花のない花屋

だれもいない実家での一人暮らしに

  

〈依頼人プロフィール〉
岩村厚子さん 41歳 女性
北海道在住
旅行プランナー

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今年の5月から、北海道北見市の近くにある実家に戻り、一人暮らしをしています。大学進学で家を離れてから23年、バツイチになってから16年。若い頃には、まさか将来、一人で実家に住むことになるとは想像さえしていませんでした。

17年前に父が亡くなってから、実家には母と弟家族が住み、私はそこから車で30分程の場所で暮らしていました。弟には子どもが2人いたので、それはにぎやかな家でした。その弟家族がこの春、仕事の都合で引っ越すことになり、母も4月に家を出ました。

引っ越し前、下見のために久々に実家を訪ねました。天気が悪くて寒く、家に着いたのはすでに夕暮れどき。扉を開けると、荷物も家具も何もないガランとした空間が広がっていました。昔は甥っ子たちの声がうるさいくらいだったのに……。誰もいないシーンとした空間にいると、突然寂しさがこみ上げてきて、不覚にも涙があふれてきてしまいました。寒々しい空間に、私のしゃくりあげる声だけが妙に響いたのを覚えています。

それでも無事に引っ越しを済ませ、いまは新しい暮らしを始めています。仕事が忙しく、まだ部屋はあまり片付いていませんが……。田舎なので庭はわりと広く、シャクナゲやラベンダーといったお花や、父が残したオンコの木があります。余裕ができたら、ガーデニングをしたり、部屋に野の花を飾ったりできたらいいな、と思っています。

仕事は自営業なので、2階の一室を仕事部屋にしました。いろいろと不安もありますが、庭にある父の木が私を見守ってくれている気がします。

引っ越しをして心機一転。前向きに、新しい気持ちで人生に取り組んでいけるような、ビタミンカラーの花束を作っていただけると嬉しいです。

  

花束を作った東さんのコメント

誰も住んでいない実家に一人戻ったときの寂しさ。ガラーンとした感じ、とてもよくわかります。僕も母が一人で暮らしている実家に帰ると、「昔はもっとにぎやかだったのにな」と思うことがあります。以前はいつも玄関に花が飾ってあったのですが、今はお客さんもほとんど来ないから、お花もなくて……。それだけで閑散として見えるんですよね。

そんなときの気持ちがよみがえり、部屋を照らす太陽のようなアレンジにしようと思い立ちました。ご自宅で仕事もなさるようなので、空間全体が華やぐものを。空間が華やげば、自然と気分も華やぐものです。

北海道にお住まいということなので、アレンジの中心には沖縄のがじゅまるを置いてみました。北の大自然に負けない、沖縄の“太陽”に見立てています。全体のイメージは花が咲き誇るガーデン。できるだけグリーンは抑え、これでもかというほど黄色とオレンジのビタミンカラーで埋めました。見ているだけで、明るい気分になるでしょ?

使ったのはアガパンサスの実、エピデンドラム、マリーゴールド、ピンポンマム、カーネーション、ジニア、アリウムのシクラム、紅花、スカビオサの実、カンゾウなどなど。室内に置かれるので、わざとつぼみのまま差したものもあります。

インパクトのあるビタミンカラーのお花で、明るく前向きに新生活を始めてもらえたらうれしいですね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

だれもいない実家での一人暮らしに

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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