花のない花屋

25歳上、スペインの太陽のような友人へ

  

〈依頼人プロフィール〉
高村木綿子さん 35歳 女性
群馬県在住
画家

    ◇

大好きな年上の友人がいます。クミさんという女性で、60歳くらい。最初は、旦那さまを介して知り合いました。旦那さまは美術の仕事をしていて、スペインと日本を行き来しています。彼の日本の家が私の家の近所だったので、たまに仕事を手伝っていました。

クミさんと娘さんたちは普段はスペインに住んでいて、毎年夏になると1、2カ月、日本に来ていました。会う度に徐々に親しくなり、2年目の夏には2人でご飯を食べに行ったり、温泉へ行ったり、家でおしゃべりをするような仲になっていました。

クミさんはとても懐が広くて、話しているとすっと心が軽くなります。何かにくよくよ悩んでいたり、考えすぎたりしていると、「な~に、そのくらいのこと!」と笑い飛ばしてくれたり、「そんなの気にしなくていいのよ」と言ってくれたり。いつも軌道修正してくれた気がします。

たまにチクリと毒の入ったことも口にしますが、クミさんの言葉には薄っぺらい感じがなくて、話していると救われたような気になるのです。頼れるお姉さん的な存在なので、まわりの人はみんなクミさんのファン。知り合ってからは、彼女がいるから旦那さんの手伝いをしていたと言ってもいいくらいでした(笑)。

そんな仲になってからしばらく経ってからのこと。東京でかなり大きな舞台美術の仕事があり、クミさんの旦那さまが中心となって、何十人もの人が作業をしていました。もちろん私も手伝っていました。その作業が大詰めを迎えた頃、スペインにいるクミさんが脳溢血で倒れたという知らせが入ってきました。意識がなく危ない状態だ、と。

クミさんがこの世界からいなくなるなんてつらすぎる! でも、舞台の本番前で、誰もスペインへ駆けつけることができません。私は、毎日ひたすら神様に祈りました。

数日後、舞台が無事に終わり、ちょうど搬出作業をしているときに、「命をとりとめた!」という連絡が入りました。泣いて喜びました。

しばらくすると、スペインにいるクミさんからメールがきました。倒れた後のクミさんからの初めての発信。写真が添付されていました。ドキドキしながら開いてみると、それはスペインで咲いた、鉢植えの椿の写真でした。

毎年夏に日本に来るたび、クミさんはどんどん元気なっていく姿を見せてくれます。考えてみれば、これまであまり感謝を伝えられずにきました。お花が大好きなクミさんに、「クミさんのいる世界はこんなに素晴らしいんだよ」と伝えられるようなお花が贈れたら……。スペインでは見られないような日本のお花で、華やかな花束を作っていただけたら嬉しいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

すてきなエピソードですね。ご要望の通り、和のお花で全体をまとめました。

紫式部、リンドウ、ケイトウ、桔梗、ホトトギス、虎の尾、千日紅、鉄砲百合、水引などなど全部で30種類ほど。蓮の実やバラの実、ヒオウギの実など、実ものもたくさん入れました。

これは和の“カラフル”な色彩ですね。しっとりとしていて、黄色や青が入っているのに全体が落ちついている。慎ましいのに華やか。和の花には、外来種にはない美しさがあります。

中心にはススキを差しました。今はピンと立っていますが、時間が経つにつれて花穂がついてふわあっと白くなり、やがて頭が垂れていきます。蓮の実も茶色く変化していきます。和のお花は枯れゆく姿がきれいなんです。そんな姿を想像しながら、枯れたときにも美しく見えるように構成しました。

ふだん和の花はアクセントとしては使いますが、メインにすることはあまりませんでした。今回、改めて魅力を再発見した気がします。

毎日水をたっぷりあげて風通しのよいところに置き、最後まで楽しんでくださいね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

     ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

25歳上、スペインの太陽のような友人へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


76歳の「イクジイ」に初めて贈る

一覧へ戻る

「幸せを呼ぶ花」という名の猫へ

RECOMMENDおすすめの記事