東京の台所

<63>法事で気づいた自分の意外なDNA

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・35歳
 賃貸・2DK・東京メトロ 日比谷線 中目黒駅(目黒区)
 入居1年・築19年
 

 この前の日曜日は、友だちふたりがご飯を食べにきた。ワイングラス片手に、夜更けまでおしゃべりした。土曜日には、弁当を作って新宿御苑でピクニック。キーマカレーをたくさん作って、近所の公園でシートを広げてみんなで食べることもある。食事を外に持ち運ぶ専用のバスケットもある。
「人に食べてもらうのが好きなんです。母は栄養士で、やっぱり食べてもらうことが好き。私は28歳まで熊本で外資系企業の立ちあげを手伝っていたのですが、母が会社の人の分まで差し入れを持たせてくれたので、だんだん同僚もそれを楽しみにするようになっていました」
 その後、上京して転職。今は、東京でできた友だちや九州出身の友だちのたまり場と化している。
 エレベーターのない古いマンションだが、不動産屋に案内されたとき、ミルクホワイト色で統一されたその部屋をひと目で気に入った。
「お風呂とトイレが一緒のユニットスタイルで狭いのですが、テラコッタ風のタイルが貼ってあり、シンプルな洗面台も、私にはおしゃれに見えた。古いし、女性にはどうでしょうかと不動産屋さんは心配そうでしたが、私は“ここにします!”と即決しました」
 中目黒の住宅地で、渋谷や恵比寿にも近い。都心でちょっと遊んだ後に寄れる、友だちにとっても最高に居心地のいい隠れ家というわけである。
 ひとかかえもありそうな、パイレックスの耐熱容器は、家での宴会に欠かせない。これでラザニアなどオーブン料理をどーんと作る。
 もてなし好きは母親譲りと思いきや、去年の秋、法事で大分の祖母の実家に集まったときに、はっと気づいた。
 親戚一同で、外の料理屋で食事をしたあと、82歳の祖母の家にぞろぞろと移動して、また酒盛りが始まった。料理好きの祖母も、とびきりおいしい甘い卵焼きや昆布の煮染めを作っていたが、親戚が肉だの、ワインだの、スイーツだのをそれぞれ取り寄せて、事前に祖母宅に送っていた。申し合わせたわけでもないのに。それをみんなで盛りつけて、宴会は夜遅くまで続いた。
「ああ、おいしいものをみんなでつつきあって食べるのが好きなのは、この一族の血筋なんだ、とわかりました」
 そんな彼女はあるとき、妹にこう言われたことがある。
「ばあちゃんに似てきたねー」
 ひとり暮らしでいながら、いつも化粧をして身ぎれいにして、料理上手で、来客が多い祖母。そう言われて、ちょっと嬉しかったに違いない。ところで、その法事の日、あなたは何を持っていったのですか?
「私? ちょうどその前に軽井沢に旅行したので、現地からハムとチーズを送りました。みんなで食べたいなと思って」

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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