花のない花屋

超不器用でドジ、でも愛すべき父へ

  

〈依頼人プロフィール〉
藤木里実さん 31歳 女性
ドイツ在住
学生兼アルバイト

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うちの父(61)は、超不器用で身辺整理のできない人です。大学時代に知り合った母によれば、藤木の名字をもじって「ドジ木君」と呼ばれていたとか。

私たち娘4人もこれまで、さまざまな場面に遭遇してきました。財布の置き忘れはもちろん、車の鍵を長靴に落として見つけられず新幹線に乗るはめになったり、雪の上をチェーンなしで運転して車ごと田んぼに落ちたり、高速道路でガソリンを切らせたり……。

それでも、幼い頃はベッドまでだっこしてくれたり、宿題をみてくれたり、駅までの送り迎えの“アッシー君”になってくれ、みんなそれなりにお父さんっ子でした。

私たちが10代になると、母娘の女5人が家を占拠し、父親の意見はすべて却下されました。週末になると、たびたび父は天体観測や野鳥観察に出かけていました。今思えば、1人になって心を落ち着けたかったのかもしれません。

小学校の教師だった父は昨年、定年退職し、母とともに千葉から長野の山奥に移り住みました。10年以上前に古い民家と田んぼを買い、休みの日などに通いながら細々と農業をしていたのです。段取り上手な母に比べて、不器用で機械オンチな父は農機の扱いも下手。ずいぶん周りから笑われたそうですが、過疎化の進む地区で積極的に行事に参加したり、除雪を手伝ったりして、何かと頼りにされているみたいです。

昨年から今年にかけては、家族に大きな変化がありました。長女と三女が入籍し、12月には初孫が誕生。この春には四女が大学を卒業して実家を出ました。秋には長女が結婚式を挙げます。私は5年前にドイツで結婚したので、日本式の披露宴を上げていません。これが父にとって初めての“花嫁の父”役となるので、娘一同楽しみにしています。

長女は千葉に残り、私はドイツ、三女はオーストラリア、四女は東京、両親は長野と、今は家族みんな別々の場所で生きていますが、それぞれの家庭を持ち、幸せな日々を送っています。遠く住む私たち娘4人から、「愛情とやさしさを持って育ててくれてありがとう。みんな元気でやってるよ」という気持ちを込めて、父に花束を贈りたいです。お花を見て、時折私たちを思い出してくれるといいな。

  

花束を作った東信さんのコメント

お父さんの生き方、男から見ると羨ましいですね。不器用なりに人生をまっとうしていて、とても楽しそうです。メールからご両親と娘さんたちとの強い絆がうかがえて、笑いの絶えないアットホームなご家庭との印象を受けました。今回は、そんな楽しい雰囲気を花にしました。

4人の娘さんたちからお父さんへ、ということだったので、4人姉妹を4色のお花に見立てています。僕の勝手な想像ですが、長女はしっとりとしたイメージのブルーのお花に。次女の“私”はピンク。オーストラリアにいる3女がオレンジで、東京にいる4女が赤です。

使用した花材は、ダリア、ハイドランジア、ベルテッセン、カーネーション、クルクマ草、ガーベラ、サンタンカ、ルリタマアザミ、バラなど。2人の娘さんが海外に住んでいらっしゃるので、ケイトウやリンドウなど、古来より日本で親しまれているお花も入れました。

ブーケの上に載せたのは、南アメリカ原産のヘリコニアという植物。陽気で楽しそうなお父さんのイメージです(笑)。

今回のように、親しい間柄の場合は、贈る人のイメージをお花にしてプレゼントするのもすてきですね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

超不器用でドジ、でも愛すべき父へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


故野沢尚さんの妻へ 20年前の感謝とともに

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だれもいない実家での一人暮らしに

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