花のない花屋

還暦の母に 一人暮らしの娘から矢車草

  

〈依頼人プロフィール〉
のり子さん 30歳 女性
秋田県在住
会社員

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先日、母が還暦を迎えました。何をプレゼントしようかと考えていて、数年前に「最近ミシン使わないの?」と聞いたときに「壊れちゃって」と言っていたのを思い出しました。母は手先が器用で、私が子どもの頃はよくミシンで洋服を作ってくれたものです。

よし、ミシンをプレゼントしよう! そう思い立って探したのですが、母が欲しがっていた最新の“コンピューターミシン”はなかなかの値段。10万円以上もします。

どうしよう……。決めかねているうちに、ふと母と仕事の話になり、「私もいつリストラされるかわからない」と口を滑らせてしまいました。先日、会社でリストラがあったばかりだったのです。母は心配性なので、いつも仕事の話はしないようにしていたのに……。

すると案の定、数日後に「ミシンはいらない」とメールがきました。ああ、やっぱり。申し訳ない気がしましたが、懐に余裕もなくミシンを見送ることにしました。でも、母は花が大好きだったことを思い出し、東さんのお花だったら喜んでくれるかもしれない、と思いついたのです。

実家にはいろんな種類の花や樹木が植えられています。母は身の回りのものは地味な色ばかりですが、花はカラフルなものが大好きで、庭にはピンクや黄色の花をたくさん植えています。植物の世話は両親がしていますが、2人とも日中は仕事に行き、帰宅してから農作業をやり、さらにその合間に花壇の手入れをするという多忙な生活。花が咲かなくなってしまうことも多々ありました。

特に私が好きだった薄桃色の百日紅(さるすべり)と青紫色の矢車菊が咲かなかったとき、「枯れちゃったの? 好きだったのにな……」と母に言うと、昨年、百日紅を買って植えてくれていました。どうやら、私が好きだと言った花を少しずつ集めてくれているようでした。

私はいま、実家を出て一人暮らしをしています。家族との生活を思い出すと、改めてたくさんの植物に囲まれていたんだなあと思います。いつも当たり前のようにそこにあり、日常生活を潤してくれるもの。それが家族であり、植物だったのかもしれません。

還暦を迎えた母に、家族より感謝の気持ちを込めたお花を贈りたいです。花を長く楽しむコツも合わせてアドバイスいただけるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

エピソードの中に矢車草が出てきたので、それを使ったアレンジをしようとまず考えました。ただ、青い矢車草をメインにすると全体的に地味になってしまいます。お母様はカラフルなお花が好きとのことだったので、ピンクや黄色の花も散らし、春の花畑をイメージしてまとめました。

矢車草以外に使ったのはハイドランジア、胡蝶蘭、カラー、エピデンドラム、カーネーション、ダリア、ナデシコ、ピンポンマム、チューリップ、アンスリウム、グランディフローラなど。緑の葉はゼラニウム。ハーブなので、手でつぶすといい匂いがしますよ。いろいろなお花で細かく構成し、一つの景色を作っていくような感じでアレンジしました。

気をつけたのは、カラフルだけど落ち着いたイメージにすること。お母様は慎ましい感じの方だったので、ギラッとした感じにはしたくなかったんです。赤い花などは入れず、少し抑えめのカラフルにしました。上にのせた蔦のハワイアンベイビーウッドローズと、あめ玉のようにくるくる巻いたリーフワークは、「毛糸」や「ミシン」をイメージして加えました。

さて、ご質問の「花を長く楽しむ方法」ですが、今回のような切り花の場合は、直射日光が当たらず、風通しのいいところで育てることが大事です。玄関などが理想的かもしれません。それから、一日一回、オアシスのところから水をあげるようにしてくださいね。

枯れてしまった花びらは少しむしってあげるのも大切。花自体をオアシスから抜いてしまってもいいですし、そこに新しい花を加えることもできます。

でも、僕の作品は枯れてもきれいなように構成しているので、そのまま全体的に枯れていく様子を最後まで楽しんでもらうのもありです。みなさんのセンスで最後まで楽しんでもらえたらうれしいです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

還暦の母に 一人暮らしの娘から矢車草

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


いま、自分の足で立とうとしている娘へ

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