花のない花屋

福島でひとり暮らしする78歳の母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
大川智恵さん(仮名) 47歳 女性
福島県福島市在住
主婦

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両親はともに花が好きで、以前は家でたくさんの鉢を育てていました。庭には柿やいちじくなど食べられるものもたくさんありました。

けれども、2011年の東日本大震災が起き、家は半壊。いわき市の自宅は断水が続いたり、物資が不足したり、住めるような状態ではなかったので、震災から半年間、両親は避難生活を強いられました。箱根の保養所、赤坂プリンスホテル、台東区のビジネスホテルなど、避難先を点々としている間に、大事にしていた家の鉢ものはすべてだめになってしまいました。

自宅に戻ってからは家の補修などで忙しくしていましたが、昨年1月末、父にすい臓がんが見つかりました。すでに末期の状態で、その半年後に亡くなってしまいました。母はもちろん覚悟はしていましたが、余命宣告の時期よりも早く逝ってしまったため、ショックを受けていました。

今は減築した家に母ひとりで住んでいますが、父が亡くなって以来、どうしても家に引きこもりがちになっていて心配です。私は福島市に住んでいるため、月に1回程度しか会えません。震災と父の死で心労が続き、最近は仏壇に花をあげる以外は、花や庭の手入れまで気が回らないようです。

この2月、78歳を迎えた母に少しでも気持ちが明るくなるようなお花を贈りたいです。春に向けて、気持ちが自然に外に向かうような、そっと背中を押してあげられるようなお花を作っていただけないでしょうか。

最近は筋力の衰えのため、水を入れた重い花瓶の移動は少し大変そうなので、水替えの手間があまりかからず、長期間楽しめる花で作っていただけるとうれしいです。

ちなみに母は淡いオレンジ色のバラやスズランが好きです。かつては自宅でオーダーメイドのニットを作ったりしていました。私が小さかった頃は、洋服はほとんど母の手作り。既製服はほんど着ませんでした。若い頃は、山歩きが趣味で高山植物にも詳しかったのですが、最近はもっぱら家で映画のDVDを見たり、越路吹雪さんや菅原洋一さんなどの好きな歌手のCDを聞くことを楽しみにしています。

  

花束を作った東信さんのコメント

この3年間、大変だったのですね……。震災の影響で住まいを転々としたり、旦那様をなくされたり。そんなお母様へのお花ということだったので、とにかく明るい気持ちになってもらえるようなアレンジを目指しました。

使った花材は、主に福島県で生産されたものです。中心に挿した美しいピンクのグラデーションのダリアは“ピーチシリーズ”と呼ばれ、福島県の農家が開発、普及させたもの。とても人気があります。写真では見えにくいですが、ラナンキュラスも福島県産です。

ほかに、チューリップやバラ、ガーベラなど春のお花を散りばめました。ガーベラはスパイダー咲きという種類で、花弁が細く長くツンツンしています。

お母様がお好きというスズランも入れました。とてもいい香りがします。昔は鉢モノもたくさん育てていたということだったので、これを見て、またお庭に出てみようと思ってくれたら……。

昔は洋服もすべてほとんど作ってくれたとのこと。手先が器用でとてもやさしい方なのでしょうね。そんなやさしい雰囲気が全面的に感じられるようなアレンジを目指しました。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

福島でひとり暮らしする78歳の母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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