• 「世界で最もクールな地区」の一つ、パリのストラスブール・サンドニに行ってみた

「世界で最もクールな地区」の一つ、パリのストラスブール・サンドニに行ってみた

「いま、パリで面白いのは10区のストラスブール・サンドニ界隈(かいわい)」。現地で暮らす友人からある日、そんな話を聞きました。クリエーティブな才能を持つ人たちが、おしゃれなホテルやレストラン、カフェを次々とオープンしているのだそうです。

ストラスブール・サンドニ……? パリの主要な観光スポットに何度か訪れたことがある筆者も、それがどんなところなのかよく分かりませんでした。日本のガイドブックなどで、ほとんど取り上げられることがなかったからかもしれません。

調べてみると、インド、スリランカ、アフリカなどからの移民が多く、多文化が混じり合い、混沌(こんとん)とした雰囲気がある街だとのこと。また、アンナ・カリーナがストリップダンサーを演じた映画『女は女である』(1961年、ジャン=リュック・ゴダール監督)の舞台となり、パリの下町らしさが魅力だといいます。昨年の『タイムアウト』誌による調査で、ストラスブール・サンドニは「世界で最もクールな50の地区」の7位に浮上――。いったいどんな街なのか気になって、行ってみることにしました。

(文・写真=&編集長 辻川舞子、トップ写真は「オテル・プロヴィダンス」外観)

人気レストランの仕掛け人が作った、初のホテル

10時55分成田発のエールフランスに乗って、一路パリへ。夕刻空港に降り立ち、家路を急ぐパリっ子たちであふれかえる電車を乗り継ぎながら、10区の「オテル・プロヴィダンス(HOTEL PROVIDENCE)」に向かいます。

シャルル・ドゴール空港からパリ市内に向かうRER(パリ高速鉄道)の乗り場へ

ホテルの扉を開けてすぐ目に飛び込んできたのは、落ち着いた照明の下で、クラシックな家具に囲まれながら、お酒とおしゃべりを楽しむ人たち。地元の人が集う、居心地の良い空間のようです。本当にホテルなのか?と一瞬戸惑いました。ここは、バー&レストラン「ブラッスリー・バルベス」や「ブイヨン・ピガール」などパリで話題のスポットを次々と手がけているピエール・ムシエらによる、初のホテルです。

(左)オテル・プロヴィダンス1階のバー&レストラン。ぐっと落とした照明でくつろぐ
(右)ソファラウンジでは暖炉が燃えている

工事に2年半もの歳月をかけ、2015年にオープン。ベルベットの壁紙、カーペット、木の床、照明……すべてにこだわりがあふれています。「ある日たまたまこの建物を通りがかったピエールが、一目ぼれしたのです。自らインテリアを一つひとつていねいに選び、18室すべてデザインが異なるようにしました」と話すのは、ゼネラルマネジャーのポーリーヌ・デラモンドさん。

ポーリーヌ・デラモンドさん
ビートルズ、ポール・サイモン、サミー・デイヴィスJr.からジョアン・ジルベルトまで……メロウな音楽が静かに響く

ピエールが最もこだわったものの一つは、客室のミニバー。本格的なバー用具がそろい、宿泊客が自らカクテル作りを楽しむことができます。プライベートな空間にいながら、パリの古いバーの雰囲気を楽しめるのです。

筆者が泊まった部屋。ベルベットの壁が美しい
(上)小さなバルコニーがついている。まるでパリで暮らしているような気分に
(左下)客室に備えられたバー用具は、エレガントなたたずまい
(右下)自然な素材にこだわったアメニティーグッズ

キャンドルや客室のシャンプーなどは、日本でも人気の総合美容専門店「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」を手がけるラムダン・トゥアミとともに開発。甘く上品なチュベローズ(月下香)の花の香りがします。

「お客さまに、まるで家にいるかのようにくつろいでほしいと思うんです。だから、価格は適正でいたい」と、ポーリーヌさん。「繰り返し泊まりにきてくださって、友だちのようになるお客さまが多いんです。パリ・コレのたびにいらっしゃるファッション関係の方も多いですね」

たしかに、洗練されながらほどよいリラックス感がある。手作りのぬくもりが心地よい。またパリにくるときは、ここに戻ってきたくなるのがわかる気がしました。

10区の魅力について尋ねると、ポーリーヌさんはこう話します。「人気のマレ地区まで歩いてすぐ。ターミナル駅である北駅、東駅や、主要なメトロの駅にアクセスしやすい。なのに、物価が決して高くないことですね。素材がよくておいしい、手頃なレストランがいくつもあります。それがこのエリアのよさではないでしょうか」

人種のるつぼ、フォーブル・サンドニ通りへ

そんなお店を探しに、ホテルの外へ出かけます。表通りには、世界から観光客が集まるような華やかな雰囲気はなくて、そこにあるのは市民の日常風景。インド人街のパッサージュ・ブラディを抜け、飲食店や食料品店が立ち並ぶフォーブル・サンドニ通りを目指します。

(左)インド、パキスタンレストランが並ぶ「パッサージュ・ブラディ」
(右上)壁にはグラフィティーがいっぱい
(右下)アフリカ系の人のための美容室が並ぶ
フォーブル・サンドニ通りの終着点には、パリで最も古い凱旋門「サンドニ門」が。ルイ14世のライン河での戦勝を祝って1672年に造られたという

多種多様なフランスの食材と消費者を結ぶレストラン

大通りから1本入ったところに、連日にぎわいをみせている店があります。その名は「ラヴァン・ポスト(L'Avant-Poste)」。店主のフローラン・ピアールらがフランス中の農家、ワイン生産者や職人のもとへと足を運び、多種多様な食材を選び、料理へと仕立てています。2017年にオープンした「レ・レジスタン(Les Résistants)」の成功に続き、2019年9月にオープンしたとのこと。

「ラヴァン・ポスト」は、リラックスしたカントリースタイル

現代の農業では栽培される品種が標準化され、味も画一的になっている。フランスの多様で豊かな食文化が失われてきている――そんなことに危機感を持った店主らが「10箇条の憲章」を掲げ、それに沿って行動することを宣言しており、メニュー表にも書かれています。

  • (1)本当に味の良い製品を提供すること。
  • (2)家畜を良好な環境で育てること。自然のサイクルを尊重すること。
  • (3)持続・発展可能な生産システムを選ぶこと

など。

産地から直送される食材は日々違うので、メニュー表に載る料理も入れ替わります。夜の料理は小皿約14種で、その中から選び、仲間で取り分けて食べるスタイルです。この日は二人で5皿をチョイス。野菜中心の料理は、どれも優しい味わいで、ビオワインとともに、するすると胃袋に収まっていきます。しめて61.5ユーロ(約7,500円)。てまひまかかった料理なのに、お手頃だと感じました。

(左から)パリ20区のパン屋「ル・ブリシュトン」による天然酵母のパン、しいたけのグリル、パースニップのフライ
ヴァルドワーズ県のブルーノ・ザンブレラさんによるしいたけのグリルは、香りが高く、かみしめると深い味がした

店内は明るいカントリースタイルで、肩肘張らないリラックスムード。改装したときに見つかったという19世紀当時のタイルの床が、そのまま生かされています。フランスの農業や食文化を守りたいという店主らの志に賛同し、たくさんのお客さんが集まって、いい循環が生まれている。こんなお店が、私が暮らす東京にもたくさんあったらいいのに、と思ったのでした。

乗った瞬間から感じる、フランスのエスプリ

今回私が搭乗したのは、エールフランスのエコノミークラス。席に着いたら、おしゃれなデザインのアイマスクが用意されていました。

食事は、シャンパンからスタート。機内でセルフサービスでスナックを楽しめる「マイ・リトル・グルマンディーズ」というコーナーでは、おいしくてかわいいキャンディーを手に入れました。ちょっとしたところに、洗練された遊び心を感じます。飛行機に乗り込んだら、そこはもうフランスです。

エールフランス公式ホームページ:https://www.airfrance.co.jp/

PROFILE

辻川 舞子(つじかわ・まいこ)

1993年、朝日新聞社に入社。広告局(現・メディアビジネス局)に配属。ファッション業界を担当し、朝日新聞のファッション面新設で日本新聞協会の「新聞広告賞」を受賞。2013年の朝日新聞デジタル「&」の創刊から編集部員として携わり、2018年6月から編集長。