東京の台所

<35>昭和の匂い満載の3人同居生活

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・41歳
 戸建て・3LDK・都営三田線 本蓮沼駅(板橋区)
 入居5年・築29年
 夫(43歳・会社員)、義母(71歳)の3人暮らし

    ◇

 ひとり暮らし17年を経て結婚した。広い庭とシャンデリアがある都内の2世帯住宅。隣には、夫の叔父夫婦が住んでいる。

「初めて訪ねたとき、ダイニングルームにお客様用のポットやグラスがいっぱいつまった食器棚があって、昭和の感じのするシャンデリアがぶらさがっていて。あ、実家みたいだ!ってすぐ思いました。台所にも棚いっぱいにお皿があるんです。何人家族なんだ?って思うほど。そういうのもまた実家っぽくてどこかほっとする感じで、初めて来たのに懐かしい気分になりました」

 新婚でふたり暮らしをする選択もあったかもしれないが、彼女はためらいなく義母と同居という生活を選んだ。

 実際、暮らしてみると、なにしろ来客が多い。ここに生まれ育った義母の友だちが次々と訪ねてくるためだ。

「いただきものも多くて、ダイニングのカゴにはいつも羊羹(ようかん)とか、なにかしらお茶菓子が盛ってあります。そうそう、昔はお正月になると部下の方が挨拶に来たそうで、お盆も多いんですよ。本当に何枚もある。そういうのも夫婦だけの生活にはない光景ですよね」

 共働きなので、平日は義母とは食事時間が合わないが、土日はできるだけ一緒に食べるようにしている。もともと料理が好きなので、忙しいときは手抜きもするが、3人分作るのは苦ではない。

 植物を買ったときのフラワーベースを収納に使ったり、古紙をかごに常備して台所の油拭きに使ったり、小さな工夫をするのが上手だ。味噌や梅干しを漬け、時間があればお菓子も作る。自分の好きなガラス食器のコーナーも、食器棚の端にちゃんとある。もともと義母が使っていた台所の流儀を尊重しながら、もっと暮らしやすくなるアイデアや、自分名義の道具をつけ足すしつらいが決してでしゃばっておらず、思慮深いなあと思った。

 取材が一段落すると、「お義母さんも呼びましょうか」とさりげなく呼びに行き、楽しい語らいの仲間に誘い込む。無理をせず、肩に力が入っていない接し方も自然で印象に残った。

 女は、台所の使い方にもそれぞれ流儀があり、同居生活だとひとつの台所は難しい。小さくともふたつ作るのがベターなどといわれるが、彼女はひとり暮らし生活を堪能し、やりきったんだろうなあと思う。だから、次の人生のステージで、だれかと台所を共有する生活も新しいチャレンジとして楽しめるのではないか。

 奥さんの奮闘ぶりはいかがですかと、夫に尋ねた。

「なにしろ手早くて、料理も好きだから、彼女が来てから、夕食の品数が2品は増えました。これには感謝してますね」

 と、照れくさそうに彼は言った。

 ふたりとも下戸で、食後はアイスでくつろぐ甘いもの好き。似たもの同士の、大人のカップルのダイニングには、やっぱりお菓子の鉢がいくつもあって、「ひとついかがですか」と勧めてくる。そんな実家のような丸い空気に私まで優しく包まれるようで、ただただ懐かしい気分に浸るばかりだった。

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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