花のない花屋

猫を譲ってくれた飼い主さんへ

「元気に前を向いてやってます」という報告の意味も込めて

「元気に前を向いてやってます」という報告の意味も込めて

〈依頼人プロフィール〉
麻里さん 28歳 女性
大阪府在住
製薬会社勤務

    ◇

昨年、夫のとある行動がきっかけとなって、離婚をしました。夫に離婚を切り出す数日前、ひとりになったらやりたいことを考えているとき、ふっと猫のことが浮かびました。夫には猫アレルギーがあったので、猫を飼うのはあきらめていたのですが、離婚したら飼えるなぁ、と。

もちろん、実際に別れるかどうかわからない状態で、すぐに譲ってもらうつもりはなかったんです。ただ、猫の里親を探しているHPをなんとなく見ているうちに、「このコと暮らしたい!」と感じる猫を見つけました。しかも、募集地域は「関西」。気づけば、私は飼い主さんにコンタクトをとっていました。

本当にかわいい猫だったので、きっと応募は殺到しているだろう。ダメだったら仕方ない。一人暮らしは里親から敬遠されるとわかっていたので、最初から「離婚するつもりなので、一人暮らしになります」と正直にメールをしました。

希望と不安が入り混じった気持ちでしたが、飼い主さんから返ってきたのは、「私も離婚の経験があります。寂しくなるときもあるだろうから、ぜひあなたにもらって欲しい」という返事。たくさんあった応募者の方々の中から私を選んでくださったそうです。

正直、離婚をためらう気持ちや、離婚後の生活への不安などもあったのですが、このコが私の家族になる!と思った瞬間、後ろを振り向かず、前を向いて歩く決心をすることができました。

その後、飼い主とのやりとりをしているうちに、このコの誕生日が、私の結婚記念日と同じだということが判明。「このコと人生を新しくやり直しなさい」。きっと、神様がそう言っているんだと思いました。

里親に選んでくれたカワバタさんのご家族、特にお母様には、猫の飼育のことから離婚についてまで何でも相談させていただくようになり、このコを通じて、本当に素敵なご縁をもらったと思っています。

最近はほとんど連絡できていないのですが、私の感謝の気持ちと、今は元気にひとりで前を向いてがんばっていますという報告の意味もこめて、お花を贈りたいです。

猫が白のスコティッシュフォールドなので、白をベースにやわらかい色味でアレンジをしていただけると大変うれしいです。そして、もし可能であれば、私が大好きで結婚式のブーケにもした紫陽花も使っていただけないでしょうか。

“白”と“紫陽花”をポイントに、パステルカラーでまとめられた花束の花材

“白”と“紫陽花”をポイントに、パステルカラーでまとめられた花束の花材

花束を作った東信さんのコメント

猫を介して出会った二人の女性……素敵な関係ですね。文章全体から、なんとなくやわらかくてやさしい印象を受けました。麻里さんからは“白”と“紫陽花”というご希望があったので、それらをポイントに全体をパステルカラーでまとめようと考えました。

ちょうど緑とピンクのきれいな西洋紫陽花が見つかったので、それを中心に猫のような“やわらかくてあたたかい”イメージに合う花材を選んでいます。もしこれが“ワニ”だったら、堅くてカチカチしたアレンジになるんでしょうけど。言葉から受けるイメージって大切ですね。

使用したのは、チューリップ、ラナンキュラス、バラ、ネリネ、ダリア、菊、バルビネラなど春のお花。写真では見づらいのですが、チューリップは少し変わっています。花びらの外側が緑で、内側がピンク。僕は初めて見たので、おそらく新種じゃないかと思います。

毎年、こうやって今までに見たこともない花が出てくるんです。花の市場も消費社会。売れなければ消えていくし、売れれば大量生産される。花の色や形にも流行があります。僕が雑誌や広告のアレンジで使った花材は、その後よく市場に出回ることがあるようです。「こう使えるのか」「こんなものがあるのか」と、その植物に対する認知が広がっていくのでしょうね。

今回は、枯れずに残る植物は入れていません。麻里さんとカワバタさんは、年の離れた女性同士。昔からの大親友というのでもないし、まして同僚でも家族でもない。お互い好意と敬意を抱きつつも、猫の貰い手と送り主というちょっと距離のある関係です。

それだけに、“花を植え替えて育てて”というのは押しつけがましく感じるかもしれないと考えました。そこで、見た目が華やかで、きれいに枯れていくものがいいと思ったんです。

花を作るときは、贈る人と贈られる人の距離を感じることもすごく大事です。実は以前、「別れた恋人に花を贈りたい」というオーダーがきたことがありました。そういうアレンジに、後に残る植物は入れられませんでした(笑)。でも、そんな微妙な気持ちを形にして贈れるのも、やっぱり花だからですよね。

  

  

  

  

(ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

猫を譲ってくれた飼い主さんへ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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