花のない花屋

30歳のひとり娘から57歳の父に贈る花束

父との会話が生まれるきっかけに

父との会話が生まれるきっかけに

〈依頼人プロフィール〉
関 真麻 30歳 女性
東京都在住
会社員(朝日新聞デジタル&w編集部員)

    ◇

2010年の夏、5年ぶりに実家に帰ったら、父が痩せているのに驚きました。どんな食生活を送っているのか? 病気じゃないのか? 心配になります。
母に聞いたら、「あまり食べなくなった」と言っていました。

人見知りで、無口な父は警察官。
趣味は釣りや山登り。家では、ひたすら映画鑑賞をしています。

音楽はクラシックやジャズだけでなく、木村カエラや倖田來未まで聴いているようで、ピアノやお琴を黙々と弾くのが好きという変わり者です。
幼い頃は、休みの日の朝はいつも父が弾くショパンの夜想曲で目覚めていました。それだからか、今でも不思議と日曜日の朝は、夢の中でショパンの曲が聞こえてきます。

私は大学にあがるときに上京し、就職してからは地方を転々として、いまは東京でひとり暮らし。「帰ってこい」と言われたことは一度もありません。ひとり娘なのに、心配してないのかなと思うくらい、電話もかかってこない。でも以前、お付き合いしている男性の話をしたとき、「どこの生まれだ? 家柄は?」と必死だったから、気にはしているのだと思います。

父とはなかなか一緒に旅行に行くこともできなかったし、中学の頃から話したいことがあっても、なんて話しかけていいのかわかりませんでした。なにか用事があっても、母に「伝えといて」と。いまでも、照れくさいというか、何を話せばいいのかわからないというか。

一度だけ、父にプレゼントを贈ったことがあります。就職して、初めてもらったお給料で財布を買いました。毎日持つものだし、10年以上同じ財布を使っていたのを見て、大事に使ってくれそうだと思ったからです。

でもそれ以来、誕生日や父の日にプレゼントもメールも送ったことはないのです。

もうすぐ私は31歳。父は57歳で単身赴任中。
もう、いい大人だし、一緒に旅行にも行きたいなあ。会話するきっかけになりそうな花束を贈りたいです。

娘から父に贈る花束に使った花材

娘から父に贈る花束に使った花材

花束を作った東さんのコメント

お父様、すてきな趣味人ですね。警察官という固い仕事柄、ピアノや山登りで息抜きをしていらっしゃるんでしょうか。

今回は誕生日やお祝いではないので、華やかなアレンジというより、花を通して会話のきっかけが生まれるようなアレンジを目指しました。

真ん中に立てたのは、インパクトのあるガステリアという多肉植物です。周りの花がすべて枯れても、植え替えれば鉢物として育てることができます。最初は水で育てて、根が伸びてきたら土に移し替えるのがおすすめ。お父様のような多趣味な男性は、植物を育てていくのがけっこう好きなんじゃないでしょうか。

周りの花は緑のグラデーションにしました。あまり男っぽくしすぎるのもと思い、フリージアやブバリアなど、季節の花を加えています。あとはグリーンローズ、なでしこ、ラナンキュラス、菊、バラ……全部で10種類くらいでしょうか。すべてつぼみの状態で差していますので、時とともに咲いていく様子も楽しんでいただけると思います。

単身赴任で働いていらっしゃるので、なるべく長持ちする花材を使うように心がけました。

何年か経って、「あれどうなった?」「かなり大きくなったよ」と、会話が弾んだら、と願っています。

  

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

30歳のひとり娘から57歳の父に贈る花束

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


人の心を贈る、オートクチュールの花屋(後半)

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