東京の台所

<12>上京して12年 女子会の巣窟に

〈住人プロフィール〉
 会社員、30歳。
 賃貸マンション・1DK・都営浅草線 馬込駅(大田区)
 入居4年
 築年数28年
 恋人(大工)の2人暮らし

    ◇

 台所が広いのでこの部屋に決めた、と言う。4歳の頃から料理を始め、小学生になると家族のご飯を作り、中高校生になると、仕事で忙しい母に代わって台所を切り盛りした。

「料理本や料理番組を見ていたら、自分でも作れるんじゃないかと思って。やってみたらおもしろくてハマりました。こうしたらどうかなってアレンジするのも楽しいし。料理は今でも大好き。趣味って言うより、自分にとって絶対欠かせない生活の一部です」

 上京して12年目の今はイタリアンが好きで、週5回はワインを飲む。必然的に料理もワインに合うものが多くなる。

「飲み屋に行っても、スパイスや作り方がつい気になりますね。家で再現することも多い。この間は、お店で蒸し野菜においしい塩が添えられていて。なんですかって聞いたらトリュフ塩だって。さっそく次の休みに、ディーン・アンド・デルーカに買いに行っちゃいました」

 料理マンガや料理本もよく読む。そしてすぐ試してみる。台所には、居室の大きなテレビとは別に、DSの料理ソフトを見るための小さなテレビがあった。

「去年はバジルとイタリアンパセリをベランダのプランターで栽培し、自家製のバジルソース作りに成功したんです。松の実を入れるとぐっとコクが出ておいしくなるんです。食べるときにその上から粉チーズをかけてもおいしいですよ」

 もともと建築をやりたくて東大に入ったそうだが、農学部に進路を変更、環境を学んだ。「建築の枠が少なかったから」と言うが、料理の話を聞いている限り、この人は農学部のほうが合っているし楽しかったろうと勝手に想像した。食べるものにつながる学問だからだろうか――。

 住んでいる馬込の街は、通勤に便利なことと、飲み屋が多い点が気に入っている。

「イタリアンだけじゃなく、中華料理やタイ料理の小さな店や和菓子屋さんなど、商店街が充実しているところがいいですね」

 その地元の飲み屋で知り合った大工の恋人と、一緒に暮らしている。

「パスタも1人分だと作ってもやっぱりおいしくないんですよね。2人分だと作りやすいし、おいしいとか言ってくれるので楽しいです」

 最近は、「だらだら飲めるので」、もっぱら自宅で会社の仲間と料理持ち寄りの女子会を開くことが多い。

「女子会をやるとレパートリーが増えるんですよ。どうやって作るのって聞けるから。ふたり暮らしだとソースは1種類でも、女子会ならよし4種作ろう!ってはりきれる。女子会、ほんと最高です」

 恋人も、女子会の最後には合流するそうな。

 仕事に恋愛に忙しそうだが、しっかりパン教室に週2回通っている。

「イースト菌ひとつでパンって全然味が変わるんですよ! これ、驚きです」

 飲み屋でも女子会でもパン教室でも、「おいしい」の探求に余念がない。ああそうか、この人は食べること以上に、おいしくするためにあれこれ試したり研究するのが好きなのだ。きっと、料理を始めた4歳の頃から。

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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