花のない花屋

会えないまま逝ってしまった父へ

  

〈依頼人プロフィール〉
河原順子さん 37歳 女性
ドイツ在住
会社員

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父と最後に会ったのは4年前の夏でした。

私は10年以上前からドイツに住んでおり、結婚をして5歳になる息子もいます。出産、子育て、引っ越しなどで帰国を延ばしていたところ、2011年の夏に父の直腸ガンが見つかりました。

私は手術に立ち会うこともできず、里帰りを打診したところ、「いま帰ってきてもらっても、病院通いや治療が大変で受け入れの態勢じゃないから」と言われ、帰国を見合わせていました。

そうこうしているうちに昨年、父のガンが再発。大腸ガンは、両肺、肝臓、さらには骨盤内にも見つかりました。術後は、排泄障害という人間の尊厳に関わる苦しみのために、人と会うことも、外に出ることもなくなっていきました。

父とは以前からスカイプでときどき話していましたが、その頃には治療の時間に縛られて自由にスカイプをすることもできなくなり、メールでのやりとりがほとんどでした。私はすぐにでも帰りたかったのですが、2年という余命を知らされていなかった父は、「もうちょっと良くなってから」と言い続けていました。

でも、昨年10月に、「帰ってきていいよ」と父からメールが届いたのです。急いで航空券を手配したところ、翌日に「まだ、待ってくれ」と再度メールが。そして1週間後、父は突然、逝ってしまったのです。

駆けつけたとはいえ、どんなに急いでもドイツからでは通夜には間に合いません。家に着くと、父はすでにお棺に入れられていました。白い菊やユリが飾られた中でのお葬式。山歩きが好きで、四季折々の自然を楽しんでいた父を思うと、ちょっと違和感がありました。

もうすぐ1周忌がやってきます。最期に立ち会えなかった父への弔いの気持ちと、父が病気になってからというもの、趣味などを一切辞めて献身的に父を支えていた母を応援する気持ちを込めて花束を贈りたいです。

見るからに供花という感じではなく、この世にいない父も思わず匂いをかぎに来るような、そして母も花をみて気分が華やぎ、かつ心が落ちつくようなアレンジをしていただけたらうれしいです。父も母も誕生日が秋なので、紅葉を思わせるような色でありながら、もの悲しさのない色合いにしていただくことはできるでしょうか。花を長く持たせるコツなどがあれば、あわせて教えてください。

  

花束を作った東信さんのコメント

秋の雰囲気でまとめました。赤く色付き始めた葉は「木イチゴの葉」。あえてこれを選んだのは、木イチゴの葉は赤く変色して美しく枯れていくのです。他の葉のようにクシュクシュっと縮れた感じになりません。時間が経つにつれて、もっと赤くなっていきますよ。

花は深みのあるオレンジを中心にまとめました。ケイトウ、ダリア、ネリネ、マリーゴールド、バラなどです。カーネーションも色の深いものにしました。アレンジの仕上げにのせたのは、ヘクソカズラ。全体的に動きが出ています。また、バラの実も加えました。 お父様は山登りがお好きだったようなので、自然にあるような雰囲気の花束を目指しています。たくさん種類を入れるというよりは、あたたかさを出すよう心がけました。「枯れてゆく秋」というより、「実りの秋」「豊かな秋」を感じていただけるとうれしいです。

  

  

  

  

(&編集部/写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

会えないまま逝ってしまった父へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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