花のない花屋

彼にプロポーズの言葉いわせて!

  

〈依頼人プロフィール〉
木村あきこさん 38歳 女性
兵庫県在住
公務員

    ◇

理想の男性は、好きなことをやらせてくれる人。そして、彼自身も自分の好きなことに夢中な人です。7歳年下の彼は、まさにそんな私の理想。

彼も私も地方公務員です。出会いは職場でした。最初からウマが合い、一緒によくご飯を食べに行っていました。当時、私は30半ばを過ぎていましたが、1年半休職して、スコットランドの大学院へ留学することを決めていました。

まわりからは、「その年でまだ勉強?」「そこまでやってどうするの?」と言われ、自分のやりたいことを話しても、「すごいね」「私とは違うわ」という言葉が返ってくるばかり。“怖い”30代独身女と思われそうで、周囲にはあまり自分の考えを話すことができませんでした。

でも、彼は違ったんです。私の留学を「いいねえ」「楽しそうだなあ」とよろこんでくれたので、彼には壁を感じずに自分のやりたいことを話せました。

留学中、彼から小包が2度届きました。1度目は、お好み焼きセットと私の実家の近くにある洋菓子屋さんの焼き菓子。受け取ったのは、ちょうどレポートがうまく書けずに落ち込んで寮に帰った日。とてもうれしくて、すぐにいただきました。2度目は、彼が旅行先で買ったという最中。冷凍して、落ち込んだときの心の拠り所にしていました。彼の誕生日には、そのお礼に1輪のガーベラを贈ったりもしました。

2011年8月、私は留学を終えて帰国し、復職。彼とは仕事で顔を合わせるようになりました。「この人が理想の男性だ」と認識するのに、そう時間はかかりませんでした。共通の話題が多くて価値観も似ているし、私は飾らないありのままの自分でいられる。そんな人に出会えるのは稀です。でも、彼の方はなかなか落ちません。

そうこうしているうちに、彼は宮城へ復興支援に行くことになってしまいました。被災地で復興のために働いてくれることはうれしいし、尊敬しているのですが、兵庫と宮城は遠すぎる……。「もういいや。同じ時間を共有できるだけで満足」という気持ちになった途端、付き合うようになったのです。

今は、1、2カ月に1度、互いに行き来しています。「9月に戻るから、そしたら一緒に住みたいね」と言ってくれますが、まだそれ以上の話にはなりません。

昨年暮れ、私の誕生日とクリスマスのときに、ほしいものを聞かれました。思いつくのは一つだけです。でも、さわやかに裏切られました。彼は「言葉にしなくてもわかってるでしょ」と思っているのかもしれません。でも、言ってほしい。ほしいのは、ただ一つ。プロポーズの言葉です。

東さん、彼が私にプロポーズしたくなるようなお花を作っていただけないでしょうか。

彼は農学部出身で、地学、気象学、環境学が好き。フィギアスケートが趣味で、私よりもかわいらしいものが好みです。キティちゃんを「カワイイ!」と言い、黒とピンクの組み合わせが好きです。私は女の子っぽい黒とピンクの組み合わせは選ばないのですが、東さんの作ってくれたお花なら……。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

これはかなりハードルが高い! でも、そういう気持ちを伝えるためにお花はありますからね(笑)。

今回は、彼女が思い描く“彼のイメージ”をどう表現するかがポイントです。依頼人の彼女と彼、ふたりの心情を考えながら作りました。

“彼の好きなピンクと黒の組み合わせで”というご希望があったので、キーカラーはその二つ。最初は黒を中心にピンクを入れようと思ったのですが、雰囲気が暗くなってしまって、いまひとつプロポーズに向かない。なので、ピンクを中心にして黒をアクセントにすることにしました。

気をつけたのは、男性がもらっても気恥ずかしくならないようにすること。ピンクと黒でまとめながらも、シックでかっこいい雰囲気になるように仕上げました。

アレンジに使ったのは、八重咲きのユリ、アネモネ、ラナンキュラス、なでしこなど、花びらの質感や斑の模様が美しいもの。そのほかにも、エピデンドラム、ベロニカ、イキシア、カトレアなど、ピンクなのにかっこよく、少しくすみのあるものをポイントに入れました。発色のいい花を使うより、シックに仕上げることができます。

花を贈った後の展開が気になりますね。ちなみに、うちの店はプロポーズのためのオーダーがけっこう多いんですよ。3月も3件ありました。場合によっては、食事中のレストランにお持ちしたりすることもあります。男性から女性にというパターンが多いのですが、今のところ百発百中です! その後も結婚式、出産、入学祝いと、節目ごとにオーダーしていただく方が少なくありません。木村さんも、どうかうまくいきますように!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

     ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

彼にプロポーズの言葉いわせて!

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


15の夜を越えよ 息子への進学祝い

一覧へ戻る

洞爺湖への転勤 決断の引っ越しに

RECOMMENDおすすめの記事