東京の台所

<51>青春の続きはオープンキッチンで

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・27歳
 賃貸マンション・1LDK・中央線 中野駅(中野区)
 入居1カ月・築1年

 中野の町が好きで、駅をはさんで2カ所に住んだ。新宿に近いのに庶民的で物価が安いのも気に入っているが、最大の魅力は、学生時代の友だちがみな近所にいること。キャンパスが中央線沿線だったので、必然的にそうなった。

「いまだに週2~3回は、学生時代の友だちと会います。『ちょっと飲もうよ』ってラインで誘いがきたら、すぐに落ち合えるのがいいですね。短い時間でも、会うとほっとするし、こんなミスしちゃったという仕事の些細(ささい)な話もきいてくれる。どんな失敗も受け入れてくれるあたたかさが、居心地がいいんです」 

 1カ月前、オープンキッチンのこの家に越してきた。それからは、友だちがここに集まることも多い。

「前の家は、台所と部屋が分かれていたんです。だから料理するときは孤独で。今の台所はいっさい収納もないし、なにもかもが丸見えですが、わいわい話しながら料理をできるところがとても気に入っています」

 得意料理はロールキャベツ。トマトが大好きなので、トマト味にする。友だちと、料理のお裾分けをしあうこともある。

 ハードな広告の仕事をしている。おそらく彼女にとって、中野は何も飾らない素の自分に戻れる街。完全なるオフの空間だろう。

 来年は「友だち10周年」なので、みんなでパリに行く予定だという。社会人になってから結婚するまでの間、私も学生時代の友だちとよく会っていた。それが支えだったし、アイデンティティーの拠り所でもあった。関係がその先どうなるかは誰にもわからない。わかっているのは、損得抜きに「あなたはあなたのままでいい」と言ってくれる友だちはかけがえがないということ。そして、そんな友が近所に住んでいる街はさらにかけがえがない。

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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<50>長屋の6畳で週末、宴会天国

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<52>引き出し閉め忘れてもケンカしない

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