花のない花屋

東京・長野の別居婚 会えない夫に

  

〈依頼人プロフィール〉
平木しおりさん 27歳 女性
長野県在住
学芸員

    ◇

11月に、8年間付き合った人と結婚しました。彼と出会ったのは大学1年生のとき。彼は経済、私は美術史を勉強していたので学部は違ったのですが、合唱サークルで知り合いました。

お互いに許容範囲が広いのか、またはのんびりしているのか、大きな喧嘩(けんか)をしてもすぐに仲直りをして、別れることもなくここまできました。

彼も私も大学院へ進み、卒業後、彼は東京で銀行員に、私は長野で学芸員になりました。東京と長野でずっと遠距離恋愛をしていて、結婚した今も別居婚です。私の休みが土日じゃないため、どんなに頑張っても会えるのは月に1、2回。「いつかは一緒に住みたいなあ」とお互いに話していますが、私はせっかく好きな仕事につけたので働き続けたいと思っています。

私の仕事はそれほど採用の多い職種ではなく、欠員があったときにしか採ってもらえません。一度離れてしまうと再びその職に就くのは難しいことは彼もわかってくれています。私のわがままと優柔不断を受け止めて、無理を言わない彼には申し訳ないな、という気持ちもあります。

“別居婚”という形で新しい生活が始まったばかりですが、近くにいられなくてもいつも一緒だよ、という気持ちをお花にして贈れたらうれしいです。優しい彼にありがとうという想いと、わがままな私だけどこれからもよろしく、そして早く一緒にいられるように私も頑張るね、という想いも込めて……。

枯れてしまった後も育てられる植物を入れていただけるとうれしいです。私は白い花が好きなのですが、「あたたかい気持ちになれるように」と、結婚式はオレンジや黄色など暖色系でまとめました。結婚式のことを思い出してもらえるよう、そして1人の家に帰ってきてもあたたかい気持ちになってもらえるよう、暖色系の花でアレンジをしていただければ。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

“宿り木”をメーンにしました。ときどき、木に丸い鳥の巣のようなものがついていますよね。木に寄生しているその植物が宿り木です。

宿り木にはなぜか幸せにまつわるエピソードが多いんです。欧米では、「宿り木の下でキスをすると結ばれる」とか、「クリスマスの時期は宿り木の下にいる女性にキスをしてもいい」なんていう言い伝えもあります。おふたりが離ればなれであっても心がつながっていられますように、いつまでも幸せでいられますように、という願いを込めてアレンジしました。

ご希望通り、暖かみのあるオレンジや黄色がメーンです。サーモンピンクのバラは花弁がフリルになっている珍しいタイプ。ダリアは“ピーチシリーズ”と呼ばれる淡いピンクやオレンジの種類で、とても人気があります。花火のような花は“ピンクッション”です。ピンク系でまとめた部分は、平木さんをイメージしました。かわいらしい花をみて、奥さんのことを思い出してくれたらいいなと思って。

リーフワークは、やわらかい印象になるようにヒカゲを使っています。宿り木は自然の木なので、ナチュラルな印象のある葉が合うんですよね。

仕事が終わってひとりで家に帰ってきても、しばらくは花が待っていますよ。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

東京・長野の別居婚 会えない夫に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


私の応援団長、94歳の祖母に

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ボリビアへ発つ友に感謝を込めて

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