花のない花屋

百花という名をもつ小学1年生の娘へ

  

〈依頼人プロフィール〉
香さん 41歳 女性
東京都在住
専業主婦

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娘の百花(ももか)はこの春小学校に入学したピカピカの1年生です。「百花」という名前は、お茶を習っていた私が目にした「百花春至誰為開(ひゃっか はるいたって たがためにひらく)」という軸に書かれていた禅語から名づけました。

すべての花は誰に見られているという意識もなく、ただただ自分の命いっぱいに咲いている。しかし、その姿は多くの人々を癒し励まし楽しませている……。そんな花のような生き方をしてほしいという願いを込めて、長女に授けたのです。理解できているかどうかは謎ですが、おおまかに名前の由来を説明したときの娘の誇らしいような、うれしそうな表情が印象に残っています。

名前の由来を知る以前から、彼女は散歩の途中に見かける草花に興味津々で、「ママ、見て!お花きれいね~」が外に出たときの口癖でした。 落ちている草花を拾っては大切に家に持ち帰るのが日課で、水を入れた空き瓶に飾っては満足そうに眺めています。

おおげさかもしれませんが、身近にある小さな命を日々大切に扱う、という彼女の癖(?)は、私をいつもやさしい気持ちにしてくれます。小学校にあがった今も、大きなランドセルを背負って息を切らしながら「ただいまー!!」と帰ってくる娘の手には、必ず小さな植物が握られています。

今は、私が下の子の世話にかかりきりになっているので、百花には寂しい思いをさせてしまっています。おまけに小学校検診で弱視ということが判明し、慣れない眼鏡の生活も始まりました。口には出しませんが、小さな体でいろいろな思いを抱えていることと思います。 そんな長女の目を一瞬でキラキラさせる花束を贈ってあげたいのです。

百花は、おかっぱ頭で声の大きな元気な女の子です。でも、中身はプリンセス大好きな乙女。ドレスなどを着ては、1人妄想の世界にひたっています。

できれば娘も知っていそうな、身近な草花でアレンジしていただけるとうれしいです。「あそこのおうちの花壇に咲いていたお花が、こんなにきれいな花束になるんだね!」と教えてあげたいのです。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

“百花ちゃん”とは、とてもすてきな名前ですね。「手には必ず小さな植物を持って」……。思わず絵が頭に浮かんできましたよ! お花が好きな小さなプリンセスのために、ご希望通り身近な草花をできる限りたくさん集めてアレンジしました。

ダリアやガーベラ、千日紅、ブバリアなどのお花はすべてチャーミングなピンク。でも花が主役なわけではありません。あくまでもアレンジの中のポイントです。ハーブゼラニウムやマウンテンミント、アワ、コアラファン、ピットスポラムなどのグリーンをたくさん組み合わせ、子どもが喜びそうなブラックベリーやブルーベリー、ニゲラの実などを入れました。器が目立たないように、ブルーベリーの葉でまわりを囲っています。花、葉、実をバランスよく散りばめました。

僕が作ったのは、ラウンドスケープ、つまり風景です。いつも作るものは、“気持ち”を形にしたもの。想いをくみとって花の色や形で表現しますが、百花ちゃんが自由に散歩しながら空想を膨らませられる“庭”を贈りたかったのです。

いろいろな植物を使っているので、ぜひいろいろな角度から眺めて楽しんでくださいね!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

百花という名をもつ小学1年生の娘へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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