花のない花屋

55歳でトリマーになった母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
福野裕美さん 30歳 女性
岡山県在住
大学教員

    ◇

53歳でトリマーになる夢を見つけ、見事に実現させた母にエールを込めて花束を贈りたいです。

母はこれまで専業主婦をしながら10年以上、福祉作業所でパートで働いていました。一念発起したのは2年前。飼い犬のたみ(トイプードル)をかわいがるあまり、「この子のトリミングを自分でやりたい。トリマーになりたい!」と言いだし、突然パートを辞めたのです。

そして、10代、20代に混ざって専門学校に通い、トリミングをゼロから勉強し始めました。私は内心、「よく若い子と一緒にやっていけるなあ」と思っていましたが、夢を追う母はキラキラと輝いていました。

これまでは、私が何かにぶつかって「大変だ」とぼやいても、あまり共感してもらえませんでしたが、学校に通い出してからは、母も「夢を追うって大変だよね」と言ってくれるように。

昨年、卒業間近になって、「もう辞める」と弱音を吐いたこともありましたが、そのときは私が「絶対に今、あきらめちゃだめ!」と励ましました。

そしてとうとう昨年11月、トリマーの資格試験に合格し、自宅でドッグサロンを開業するまでになったのです。今はトリマーとして日々奮闘しています。

私自身は大学卒業後、教育学の研究者になる道を選びました。今は仕事の都合で遠方におり、母には寂しい思いをさせてしまっているかもしれません。夢を追うことは時に辛く、他人が思うほどきれいなものではないとも感じています。

でも、「夢を追う人」は輝いて見えるのだと、トリマーに挑戦した母を見ていて知りました。母にはこれからもその無鉄砲なチャレンジ精神を忘れず、突き進んでほしいです。

そして私自身、53歳になっても、母のように新しい夢を見つけてチャレンジできるような人になりたいと思います。

母は、昔からトールペインティングやパッチワークを習っていて、可愛い雑貨が好きです。好きな色はサーモンピンク。そんな母に似合う花束を作ってもらえると嬉しいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

見事に自分の夢を叶えたお母さん、すてきですね。おめでとうございます!

“新しい門出”というイメージで、桜を中心にまとめました。ちょっと多めに枝を入れ、華やかに見えるようにしています。まだ蕾(つぼみ)のものがありますが、3日後くらいには満開になるはず。さらにボリュームが出ますよ。

桜の下には、チューリップ、ガーベラ、ブバリア、ラナンキュラス、スカビオサなど、いろいろな春の花を入れています。すべてお母さんが好きなサーモンピンク系にしました。

リーフワークはツバキの葉。桜と質感を合わせ、和の雰囲気を出しています。全体が華やかなので、落ちついたリーフワークで引き締めます。

前向きなエピソードだったので、とにかく「うわあ!」と感激してもらえるような、ボリュームのあるアレンジを目指しました。反応はいかがでしたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

55歳でトリマーになった母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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