花のない花屋

行きつけの小さな花屋のお兄さんに

 

〈依頼人プロフィール〉
岩橋 尚子さん 41歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

私は花が大好きです。おそらく7年前に96歳で他界した祖母の影響です。

祖母はガーデニングに夢中で、庭には香水のようないい匂いのする白いバラなど、さまざまな花がありました。彼女が生きている間に、私は花を買うことがなかったほどでした。祖母の家へ行けば、いつもいろいろな花をもらえたからです。

でも、4年ほど前に亡くなってから、庭は荒れ放題になりました。花が枯れるのと同じように、私の心も寂しさでしおれ、しばらくは花から遠ざかった生活をしていました。

そんな折、家の近くに小さなお花屋さんができました。ごくごく普通のお花屋さんなのですが、何げなく入ってみると、家族経営のアットホームなお店で、店主らしきお兄さんが「ゆっくり見て行っていいよ」と声をかけてくれました。

それからというもの、仕事帰りなどに週1回ほど立ち寄るようになりました。行くたびに、お兄さんは花の名前や育て方を教えてくれて、いろいろとおしゃべりするようになりました。

ある夏の日に胡蝶蘭(コチョウラン)を買ったときは、あまりの暑さですぐに枯れてしまい、お店に相談に行ったら、他のものと取り換えてくれました。3月14日にたまたま行ったときには、「ホワイトデーだから」と言って白いカラーの束をくれたこともありました。思いがけないサプライズがとてもうれしかったのを覚えています。

昨年、東さんがブシュロンのジュエリーと花をアレンジしたときは、私も実物を見に行き、あまりに素晴らしかったので、花屋のお兄さんにもすすめました。彼もすぐに行ったらしく、「とてもよかったよ」と報告してくれました。

花屋のお兄さんとの出会いで、再び生活に“華やぎ”が出てきた気がします。私に再び花の素晴らしさを教えてくれた花屋のお兄さんに、日頃の感謝の気持ちを込めて花束を贈りたいです。

お兄さんは40代で、赤いTシャツを着ていることが多いです。好きな花はアマリリスだそうです。花屋さんに花を贈るなんてちょっと変かもしれませんが、思い切って斬新な花束を作っていただけたら、うれしいです。

 

花束を作った東信さんのコメント

花屋のお兄さんはアマリリスが好きとのことだったので、アマリリスの球根を10個入れました。日に当てて水をあげれば、どんどん芽が出てきますよ。

僕は個人的にも球根が好きで、作品にときどき使ったりします。“生命の塊”のような気がするんですよね。

「斬新なものを」というご希望があったので、中心にはゼンマイを、その根本にはハナエンジュというマメ科の植物を使いました。ハナエンジュはきれいな花を咲かせますが、それが終わると今の状態のような豆になるのです。

全体にはヒカゲを使ってボリュームを出しました。シンプルだけれども、それぞれ質感が違って、造形的にも面白いアレンジになったかなと思います。花屋のお兄さんにびっくりしてもらえたら嬉しいです。

 

 

 

 

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

行きつけの小さな花屋のお兄さんに

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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