花のない花屋

22年間、友だちでいてくれたあなたへ

ビールの缶や酒瓶が並ぶ、あの賑やかな友人のお墓に

ビールの缶や酒瓶が並ぶ、あの賑やかな友人のお墓に

〈依頼人プロフィール〉
由紀さん 44歳 女性
東京都在住
フリー編集者

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彼女とは中学2・3年のときに同じクラスでした。別々の高校に進んでからも頻繁に会っていて、彼女がある文芸誌の新人賞を最年少で受賞して有名になった後も、彼女の私たちに対する態度はまったく変わりませんでした。お互いの結婚、そして彼女の離婚、私の出産などいろいろありましたが、9年前に彼女が自らその生涯を閉じるまでの間、つかず離れずの付き合いが続いていて、亡くなる5日前にも、海外ドラマを録画するためのGコードをたずねる電話がかかってきていたほどです。

彼女は中学生のときからとても大人びていて、自由が丘の駅で待ち合わせをしているだけで慶応の塾高生にナンパされてしまうような美少女でした。そんな彼女と一緒に学校をさぼって大学の学園祭に行ったことがありました。パッと見、中学生には見えない彼女なので、サボリなんて平気だろうと思っていたのですが、驚いたことに待ち時間の間いきなり突っ伏して「学校さぼったことが、お母さんに知られたらどうしよう!」と泣き出してしまったのです。そのときはじめて、彼女が実は私と同じただの中学2年生の女の子であることに気付きました。その彼女が4年後にその大学に進むことになったときは、2人で笑ってしまったものです。

今でも彼女の声を、ありありと思い出すことができます。人ごみの中であの声で「ゆきちゃん」と呼ばれたら、迷わず彼女だと思って振り向いてしまうでしょう。亡くなって間もないころ、夢に出てきてくれたこともありました。夢の中の私は、彼女と手をつないだ瞬間に、「あ、手が温かい。生きてるんだ!」と喜び、その一瞬後に夢から醒めて、彼女が亡くなってしまったことを思い知らされるのでした。

いつも私のおマヌケな体験談で大笑いしてくれていたので、通夜の晩、会場のトイレで当時1歳だった息子にやむなく授乳していたときも、こんな絶好の爆笑エピソードを彼女と分かち合えないことをとても残念に感じていました。「通夜会場でまさかの授乳!」などと話したら、彼女は手をたたきながら大笑いしてくれたことでしょう。

今はただただ懐かしい思いでいっぱいになります。

命日になると、ビールの缶や酒瓶が並ぶあの賑やかなお墓に、どんなお花が似合うだろうと考えたら、東さんにお願いしてみたくなりました。アルコール類の迫力に負けないお花にしてください。もちろん、お花はビールと一緒に供えます!

「天国でもお花見してる? おいしくお酒飲んでる?」

「天国でもお花見してる? おいしくお酒飲んでる?」

花束を作った東信さんのコメント

今回のアレンジは春爛漫です。「天国でもお花見してる? おいしくお酒飲んでる?」と語りかけるようなイメージで作りました。作家だったお友達にというよりは、お花をオーダーしていただいた由紀さんの気持ちに沿って全体をまとめました。

使ったのはすべて春のお花です。フリージア、バラ、チューリップ、ガーベラ、ルピナス、トルコキキョウ、カーネーション、なでしこ、内側の花弁が緑色で葉っぱのような、変わったアネモネ……。そして、中心にさした桜は「啓翁桜」という種類のもの。小さな桜にはいい枝振りのものがなかなかないのですが、いいものが見つかりました。

桜は咲くとすぐ散ってしまうので、長い時間アレンジメントを楽しんでもらえるよう、つぼみの枝を選んでいます。下のお花が全開のときに桜も咲くようにバランスをとりました。すべて咲いたら、さらに華やかになると思いますよ。お墓に飾ってから3、4日経った頃が一番きれいになるんじゃないでしょうか。

お友達は、きっと繊細で細やかな神経の持ち主だったんでしょうね。メールからそんな印象が伝わってきたので、全体のトーンはやわらかくしました。パステルでまとめるときのポイントは、茶系など少しくすんだ色を入れること。全体にとけ込みます。そして、ところどころに薄茶色のお花が隠れています。これが紫など強い色だと印象はガラリと変わり、きつくなってしまうんです。

生まれてから亡くなるまで、人の一生には節目節目でお花が登場します。墓前に供える「仏花」には菊などが使われることが多いですが、決まりにとらわれず、贈り手の気持ちをお花に託すことがあってもいいのかもしれませんね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

22年間、友だちでいてくれたあなたへ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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