花のない花屋

父を看取った母にオランダから感謝を

  

〈依頼人プロフィール〉
弥佳さん 44歳 女性
オランダ・ハーグ在住
国際公務員

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この春、75歳の父を亡くしました。完治したかと思っていたガンが2年前に再発。入退院を繰り返しながら治療を続けていましたが、4月に入って容体が急速に悪化。私はオランダで働いており、母と弟から「父が危ない」と連絡があったのは、5年に1度の国際会議の最中でした。

なんとか仕事の都合をつけて、大阪の実家にたどり着いたのが4月17日の朝。そのまま病院へ直行し、少しだけ父を言葉をかわすができました。でも、夜には眠るように息を引き取りました。

じつは、5月にオランダ人の夫と8歳と4歳の娘たちを連れて里帰りし、みんなで広島県にある父の郷里へ旅行する予定でした。母も含めて誰ひとり父の死を予想していなかったのです。

父は、典型的な昭和のサラリーマンでした。定年まで仕事一筋。内向的で特に趣味もありませんでしたが、時間があると庭いじりをしたり、植木に話しかけたり。定年後、母と2人暮らしになってからは、マンションのベランダにプランターを並べていました。見栄えはいまいちで、すぐに枯らしていたようですが(笑)。

一方、母は社交的で、今でも油絵や英会話、気功などを習っており、アートフラワーは師範資格も持っています。そんな2人の共通点は、自然が好きなこと。休みの日は買い物に行くより、植物園や庭園を散歩したり、山登りに行くことが多い夫婦でした。

父が元気なころは毎年、2人でオランダまで遊びに来てくれました。オランダは1年の半分は曇っていて寒いのですが、2月の終わりごろにクロッカスが顔を出すのを合図に春が訪れ、一斉に色とりどりの花が咲きます。チューリップが虹色の絨毯(じゅうたん)のように広がる景色や公園の花壇を見るのが、父と母の楽しみでした。

父の撮った写真を見ると、いつもそこには母と花が写っています。「モデルは同じで、背景の花だけが季節と場所によって変わるだけだね」と、みんなで笑ったことを懐かしく思い出します。

私はアメリカの大学院に行ってから、カナダ、アルゼンチン、ニューヨーク、そしてオランダと海外勤務が多く、気がつけば人生の半分以上を海外で過ごしています。年に1度は帰国していますが、普段は近くにいてあげられないことがとても歯がゆいです。

祖父母の介護をした後に、再び父をひとりで支えてきた母に「ご苦労さまでした」という気持ちと、「初めてのひとり暮らし頑張って」という気持ちを込めてお花を贈りたいです。これからは、自分のために時間を使って、人生を楽しんでもらいたい。明るく、前向きなれるような花を作っていただけると嬉しいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

ご両親が楽しみにしていたという、オランダの“虹色の絨毯のように広がる景色や公園の花壇”を表したくて、今回は虹をテーマにアレンジしました。

虹は、日本では7色とされていますが、文化によってその数は変わります。欧米では6色とされているので、今回は赤、黄、青、緑、オレンジ、紫の6色でまとめました。カラフルな花をいくつも使う場合、いつもは混ぜ合わせてバランスをとりますが、今回は虹がテーマなので、あえて色を固まりで見せています。

花材はダリア、カーネーション、ピンポンマム、カラー、紫陽花、菊、緑色のアンスリウム、ひめゆり、ガーベラ、エピデンドラム、トルコキキョウ、そしてアクセントに入れたハギです。

ガーベラは“スパイダー咲き”という種類で、細い花弁が何重にも重なっています。今回は、花弁を細長く立てて差し込んでいるので、違う花のように見えるかもしれません。どれもビビッドな色なので、見ているだけで元気になりますよね。色ごとにわけたことで、よりインパクトも増しています。

お母様は自然がお好きそうだったので、縁取りのリーフワークの葉は“ヒカゲ”を使いました。ナチュラル感、ガーデン感を加えています。

色をブロックで分けたため、見る角度によってイメージががらりと変わります。公園をぐるりと一周まわるような感じで、楽しんでもらえたら嬉しいです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

父を看取った母にオランダから感謝を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


金婚式迎えた「6月の恋人たち」に

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東信を目指す、フラワーデザイナーの彼に

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