花のない花屋

亡き母の仏壇を置いてくれた娘に

  

〈依頼人プロフィール〉
大杉浩子さん 52歳 女性
愛知県在住
自営業

    ◇

一人っ子だった私は、“実家の近くに住めて転勤がない男性”という条件で、お見合い結婚をしました。将来的に、両親が年老いたらお世話ができるようにと思ったのです。しかし、実際はその逆で、結婚生活でも子育てでも、母に助けられてばかりでした。

それなのに、父が亡くなった後、20年間も母に一人暮らしをさせてしまいました。主人の手前、どうしても一緒に住むことができなかったのです。母もそれは察していて、自ら「一緒に暮らしたい」と口にすることはありませんでした。母が頸椎(けいつい)の手術をして入退院を繰り返していた頃は毎日お見舞いへ行き、デイケアセンターに通い出してからは、母の家に泊まるようにしていました。2人の娘たちもおばあちゃんが大好きで、老人ホームに移ってからも毎日、私か娘が顔を出していました。3年前に80代で他界するまで、そんな日々が続きました。

いつも太陽のように明るい笑顔で、みんなから好かれていた母は私の自慢でした。病院でも最期まで先生や看護婦さん、学生さん、お掃除のおばさんにも「ありがとう」と声をかけていたといいます。そんなすてきな人だったのに、一緒に住めなかったということが、私には心残りでした。遺骨になってからも、仏壇を家に置くことは主人に許してもらえず、「死んでからも母を一人にしなきゃいけないのか」と涙が出てきました。

しばらくそんな悲しい気持ちを抱えて過ごしていましたが、この秋、28歳の長女が結婚することになり、彼女が母の家を建て替えて住むことになりました。母の家がなくなる寂しさと、母のいた場所に娘が住んでくれる嬉しさの両方がこみ上げてきました。

母の位牌はお寺に預けたのですが、家の完成が近くなると、娘が言ったのです。「お家が新しくなったから、おばあちゃんの家も新しくする?」と。びっくりして「え?」と聞き返すと、「そのままの仏壇がいいなら、それでもいいよ」と言います。そして、いちばん日当たりのいい縁側に、母の仏壇を置く場所を作ってくれたのです。

彼も「これでおばあちゃんと一緒に住めるね」と言ってくれたそうです。感謝、感謝です。娘は仏壇開きの日を「おばあちゃんが帰ってくる日」と心待ちにしてくれました。母は私と一緒に住むことは叶いませんでしたが、今は孫と一緒です。

娘は2人姉妹の長女で、社会人5年目。友達も多く、明るい笑顔を絶やさないところはおばあちゃん譲りかもしれません。8月生まれで、まっすぐに伸びる明るいひまわりが好きですが、ピンクやオレンジのかわいいお花も好きだと思います。

私の代わりに親孝行をしてくれた娘に、感謝の気持ちを込めて、新居祝いと結婚祝いのかわいい花束を作ってもらえたら幸せです。

  

花束を作った東信さんのコメント

すてきな娘さんですね。おばあちゃん譲りの明るい笑顔というのは、きっと日だまりのようなあたたかい明るさなのでしょうね。ピンクやオレンジが好きとのことなので、その2色を軸にしてまとめました。

実はピンクとオレンジを組み合わせるのは意外に難しく、だいたいはどちらかの系統でまとめることが多いんです。今回は、初めてその組み合わせに挑戦しました。

メインはピンクからオレンジのグラデーションがなんともいえない色の「ダリア」。これは新種です。アプリコット色というのでしょうか。美しい中間色ですよね。カップ咲きのバラもアプリコット色のものを入れました。全体的にスモーキーな色を入れてピンクとオレンジをなじませています。「コンパクターの実」「ルスカスの実」など実ものもアクセントで入れています。「チューベローズ」はとてもいい香りがするので加えました。リーフワークは、あくまで花を引き立てるように入れています。

全体的にふんわりとやさしい色合いなので、最後に白い大きなエアープランツをのせて、ぐっと引き締めています。これがないと、ちょっとぼんやりしてしまうんですよね。花が終わっても楽しめるので、育ててみてくださいね。

初めてオレンジとピンクを組み合わせましたが、個人的にはすごく好きなアレンジになりました。いかがでしょうか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

亡き母の仏壇を置いてくれた娘に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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