花のない花屋

ピアノを奏でる一回り年下の同僚に

  

〈依頼人プロフィール〉
林 弥生さん 44歳 女性
愛知県在住
公務員

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ひとまわり以上年下の同僚は、「仕事は生きるための手段」と言ってはばからず、非正規の職員として働き続けています。教育関係の職場なので、この仕事を目指してくる人が多い中、今まで出会ったことのないタイプでした。

とはいえ、決して不真面目なわけではなく、勤務時間前から働き始め、帰りも遅くまで残っています。むしろ、言動や仕事ぶりの端々にきちんとやりとげたいという思いがにじみ出ていて、笑顔が素敵で人当たりもよく、おばさん受けするタイプです(笑)。年下ですが、愚痴や悩みまで聞いてもらっています。

彼は大学卒業後にすぐ就職したものの数年で辞め、アルバイトなどを経てこの職場にきたそうです。「結婚はしたくない」「やりたいことをやりたい」と言っているのを聞いたことがあります。

そんな彼は仕事のかたわら、ずっとピアノを続けています。彼の弾くピアノは、聴く人の心を揺さぶる素敵な音色です。自分で曲も作っていて、昨年は友人たちとバンドを組み、キーボードを担当するようになりました。ライブに行ったことがありますが、職場とはまた違う表情で、生き生きと輝いていました。

私は結婚していて、パートナーがいます。でも、自分の夢に向かって頑張っている彼を見ていると、「そういう生き方もあるんだ」と刺激を受けて羨ましく感じると同時に、どんどん遠くへいってしまうような寂しさも感じます。

最近、彼の夢がひとつ叶う出来事がありました。バンドがコンテストで選ばれて、フェスに出場することになったのです。7月には、32歳になる彼の誕生日もあります。素直に祝福したい気持ちと、未来へのエールも込めて東さんのお花を贈れたら、こんなにうれしいことはありません。

彼は1人暮らしで、おそらく平日はあまり植物の世話ができないと思います。でも、職場の机の上には観葉植物が置いてあったので、植物は好きなはず。もし可能なら、一つでもずっと育てられる植物を入れていただけるとうれしいです。

  

花束を作った東さんのコメント

思い切って多肉植物一色でまとめました。全部で20種類くらい使い、多肉植物を花に見立てて全体を組み立てました。けっこう珍しい種類のものが入っているんですよ。アクセントとして、チランジアやナデシコなども少し加えました。

すべて根がついたままオアシスに生けてあるので、時間がたてば根が成長していきます。ある程度大きくなったら土に植え替えると、さらに長く楽しめます。

多肉植物は、若い男性の間でいま流行っていますよね。水やりもそれほど必要がなく、手入れも簡単。日当たりも気にすることはありません。家にちょっとグリーンを置きたいというときにお薦めしやすい植物です。

「年下の彼」は音楽をやっていらっしゃるとのことだったので、形の面白い多肉植物を組み合わせ、感性を刺激するようなアレンジを目指しました。花だと男性は照れてしまうときがあるし、花言葉などで意味を持たせると少し重い贈り物になってしまいかねません。女性からのさっぱりとしたセンスのいい贈り物、というときには今回のような多肉植物やサボテンを基調としたアレンジがおすすめです。ときどき水をやって、長く楽しんでいただければうれしいです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

ピアノを奏でる一回り年下の同僚に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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