花のない花屋

洞爺湖への転勤 決断の引っ越しに

夫へ素直な気持ちを「新しい生活、一緒にがんばろうね」

夫へ素直な気持ちを「新しい生活、一緒にがんばろうね」

〈依頼人プロフィール〉
島 志織さん 32歳 女性
北海道在住
主婦

昨年の暮れ、雪が降り始めるころでした。介護士として働いている夫が突然、転勤を告げられたのです。場所は北海道の洞爺湖。湖や山のある自然豊かな場所ですが、近くに病院もなければ幼稚園も一つしかない。札幌で生まれ育った私にとっては、“何もない場所”です。

洞爺湖はとても遠く、札幌のマイホームのこと、子どもたちのこと、慣れない田舎暮らしへの不安、近所に住んでいる年老いた両親と離れる寂しさなど、さまざまな思いがぐるぐると頭を駆け巡り、どうするべきか結論を出せずにいました。

緊急の家族会議が開かれ、夫、私、長男(4歳)、長女(1歳)の4人で食卓を囲みました。夫は子どもたちに理解ができるよう、やさしい言葉で単身赴任と引っ越しの説明をしました。長男は真剣な顔で聞いています。長女はわかっていないので、いつも通りのニコニコ顔。そのとき、夫は私に「どうする?」とたずねてきました。

私は正直、「単身赴任してもらった方がラクなんじゃないか」という気持ちと、「家族がバラバラに暮らすのは……」という相反する気持ちがありました。どちらにしろ、「一緒に行く!」と即答できない自分が冷たい人のようにも感じていて……。

私はうまく自分の思いを言葉にできず、つい長男に「どうしたい?」と聞いてしまいました。すると、長男は背筋をピンとさせたまま、大きな声で言ったのです。「家族は一緒にいなきゃダメ!」と。はっと目が覚めました。そう、家族一緒にいたいんだ! 長男の言葉を聞き、一瞬で迷いや不安が消えました。夫も嬉しかったのか、目を潤ませています。

そんなことがあって、この春から新しい環境での生活が始まりました。新居は湖を見わたせる家。周りには何もありませんが、自転車や山登りが趣味の夫は、「湖の周りを自転車でまわろう」「ニセコへ山登りに行こう」と張り切っています。私も観念し、田舎暮らしのプラス面を考えるようになってきました。

夫に「新しい生活、一緒にがんばろうね」という気持ちを込めて花を贈りたいのです。もし東さんのお花があったら、そういった素直な気持ちも話せるような気がします。

自然豊かな場所での新しい暮らしを祝うようなお花を作ってもらえないでしょうか。ちなみに、長男の名前は碧杜(あおと)、長女の名前はスミレ。青々とした葉やスミレの花が入っていると嬉しいです。

お子様たちの名前にちなんだ“青い花”と“すみれ”を中心に、緑の大地をイメージ

お子様たちの名前にちなんだ“青い花”と“すみれ”を中心に、緑の大地をイメージ

花束を作った東信さんのコメント

北海道の洞爺湖ですか。自然の豊かな場所でいいですね。新生活を一緒にがんばろうね、という気持ちを贈りたいとのことなので、前向きになれるようなアレンジを目指しました。お子様たちの名前にちなんだ“青い花”と“すみれ”を中心に、緑の大地をイメージしています。

さわやかさをだすために、全体的に緑の量を多くしました。使ったのはハイドランジア2種類、トルコキキョウ2種類、アリアム、ガクアジサイの葉、シキミア、スカビオサの実、ゼンマイなど。真ん中には鉢植えのすみれを置いています。前向きな気持ちになれるようにハーブも加えました。アクセントとしてミスカンサスの葉をねじって入れています。僕がよく使う“リーフワーク”のひとつです。

青や紫の花でまとめると、どうしても全体が重く沈みがちになるので、コントラストをつけています。仕上げに乗せた蔓(つる)は、ハワイアンベイビーウッドローズ。シルバーのうぶ毛があり、ベルベッドのような質感です。動きが出て、一気に軽やかな感じになります。青い花に合わせると花がとても引き立つんです。すみれは鉢植えなので、新居に引っ越したらぜひ植え替えてみてくださいね。

田舎には田舎のいいところがあります。実は僕も九州の田舎育ちです。家の近くには山も海も川も田んぼもありました。今思えば、そんな環境で育ってよかったなと感じています。いい意味でも悪い意味でも(笑)、野生児に育ちます。花や植物もたくさんあるでしょうから、これを機にお子さん達に自然に興味をもってもらえたらいいですね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

洞爺湖への転勤 決断の引っ越しに

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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