく、新しい気づきあり、パワーアップします。帰りの飛行機の時間は、自分探しの材料がいっぱいあるんです。

自然に選んでいる旅先の行動を振り返ると、自分の強み弱み、好き嫌いが分かります。それによって、全部の仕事で120%を目指すのではなく、得意なことは打ち込む、そうでないことはミスしない程度にすることで、メリハリがつけられるようになりました。その結果、ホームランが打てるようになりました。仕事に対するメリットが得られることも体感できています。

コンゴ共和国で現地の女性たちと(2016年、東松さん提供)

――旅費はどうやって工面しているのですか?

旅のおかげで、自分自身の「軸」ができたと感じます。今までは、みんなが持っているから欲しいとか、みんながやっているからやらなくてはいけないとか、自分ではなく、他人の基準で物事を選んでいました。それがなくなりました。飲み会でも、これは自分にとって必要だから行く、不要だから行かないと判断できるようになって、無駄遣いが減り、旅の費用ができるようになりました。合コンをスパっとやめたのは、これのおかげです。

仕事のない時間をフル活用すれば週末は64時間

――初心者にお勧めの旅プランは?

休めない人ほど、週末に行くことになると思いますが、週末が始まる土曜日発のチケットを探すと、値段が高いケースが多いです。それを1日広げてみて、前日の金曜日夜に出発するだけで、チケットの値段が結構下がります。さらに経由便にすると、行き先の幅も広がります。

羽田空港だけでなく、成田空港も定時で会社を飛び出せば、午後9時台以降の便にも乗れます。成田には、中東系のエアラインも多いので、中東が目的地でなくても、乗り継ぎでヨーロッパにも行けます。そうすると、直行便より安く、乗り継ぎ先も楽しめるんです。

週末は48時間ではなく、64時間なんです。金曜日の終業時刻から月曜日の始業時刻までをぎりぎり使うと、そうなります。会社のために休むと考えると、月曜日からの仕事に備えて日曜の夜はゆっくりしたいので、休みは2日間になります。でも、自分のためと考えると、仕事のない時間すべてが休みで、それをフル活用したいと思える。64時間あったら、機内泊含め3泊できる。1泊4日できると、選択肢がすごく広がるんです。

――飛行機内での楽しみ方のコツは?

最近は完全に(動画配信サービスの)「Netflix」です。海外ドラマ好きなんです。事前にダウンロードしていけば、ずっと見てられますね。問題は、続きが気になっちゃって、ホテルでも夜更かしして見ちゃうことです。逆に集中して見ていられる環境は日本だとあまりないので、楽しめますね。

会社を辞めなくても、一歩を踏み出すことはできる

――自分の生き方にもやもやしている、悩める人たちにメッセージを

最近は、独立や起業、転職などがもてはやされているところがあって、そうしなくちゃならないとせかされ、逆にそれがしんどいという人も多いと思います。世間では、そういうことをうまくできた人だけ取り上げられ、逆に多くの人に「自分には会社を辞めてまでやりたいことは見つからない」と思わせている面もあるように感じます。でも、どうにかして一歩踏み出し、自分で決定することで人生の満足度が上がる。だからこそ、私のように会社を辞めなくても、一歩を踏み出すことはできるということを知ってもらいたいです。

好きなことがあった方が一歩目を踏み出しやすいですが、それがない人は、旅が好きなことを見つけるきっかけになるし、自分を探すきっかけになります。何かやりたいことが見つからないともやもやしている人は、まず旅に出かけた方がいいです。旅は自分探しの最強のツールです。

PROFILE

東松寛文(とうまつ・ひろふみ)

1987年、岐阜県生まれ。神戸大学卒業後、広告会社に就職。現在も会社員として勤務を続けながら、週末や年末年始などを使い、世界中を旅している自称「リーマントラベラー」。2016年に世界一周を達成してから、テレビや新聞、ラジオ、雑誌などのメディアに多数出演し、全国各地で講演もしている。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『休み方改革』(徳間書店)。朝日新聞社が運営するオンラインサロン「リーマントラベラーサロン」も主宰し、旅好きな人たちと交流も行っている。