東京の台所

<38>築80年 DIYで再生させた長屋の台所

〈住人プロフィール〉
 DIYアドバイザー(女性)・45歳
 長屋賃貸・3DK・京急新馬場駅(品川区)
 入居3年・築80年
 ひとり暮らし

    ◇

 職業はDIYアドバイザー、収納アドバイザー、リメイク作家である。この人の手にかかると、昭和の古い椅子はおしゃれな北欧ふうスツールに、廃棄処分の桐箪笥(だんす)の背板が台所の流し台の扉に生まれ変わる。信条は「知恵を使って最後まで使い切ること」。

 ハレルヤ工房と名づけられたアトリエは、その信条を具現化するように築80年の台所が見事に再生されていた。

 作業も打ち合わせも木工教室もここで開く。毎日の昼食もこの台所。納期が近いと2階で寝泊まりし、食事を作り、菓子も焼く。地元の祭りの日は、工房の軒先で自家製の焼き菓子を売る。そのケーキもこの台所産だ。

 DIYというのはここまでできるものなのか、と彼女の台所を見ると驚かされる。よくあるステンレスの流し台をダブルシンクにして、タイルを敷き詰めた。シンクの扉には、古タンスを解体して背板を貼り付けた。扉の内側には布巾などを入れられるようブリキのポケットが付いている。

 置かれた台所道具もまた楽しい。潮干狩りでもらうアサリを入れるための網にたまねぎを入れている。壊れたライトスタンドは、スタンドだけ再利用して石けんとスポンジ置き場に。

 いつからこのような独特のリメイクが得意になったか聞いてみると、ユニークな答えが返ってきた。

「たとえは変かもしれませんが、小さい頃から、この子はなじめないだろうなって思う子の面倒を見るのが好きでした。幼稚園の時は、クレヨンでピンクばかりなくなって赤が余ってかわいそうだと思って、赤ばかり使っちゃうんです」

 古くて人に見向きもされないものや、壊れてうち捨てられているものについ惹かれてしまう理由が、その一言で私にはちゃんと伝わった。

 食器棚にはあちこちからひとつずつ買い求めたポットや器が所狭しと並んでいる。飾っているのではなく、どれも現役の風合いがある。

「好きなものに囲まれているのは幸せ。でも、飾ってながめるんじゃなくて、見立てて自分で工夫をして使う、というのが好きなんです。本来はこう使われていたけれど、こう使ったらどうだろうって、あれこれ考える過程が好きなんですね」

 最近は近所の人や友だちから、「家を壊すから、欲しい家具をとりにきて」と言われることが多い。これ以上増やしたくないなと思いながらも、ついつい足が向かってしまうとのこと。

「それで、あ、これ私を呼んでるな、なんて思って、つい持ち帰っちゃうんです」

 そんなわけで、越してきた当初は古道具がすっきり整然と並んでいた長屋は、いまや古家具や木製品だらけに。だが、少しも重苦しく感じられないのは、そのすべてが彼女の独特の審美眼で選び抜かれたものばかりだから。少々はみ出し者でも、手を加えれば美しくなり、ぬくもりが宿っているもの。そういうものを選ぶものさしがぶれてないから、たくさんあるのに、うっとうしくも騒々しくもない。

 古いものばかりではない。ディズニーランドのお土産ショップで買ったものもある。

 古今東西、新旧の生活道具が居並ぶハレルヤ工房の不思議な居心地の良さが、私の拙い写真から伝わるといいのだが。

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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