花のない花屋

私から私へ 死ぬまでに1度だけバラを

赤いバラだけで束ねられた花

赤いバラだけで束ねられた花

〈依頼人プロフィール〉
武田 京子さん 45歳 女性
静岡県在住
会社員

    ◇

私はこれまで男性からお花をいただいたことがありません。

いま結婚していて、独身時代には何人か恋人もいましたが、私の一番ほしい“バラの花”を贈ってくれた人はいませんでした。お花というのは、指輪と同じように、こちらから「ちょうだい」とはなかなか言い出せないところがあります。なんとなく察してもらいたいのが女心……。そうこうしているうちに、この年齢になってしまいました。

もちろん、夫に「誕生日にお花がほしい」と言えばいいのでしょうが、今の夫に何かをねだるような感情はもうありません。一つ屋根の下に住んでいますが、会話もほとんどなく、何がほしいとか何が好きとか、そういうことを察し合うような関係でもありません。お互い2度目の結婚で子どももいますし、別れるということでもないのですが……。

私には愛情を保ち続ける能力が欠けているのか、とたまに悩むこともあります。先日、60代の知り合いの女性が「一番ほしかったカメラを夫からプレゼントされた」と言うのを聞いて、長年一緒にいながらも、お互いを思いやれる関係を羨ましく思いました。

最近、もう人生の半分を終えてしまったんだなあと意識しはじめているからか、「私のために束ねられた花を抱くことなく、このまま死んでいくのだろうか」と感じることがあります。そんなとき、偶然「花のない花屋」の記事を読み、東さんのつくる斬新な色使いに衝撃を受けました。東さんが作ってくれる花束なら、自分から自分に花を贈るみじめさをふき飛ばしていただけるのではないか。そんなふうに思って、メールをお送りしました。

私の好きな花は、香り高いバラです。2人の子どもたちにも「棺はバラで満たしてね」といまから伝えています。趣味は剣道、中国語、お菓子作り。剣道仲間や心許せる女友達と飲むお酒が日々の楽しみです。

バラの花束の花材

バラの花束の花材

花束を作った東さんのコメント

バラの花束をご希望だったので、今回はそのままストレートに赤いバラだけでまとめました。「自分へ贈る」ための花なので、見た目にインパクトがあり、バラがお好きな武田さんに感動してもらえるアレンジメントを目指しました。

武田さんは、「隙がなくて真面目な性格」とのこと。そこで、マルバルスカスの葉を丁寧に一枚一枚折り、きっちりとバラの花の間に差し込んでいきました。明るいライトグリーンの色の葉なので、バラの赤を引き立ててくれる効果もあります。小細工を使わず、あえてストレートにバラだけでまとめながらも、手の込んだリーフワークで“きっちり”感を出しています。リーフワークというのは葉を作ったアレンジメントのこと。細かい作業なのでけっこう時間がかかっているんですよ。

もし「お花をもらうことって素敵だな」と感じていただけたら、これを機に、今度は素直に旦那さまにお花をねだってみてはいかがでしょう?

もしくは、逆に旦那さまにお花を贈ってみるのもいいかもしれません。お花を見ながら、気持ちを少しほぐしてもらえたらいいなと思いました。今回は僕から武田さんへ、そんなメッセージを込めています。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

私から私へ 死ぬまでに1度だけバラを

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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