花のない花屋

「アジアンタムのある庭」で育ったお兄ちゃんへ

ひとつ屋根の下で暮らすいとこの兄に贈る花束

ひとつ屋根の下で暮らすいとこの兄に贈る花束

〈依頼人プロフィール〉
川生真理子さん 31歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

12歳上のいとこのお兄ちゃんと一つ屋根の下、2世帯住宅で暮らしています。

私は大学時代からこの家に住んでいたのですが、4年前に改築し、1階にお兄ちゃんが引っ越してきました。仲はいいのですが、口ベタだし、恥ずかしがりやです。

あるとき、2階で友達と、結婚式の余興のダンスの練習をしていたとき、足音がうるさかったらしく、1階から天井を棒でつついて穴を開けたことがありました。大人げない。ちゃんと話せばいいのに。

それでも、一人っ子の私にとって本当の兄のような存在です。

3・11の震災のとき、私は仕事でパリにいたのですが、私の母が病院の帰り道に埼玉から群馬の家まで帰れなくなってしまったと聞いて、わざわざバイクで母を迎えに行ってくれました。去年、母が手術したときも付き添い、何度も病院までお見舞いに行ってくれました。仕事で日本を離れることの多い私にとって、かけがえのない人なのです。

私は幼い頃から母の手ひとつで育てられたため、地元の群馬にいるお兄ちゃんの家族も同じ家族のようです。母の兄である叔父のことは「お父さん」と呼ぶし、お母さんに聞くようなことも、叔母に電話して聞いてしまいます。

そんな私も今年はいよいよ、結婚について考え始めました。

私が生まれた頃、お兄ちゃんは私をだっこしてかわいがってくれたらしく、「まりちゃんがお嫁に行くなんて言ったら、大騒ぎね」と親戚中から言われていた、とよく聞かされてきました。だから、「お嫁にいこうかな」なんて言ったら、お兄ちゃんがなんて言うか。考えるだけでドキドキします。

でも、将来について伝える前に、これまでの感謝の気持ちを伝えたいと思うのです。

お兄ちゃんはしゃれっけのない人で、映像の編集などの仕事をしているため、家にこもってパソコンに向かっていることも多いようです。それだけに華やかな花がいいかな。

また、わがままが許されるなら、どうしても使っていただきたい植物があります。「アジアンタム」といい、私が生まれる前の年に私の家からお兄ちゃんの実家の庭に植え替え、32年たった今も元気に育っています。

叔母からは「まりちゃんの成長を見てるみたいなのよ」とよく言われ、お兄ちゃんもこのアジアンタムを見て育ったので、ぜひ使っていただけたらうれしいです。

  

花束を作った東さんのコメント

“アジアンタムのある庭”、いいですね。今回はそんな庭のイメージが強かったので、アジアンタムを使ってひとつの庭のようなアレンジメントを作りました。

グリーンとイエローでまとめたのは、リフレッシュ効果と癒し効果を狙って。家で仕事をなさっているとのことなので、華やかな赤ではないな、とまず思いました。男性がもらっても照れくさくならないよう、けばけばしくなく、落ち着きのあるものを目指しました。花をもらう方がどう感じるか、どんな場所に置かれるのかを考えるのは、花を贈る上での基本です。

使用した植物は、アジアンタム、ガーベラ、ピンポン菊、ポピー、アルストロメリア、ラナンキュラスなど。緑のふさふさしたものは、ナデシコのグリーントリュフです。部屋にこもりっきりとのことだったので、香りのいい水仙も加えました。ポピーは、今はつぼみですが、赤、オレンジ、黄色、ピンクの花が咲きます。時間がたつと、印象ががらっと変わると思いますよ。

グリーンとイエローでまとめていますが、ところどころに斑の入った花や虎柄のものを入れて作品の奥行きを出しています。全部同じような色にすると、のっぺりとした印象になってしまうんですよね。

アジアンタムは、鉢物として植え替えられます。植物を通して、これからもずっとご家族の絆が深まっていきますように。

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

     ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

「アジアンタムのある庭」で育ったお兄ちゃんへ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


カフェ成功の陰に、「ドラえもん」の存在

一覧へ戻る

私から私へ 死ぬまでに1度だけバラを

RECOMMENDおすすめの記事