花のない花屋

花が大好きな、9歳になった佐和子ちゃんへ

多感ないまだからこそ、世界で一つだけの花を

多感ないまだからこそ、世界で一つだけの花を

〈依頼人プロフィール〉
玉居子 泰子さん 33歳 女性
東京都在住
フリーランス編集者

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佐和子ちゃんと初めて会ったのは9年前の桜の季節でした。生まれてまだ5カ月くらい。佐和子ちゃんは、白くて柔らかくて、金沢の遅咲きの桜に囲まれて、本当にうっとりとするくらい美しい赤ちゃんでした。やっと明るい色を認識しはじめた頃で、私の赤い服を目で追ってくれました。そういえば、あれからずっと赤やピンクが好きですね。

私が初めてちゃんと抱っこした赤ちゃんでもありました。いつか自分も家族を作る日がくるのか、と想像してみたりもしました。でもそのときの恋人(佐和子ちゃんの伯父さん)との将来は全然想像もできなくて。あんなに小さくてふわふわしているのに、いっぱいの愛に囲まれた佐和子ちゃんの圧倒的な存在感。それに比べて、なんて自分は不安定なものか。でもやっぱり、いつかこんな可愛い赤ちゃんを育ててみたいと思ったものでした。

何の因果か私はそのときの恋人と結婚し、佐和子ちゃんとは親戚になりました。

そんな佐和子ちゃんも9歳。あのときの輝きを保ったまま、とても賢くて感受性が強く、美しい少女になりました。でも同時に人見知りが強くて、繊細。小さいときは、会えば抱っこさせてくれたけれど、思春期を迎えたからか、今ではあまり電話に出てもくれなくて、おばちゃんはちょっぴり寂しいです。

この前、義姉さんからこんな話を聞きました。「佐和子とはしょっちゅうケンカしてる。だけど、佐和子はお花が大好きだから、お花を選ぶときだけは一緒に選んでる。家にお花を絶やさないようにしている」

いつか台湾旅行に行ったときの写真を見せてくれたときも「台湾はお花がいっぱいだから大好き」と言って笑ってくれたね。

そんな佐和子ちゃんにお花の世界で活躍している人の仕事を、多感な今だからこそ見てほしいなと思います。だから、世界で一つだけの花束を贈ります。

ランを中心に珍しい花でのアレンジ。花束に使われた花材

ランを中心に珍しい花でのアレンジ。花束に使われた花材

花束を作った東信さんのコメント

花が大好きだという若い人に花を贈るときには腕が鳴ります。何をテーマにしようかと考えた末、いま僕自身が「こういう花を見てほしい」と感じているものにしようと思いました。

できるだけ、珍しい花や見たこともない花でアレンジしたかったので、ランを中心にまとめました。ランは形が独特で色のきれいなものが多いんです。普段はランとほかの花をミックスした作品を作ることはほとんどありませんが、台湾の花が好きならランのような南国の花が気に入るかもしれないし、金沢にはない花の世界を感じてほしくて……。

そこで、かなり珍しい花を仕入れてきました。食虫植物のウツボカズラ、パフィオペディラム、カトレヤ、エピデン、胡蝶ラン、シンビジウム、バンダ等々。ランは肉感的で、植物の中でもより動物っぽいですよね。さらに、中心においたのは巨大なヘゴゼンマイ。若くて感性が豊かな人には「これも植物なんだ!」と驚きをもって見てもらいたくて選びました。

子どもは大人以上に、見た目や香りなど、モノそのものに深く入り込んでいきますよね。だからこそ「なにこれ?」と興味をもってほしい。そして、見るなら本物を見てほしい。子どもだからこそ、花の凄み、花の魅力を感じてもらえるようなアレンジにしたいと思うんです。

ちなみにランは枯れていくときもきれいなんです。質感や花の構造が、美しく見せるんでしょうね。芽吹くときがきれいな花、咲く途中がきれいな花、枯れていく姿が色っぽい花など、花によってさまざまです。枯れていく姿も花の魅力の一部。佐和子ちゃんには、そんな姿も含めて楽しんでもらえたらうれしいです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

花が大好きな、9歳になった佐和子ちゃんへ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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