ほんやのほん

「活版印刷」に託す、ささやかな夢

「いつかは活版印刷の名刺を持ってみたい」。店頭に立っていると、そんな思いを話してくださるお客様がいらっしゃいます。こんな風に心の中に持ち続けている小さな夢は、日常をちょっとだけハッピーにしてくれるものですね。

デジタル製版が主流の世になっても、雑貨屋や文房具屋には活版印刷のカードが並んだり、印刷物と一緒に店頭で活版の組版を展示するお店があったり。最早印刷やデザインに関わる限定された職種の世界だけではなく、その独特の味わいが好まれ、ハンドメイドの一分野として浸透しているように思います。

『世界の活版印刷グラフィック・コレクション』は、カードを中心にカレンダーやポスターなど、身近なアイテムを紹介した1冊。アメリカを中心に世界の活版工房とその印刷物が紹介されていて、そこに添えられたエピソードと共にその土地を思い浮かべながら(ほとんど行ったことがない場所なのだけど)想いを馳せるのがまた楽しい。

もう少し歴史を遡り、活版の基礎を知ることができる本が『欧文活字(新装版)』。巻頭付録に活版刷の作品が付いています。その美しいたたずまいに見惚れ、思わず紙面を撫でてしまいます。

活版職人はできるだけ仕上がりの凹凸をなくそうと苦心するそうです。ですから職人魂を自分のあらゆる感覚で感じたくて活版印刷物を手にとるとついつい紙面を撫でてしまう癖がつきました。そしてこの本、「お嬢さんの名刺について」なんていうページがあります。冒頭に記したような小さな夢を話すお客様には女性が多いこともあって、思わず食い入るように読みました。ちなみに、お嬢さんの名刺には「住所電話等の印刷は差し控えた方が望ましい」との注意書きも。なるほど。

『カッパン博士の解剖学講義』

『カッパン博士の解剖学講義』 小泉均 著 タイプショップg 2200円+税

そしてこんな本もあります。1冊まるごと活版で刷られた『カッパン博士の解剖学講義』。「活版を解剖する」というテーマに沿ったワークショップにちなんで発行されたカタログで、タイポグラフィについて単純明快な表現を追求しています。手のひらにおさまるくらいの小さなサイズで墨と赤の2色刷り。製本も全て手折りのため数量限定です。まるで詩文のような文字の並びがまた流麗な1冊です。

活版に関する本はこのほかにもたくさん出版されています。1冊の本が小さな夢を叶えるきっかけになれば。そんな風に思って当書店でも書棚に並べています。

(文・馬上綾子)

>>おすすめの本、まだまだあります

PROFILE

蔦屋書店 コンシェルジュ

12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき一番おすすめの本を、週替わりで熱くご紹介いただきます。

●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
●二子玉川 蔦屋家電
岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博允(文学)
嵯峨山 瑛(建築 インテリア)/中田達大(ワークスタイル)
松本泰尭(人文)
●湘南 蔦屋書店
川村啓子(児童書 自然科学)/藤井亜希子(旅)
羽根志美(アウトドア)/八木寧子(人文)
若杉真里奈(雑誌 ファッション)

馬上綾子(もうえ・あやこ)

代官山 蔦屋書店の2号館1階、「建築・デザイン」のコーナーを担当するコンシェルジュ。
この連載では、女性らしい視線で選書した、インテリア関連本をはじめ、暮らしとデザインにまつわる書籍を紹介。

揺れる梅雨時は、「ゆれる」本で

トップへ戻る

編集長の個性がつくる、強い雑誌

RECOMMENDおすすめの記事