東京の台所

<43>ワンルームに詰まった22歳の「青春」

〈住人プロフィール〉
 大学4年生(女性)・22歳
 賃貸マンション・JR中央本線 国分寺駅(国分寺市)
 入居2年・築18年
 ひとり暮らし

    ◇

 7畳の女性専用・防音ワンルームに暮らしている。友だちが次々と就職の内定を決めていくなか、広く社会の役に立ちたいという目標があり、その試験のための勉強を続けている。週4回、居酒屋のホールでバイトをし、日中は毎日机に向かう。見せてもらったたくさんのノートにはどれもびっしり文字が並び、赤線や青線が入った分厚い参考書は何度も読み返され、ぼろぼろだった。

「1日勉強をしていると煮つまるから、料理とピアノはいい気分転換です。料理は中学生の頃からやっていて好きですね。味噌汁や豚肉の生姜焼き、親子丼はよく作ります」

 朝はトースト、昼はパスタ、夜はご飯を1合炊いて半分は冷凍しておく。もっと思いきり料理をやりたいが、なにせコンロはひと口。できない料理は多い。それに就職が決まるまでは、思いきり料理をという気分にもなれないらしい。

 ひとり暮らしは大学2年からである。

「いつお風呂に入っても、いつ寝てもいいというのが自由でいいですね。それに、国分寺は学生街でもあるので居心地がいいです。定食屋やカレー屋、ラーメン屋、本屋もありますし。学生の欲しいものがそろっています」

 小中高と、なんでもきちんとがんばる子どもだった。いわゆる優等生である。だが、ひとり暮らしを始めて、少し変わった。

「しんどいとこは手を抜いてもいいんだって思えるようになったんです。どうしても料理しなくちゃというように、~しなくちゃと思わなくてもいい。勉強に疲れて、おいしいもの食べたいなと思ったときは食べに行けばいいし、コンビニのご飯でも、カップラーメンでもいい。がんばりすぎないことも大切かな、きっちりしなくて雑でもいいなって今は思うのです」

 力を抜くこと、「適当」の良さをひとり暮らしで学んだ。ボーイフレンドの歯ブラシが台所の隅にあった。あ、と私がシャッターを切りながら言うと、「ふふ」と首をすくめた。チャーミングな笑顔。就活におわれながら、それでも今日という1日を自分なりに精一杯楽しんでいる。恋とバイトと勉強と。ままごとのような小さな台所つきワンルームに、彼女の青春がめいっぱいつめこまれている。

 ところでなぜ、社会に役立ちたいと思ったのだろうか。

「ひとり暮らしをして、ああ母は私のためにいい調味料やいい食材、いい器を使ってくれていたんだなあと気づきました。女手ひとつで、いい教育も受けさせてもらった。だから少しでも還元したいのです」

 彼女の言葉を聞いて、私はそそくさとカメラ機材をしまい始めた。目頭が熱くなってしまってどうにもたえられなかったのだ。

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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