花のない花屋

お父さん、ハーフの孫ができました

  

〈依頼人プロフィール〉
マリーまり子さん 31歳 女性
カナダ・トロント在住
会社員

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就職超氷河期に大学生だった私は、大学卒業後、両親の反対を押し切ってワーキングホリデーでカナダへ行きました。みんな同じリクルートスーツに身を包み、エントリーシートを書き続けるような就活に疑問を持ち、耐えられなかったのです。新卒という就職最大の武器を棒に振って、自分がどこまでできるのか……。それでも、「やりたいことをやってみよう」と、思い切って飛び出しました。

海外に住んでいるような人は周りに誰もいなくて、「日本でちゃんと就職をしなさい」と父も大反対。半ば強引に渡航しましたが、自力で永住権を取得したときに、ようやく納得してくれました。気がつけばこちらにきて10年以上が経ちました。

父が、結婚するまでは私に家にいて欲しいと思っていたのがわかります。あるいはせめて、数年で帰国して欲しいと思っていたでしょう。でも、私はそのどちらの期待も見事に裏切り、昨年、現地の人と結婚し、すっかりカナダに根付いてしまいました。こちらで幸せな毎日を送っていますが、やはり遠く離れた場所に住んでいるので、父はいつも私の心配をしてくれているようです。

私はお父さん子でした。幼い頃、父は月曜から土曜までは早朝から深夜まで働いていたので、一緒に遊んでもらえるのは日曜だけ。唯一の休日は朝寝でもしてゆっくりしかったでしょうに、幼かった私と弟はそんなことは露知らず、朝早くから父を起こして、公園や動物園、水族館などによく連れて行ってもらいました。

社会人となった今、よほどのことがない限り週末は早起きなどしない私は、父がいかに家族と過ごす時間を大切にしていたのか痛感しています。

そんな父も、今年5月に43年間勤めてきた会社を定年退職。仕事一筋で趣味などなかったので心配していたのですが、若い頃に取った船舶関係の資格を再取得し、知人のボートで海に繰り出すことを楽しみにしているようです。

新たな人生をスタートさせた父に、ささやかなプレゼントがあります。じつは、今年の暮れか、来年のお正月に、ハーフの孫が誕生する予定です。これまでの感謝と、孫ができた報告を兼ねて、東さんの素敵なお花を贈りたいです。

父は海が好きなので、スカイブルーのお花を入れていただけるとうれしいです。また、母はガーデニングが好きなので、育てられる植物も入れていただけないでしょうか。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

テーマは「海」です。淡いブルーや白い透かしの入ったブルーの花を中心に、濃淡のある青い花を重ね、波の形をしたリーフワークでまわりを囲みました。

花材は夏の花が中心です。リンドウ、デルフィニウム、ハイドランジア、ルリタマアザミなど、大小いろいろな花を組み合わせています。お父さんに贈るブーケですが、まり子さんの妊娠の報告もかねているので、どこかにそんなニュアンスも加えたい。

そこで、クルクルした形状のテッセンの実を入れました。大人っぽいシックな青いブーケに、見た人の心を和ます“茶目っ気”“かわいさ”を足しました。

ご要望にお応えして、花が終わっても育てられる多肉植物も入れています。かなり大ぶりなエケベリア。根っこをつけたままオアシスに差しているので、植え替えて育ててくださいね。

青い花は、見ているだけで涼しげですよね。以前は、そもそも種類が少なく、持ちがよくないのでアレンジに使いにくかったのですが、最近はいろいろなものが出てきました。 今回は、定年退職のお祝いと妊娠のご報告ということなので、奇抜にしすぎないようにまとめました。何かの報告をかねてお花をあげるというのは、とてもすてきなことですね!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

お父さん、ハーフの孫ができました

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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