東京の台所

<6>健康オタク 夫を7キロ痩せさせた秘密

〈住人プロフィール〉
 フラワーカウンセラー、44歳。
 戸建て・4LDK・東急目黒線 大岡山駅(目黒区)
 入居5年
 夫(49歳、医師)、長男(16歳)、長女(14歳)の4人暮らし

    ◇

 健康オタクです、と自認する。今、こだわっている食材はと聞くと、高知県の山間部でしか作られていない発酵した碁石茶やら、業務用の大きさの糸寒天、各地から取り寄せた有機の雑穀、アガベシロップやオーガニックのクコの実などが次々出てきた。趣味が高じて中医学の免許も取得。DHA、食物繊維、鉄分、いろんなサプリも、種類ごとにあれこれ試した末の“マイベスト”がひと瓶ずつある。

 もともと健康情報には興味があったが、がらりと人生が変わったのは、飼い犬が原因不明の病気になったのがきっかけである。動物病院を転々とし、あきらけかめたとき、ある獣医に教えられ、酵素という栄養素と出会った。酵素は加熱すると働きが弱まるので、ペットフードをやめて生野菜を食べさせなさいと言われた。するとみるみる元気になり、皮膚炎まできれいさっぱりなくなった。

 では人間もと、病院勤めで遅くに帰宅し、それからワインやイタリアンを楽しんでいた夫の食生活を改善。なるべく生きた酵素を体に入れようと、生野菜や納豆、漬け物など発酵食品をとりいれるようにした。ご飯にはミネラルたっぷりの雑穀を入れたり、甘いものを食べたいときは寒天を固めてきなこをかけたり。常に甘酒を作り、飲むようにもなった。はやりの塩麹はもちろん、醤油麹も手作りする。朝食は消化の良い野菜と果物のジュースを欠かさない。

 すると夫は半年で7キロ痩(や)せた。自分も長年の便秘が治り、肌や胃腸の調子もよい。以来、食事を基本とした健康オタクのみちをまっしぐら、なのである。「なんだかそこから人生変わっちゃって」。人に体にいい料理をちゃんと教えたいと、最近は調理師の免許まで取得した。

 少しでも元気がない人がいると、「ちゃんと食べてる?」と思わず声をかけてしまう。痩せたくても痩せられず悩んでいる人がいると、「うちにいらっしゃい。繊維と酵素がたっぷりの料理をおしえてあげるわ」と誘ってしまう。だからとにかくこの家は来客が多い。携帯電話もひっきりなしになっている。病気で苦しんでいる家族を持つ友人には毎日、励ましのメールを送り、病気の犬がいると聞けば家をたずねてしまう。「そういう性分なのでしょうがないわね、もう」と笑う。

 だからといって何かを売りつけたり、どこかの団体に引き込んだりするわけではもちろんない。目の前にいる人が健康になってくれればそれでいい。ときにはおせっかいと思われることもあるらしいが、そういうときは深追いをしない。

「犬の病気を治して、家族も健康になったあの喜びや幸せを他の人にも体験してもらいたい。ただそれだけなんですよネ」

 損得抜きに人の食生活にアドバイスを送りたくなる、そんな人もときどき自分に疲れることがあるらしい。

「自分に元気がないときは、アドバイスする気も起きないんです。だから、人の世話をどこまでやけるかが自分の精神状態のバロメーターでもあります」

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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