花のない花屋

夏休みに子どもを預かってくれた妹へ

  

〈依頼人プロフィール〉
野澤絵奈さん 40歳 女性
シンガポール在住
理学療法士

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ドイツ人の夫の仕事の都合で、欧州からシンガポールへ引っ越してきました。小学校3年生の長女と1年生の次男は、現地のインターナショナルスクールに通っています。こちらの夏休みは6月から8月中旬までなのですが、私も働いているため、子どもたちを預ける学童を探していました。すると、子どもたちが「日本に行きたい」と言い出したのです。

そこで、名古屋に住んでいる二つ年下の妹に相談すると、「うちに来たらいいんじゃない? こちらはまったく構わないよ」と言ってくれました。妹は看護師として働いており、中学生と小学生2人の子どもがいます。ただでさえ忙しいのに、仕事の合間をぬって市役所や学校を駆け回り、自分の子どもたちと同じ学校への1カ月の体験入学の許可を取ってくれました。

うちの子どもたちが日本に着いてからは、空港の送迎や食事、洗濯、宿題の手伝いまで、1カ月間も面倒をみてくれました。家に5人も子どもがいたら、日常生活をまわすだけでも大変だったでしょうに、休日はお祭りやキャンプなど、日本の夏らしい体験までさせてくれました。また、シーツや洗濯物をたたむなど、それぞれに家事の役割も与えてくれたようで、子どもたちはお客様ではなく自分の家のように居心地よく過ごせたようです。

学校では、従兄弟たちを通してすぐに友達ができたようで、たまに私が電話をしても、「忙しいから」とすぐに切られてしまうほど(笑)。シンガポールにはない学校給食や掃除の時間なども貴重な体験になったようです。子どもたちの第1言語は英語、第2言語はドイツ語ですが、1カ月で日本語も驚くほど上達して、びっくりしました。

愚痴(ぐち)ひとつ言わず、自分の子どもと分け隔てなく面倒をみてくれた妹には感謝してもしきれません。お礼を渡そうとしたのですが、受け取ってもらえず……。そこで、感謝の気持ちを込めて東さんの素敵なお花が贈れたら、と思ったのです。

ちなみに、海の日には岐阜県郡上市にある“ひるがの高原”へ子どもたち5人を連れて行ってくれたそうです。標高900メートルの高原には美しいお花畑があったと聞きました。みんなが高原で仲良く遊んでいるような、ひと夏の思い出を形にしたブーケを贈れたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

みんなで過ごした「ひと夏の思い出」を形にしたかったので、高原をイメージしてまとめました。

うちのスタッフに岐阜県出身の者がいるので、ひるがお高原について聞くと、軽いトレッキングができるコースもあるとのこと。「青や紫の花を入れてみては」と言われたのですが、寒色系の花を入れるとどうしても落ち着いた清楚な雰囲気になってしまいます。文章を読むと、子どもたちとの夏の思い出なので、生き生きとした雰囲気の方がいいんじゃないかと思い、緑と白だけで瑞々しくまとめました。

「サンザシ」「リンドウ」「宿根スイートピー」「オーニソガラム」などのかわいらしい白い花がポイントになっていますが、高山植物もちゃんと入れましたよ。「イワツクバネウツギ」「ツリフネソウ」「ベルゲニア」「カリガネソウ」の4種類です。全体的にきゅっと詰まった感じにまとまっているので、仕上げに「クライミングオニオン」という蔓をのせました。動きのある蔓を加えることで、高原に吹く風を感じるような軽やかさが出せると考えたのです。

リーフワークはルスカスの葉を尖(とが)らせて差しています。アレンジ全体が少し外へ広がって見えるようにしました。

持ちのいい植物が多いので長く楽しんでもらえると思います。季節は少しずつ秋になっていますが、これを見て楽しかった夏の日々を思い出してもらえたらうれしいですね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

夏休みに子どもを預かってくれた妹へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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